カラメラ

「今日もカラメラが舞ったよ」


 彼女の口癖を、僕だけが知っていた。


 ああ、くすぶっている。


 煙たさがあるのか? 蠱惑こわくとして、直感が脳髄を突き上げて見せに来るのか?


 カラメラは、底無し井戸に浮かんだ瞳孔どうこうのごときでした。


 カラメラが今日も舞ったよ、と言う割には、毎日見に行くわけじゃあ無かった。


 しかしながら、そもそもカラメラが何なのか、勿論もちろん、観察の最後には二人とも覚えちゃゐない。


 カラメラは、終わりまでにかたちには成らなかった。代わりに義務教育から高校、少しだけ大人に近づく恒常こうじょうに偽装されたコンクリ舗装ほそう剥離性はくりせい


 数字をにらむ。

 三拍子、ノートを取る。


 単語を眺める。

 寸分すんぶん狂わずペンで突く。



 やがて季節はめぐり、石段ける、二段飛ばし。



 神社の鳥居とりい抜けたとき、打ち上げ花火。打ち上げ花火。


 唱えた言葉はき消えて。


 大会プログラム全終結。水桶みずおけ置いて、線香花火せんこうはなび線香花火せんこうはなび


 今度は静寂せいじゃく鬱陶うっとうしくて。


 ただ一つ、最後の一本うねって吊るして線香花火。線香花火。



 光源が照らさずとも知っていた。


 だうせ彼女も消えていく。


 だうせ彼等かれらが手にしてく。


 だうせ僕だけが帰れない。









 通りゃんせ。通りゃんせ。















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