名探偵

「あの、これどこに向かってるんですか?」



 第七師団支部を出てから真っすぐ東に飛んでいるが、まだ目的地を聞いていない。

 もうすぐ国境付近だ。このままでは国外へと出てしまう。



「ん? ああ、そう言えば言っていなかったな。これから向かうのはカルデネ洞窟だ」

「カルデネ洞窟? それって国境線上にある? なんでそんなところに?」

「ちょっと前々から気になっていた場所で調べたかったんだが、国境線上ってこともあって、外交問題になるとか何とか言われて調査の許可が下りなかったんだよ」

「確か、この先にあるのはタイタンですよね。敵国なんですからそれは許可なんか、おりる……わけ……ってちょっと待ってください! ダメって言われているところにこれから行く気なんですか!?」

「そうだが?」



 なんでそうあっけらかんと……。



「もちろん許可は……」

「取ってない。だって、言ったらダメって言われるじゃん」



 オーマイグッスネ。



「それって後でバレたら戦争になるじゃないですか!? 大問題ですよ!?」

「そう、つまりバレなきゃいいんだ」

「そうじゃないですって! ていうか、もし仮にカルデネ洞窟で大罪魔法に関する情報を手に入れたらどうするんですか!? 報告しないとですよね!?」

「そんなもん、見つかってから考えればいいだろ。見つからなかったら、報告しない方向でいいじゃん?」



 ダメだこの人。全裸以外は普通の人かもしれないと思ってたけど、そんなのは儚い夢だった。ズボンを履かないだけに……。

 ってそんな冗談言ってる場合じゃないって!



「ゼルも何とか……」

「ん? なんだぁ?」



 うっわ、すっごい嬉しそうな顔。



「敵国との国境線付近なんだろ? もしかしたら、そいつらと戦うかもしれないってことだろ? それでそいつら倒したら、また俺の評価がうなぎ登りだな」



 話を振った私がバカだった。



「ねぇ、ヘイヴィアは? やめた方がいいと思うよね!?」



 望み薄だが、一応ヘイヴィアにも聞いてみる。望み薄だけど。



「まぁ、そうだな……。辞めてもいいんじゃないか?」

「そうだよね! ……って、え? なに? どうしたの?」



 なんかいつもと様子がおかしい。さっきまでこんなんじゃなかったのに。



「どうしたって、何が?」

「何がって言われても、こうとは言えないんだけど。なんか大人しいし」

「別にいつもこんなんだろ」



 ウソだ! いつもは事あるごとにゼルに絡んで、うるさいくて面倒くさいのに!

 とは、流石に言えない。

 元気がない、というよりは何か思い悩んでいるように見える。



「腹の調子でも悪いのか? 何だったら帰ってもいいぞ。任務なら俺がいれば平気だし」



 あーあ、またゼルが余計なことを言い出した。

 そんなこと言ったら、ヘイヴィアが怒って……。



「そう、だな……。今回はお前たちだけでもいいかもな」

「あ、あれ?」



 ゼルの喧嘩を買わずに、やけにしおらしい態度を取るヘイヴィア。

 鈍感なゼルもこれには驚きを隠せず、私と顔を見合わせて二人して首を傾げた。

 どう考えてもおかしい。いつものヘイヴィアじゃない。

 今回の任務に関係しているとは思うけど、一体何だろう?

 教えてくれそうな雰囲気でもないし。



「無駄話はそこまでだ。着いたぞ」



 そう言って、ベルヴェットさんは箒の高度を下げていく。

 どうやらカルデネ洞窟の入り口付近に到着したようだ。



「よっ!」



 私の後ろに乗っていたゼルは高度を下げる前に箒から飛び降りた。



「あ、もうゼル……」



 なんか当たり前のように私の後ろに乗っていたけど、お礼の一つもないの? まぁ別にいいけどさぁ。

 少し遅れて私とヘイヴィアは一緒に箒の高度を下げて地面に着地する。

 私たちだけでもいいとか言っていたが、結局ヘイヴィアは帰らず黙って私たちについてきた。



「ここがカルデネ洞窟の入り口か。なんかホントあれだな。洞窟って感じの入り口だな」



 ゼルの言う通り、入り口は装飾されていたりせず、自然に空いた穴のようだった。大きさは大体人三人分ぐらいの大きさで比較的大きめだ。



「中は暗い。これを持っていこう」



 ベルヴェットさんが取り出したのはランプの魔具。魔力を流しこめば誰でも明かりをつけられる優れもの。使い勝手がよく魔具の中でも比較的安価で手に入る代物だ。



「それじゃあ、君たちは俺の後についてきて」



 ランプを持ったベルヴェットさんを先頭に、ゼル、私、そしてヘイヴィアと続く。



「何もねぇなぁ~」

「それはそうでしょ。まだ入ったばかりだし」

「なんかこう、侵入者を排除するトラップとないかなぁ~」

「ないでしょ。ただの洞窟なんだから。てか、トラップなんてない方がいいでしょ」

「でも、何もない洞窟よりは楽しみがある」

「その楽しみのせいで命落とすようなことになったらシャレにならないんだけど?」



 ゼルは割とその場のノリで話していてあまり何も考えてない節がある。

 勘弁してほしい。いちいちツッコむ方の身にもなってほしいのもである。

 いや、まぁ無視すればいいだけなんだけどね。



「ん? 光が見えてきた」



 洞窟の中に入ってからしばらくすると、目の前から明るい光が漏れ出てきた。



「お! 出口か!?」

「あ! ゼル!」



 光を見るなりゼルは何も考えず突っ走っていった。



「もう! 団体行動って言葉を知らないの?」



 私たちは急いでゼルの後を追う。



「出口、じゃねぇな」



 思いのほかすぐ追いつくことが出来た。

 何故ならゼルが立ち止まったからだ。



「どうしたの? 急に立ち止まって……、ってあれ?」



 ゼルが立ち止まった理由は見れば明らかだった。



「私たちがいたのは洞窟だったよね?」

「ああ、そうだな」

「でも、これって……」



 洞窟を進んだその先にあったのは、綺麗に整地された通路だった。

 その通路の両側の壁には一定間隔でランプが設置されており、先程見えた光はこの明かりだった。



「どう見ても洞窟ってよりも、遺跡っぽいですね」

「うん、そうだね。これは……」



 ベルヴェットさんは洞窟と遺跡の境目を触りながら詳しく調べていた。



「推測するに遺跡への通路はごく最近になって見つかったんだろう。恐らく少し前まではここで行き止まりだったはずだ」

「そんなことが見ただけで分かったんですか?」

「ああ。ほら、ここを見てみ。洞窟と遺跡の境目。少し溝があるだろう?」



 ベルヴェットさんが指した地面を見ると確かに不自然な溝があった。



「で、その溝から見える遺跡の床側面が少し擦れている。多分だが、行き止まりに見せかけた壁が横にスライドしたんだろう。隠し通路では定番の仕掛けだな」

「な、なるほど……」



 あれ? この人、もしかしてただの露出癖のある変態じゃない?



「それと遺跡の壁の所々に描かれている文字だけど、あの独特な象形文字は古代ミケラ文字だね。あちらこちらが崩れて文字がとびとびになってて読めないからなんて書いてあるかは分からないけど」

「え、古代ミケラ文字って最近になって解読されたって言うあれですよね。ベルヴェットさん読めるんですか?」

「読めるって言うか、それを解読して発表したのは俺なんだけど?」

「はい?」



 解読した? あの文字を?

 古代ミケラ文字は何百年もの間研究されてきてそれでも解読できなかった代物ですよ?

 それを解明したですって?

 もしそれが本当なのだとしたら、なんでこの人騎士団にいるの? 考古学者とかの方がいいんじゃないの?

 あと、あれなんですね。知的な眼鏡は伊達じゃなかったんですね。

 この人、ただの変態じゃない。



「あの~、ベルヴェットさんって考古学者とかそっち系の人ですか?」

「ん? いいや、違うよ。俺は探偵さ」

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