フラメロ 〜ホッカイドウ・ファンタジー〜

北乃大地

第1話 ラベンダー村のぼうけん

フラノ


 のぶ君は、おじいちゃんとおばあちゃんが、ホッカイドウという大きな島に住んでいるので、毎年夏にホッカイドウへ遊びに行きます。今年は、お父さん、お母さん、弟のあっ君、それから、おばあちゃんといっしょに、そのホッカイドウのフラノという町に遊びに来ました。フラノはラベンダー畑で有名なところです。そこで、さっそく、その有名なラベンダー畑にやってきました。


 ラベンダー畑は、一面紫色のラベンダーで埋め尽くされていて、とてもきれいなところです。お父さんが「いい眺めだなぁー」とリラックスした表情でラベンダーの丘を眺めていると、お母さんが「この頬を撫でるようなゆるりとしたそよ風が気持ちいいわ」とうっとりとしています。のぶ君も、そんなお父さんとお母さんを隣にして、幸せな気分でラベンダーたちを眺めていました。すると、ちょっと向こうのほうから子供たちが大きな声を出して騒いでいるのが聞こえてきました。のぶ君は、何をしているのだろうと近づいてみました。すると、その子供たちはラベンダーを踏みつけて遊んでいるのです。のぶ君は、ラベンダーがとっても可愛そうだったので、勇気を出して「やめろー!」と叫びました。すると、その子供たちは、「やべぇ」と言って逃げていきました。


ラベンダーの妖精


 のぶ君は、ラベンダーがこれ以上踏みつけられずにすんで、ほっとしました。そして、お父さん、お母さんのところへ戻ろうと歩いていると、何か小さな声が聞こえてきました。

「ありがとう」小さな声はそう言っています。誰が喋っているんだろうと周りを見回しましたが、誰もいません。

「ここだよ」と、また、声がしました。また、周りを見回しましたが、誰もいません。

今度は、「ラベンダーの花のところだよ」と声がしました。

のぶ君は、まさかぁと思いながらも、近くのラベンダーの花をじーっと見てみると、その花の後ろのあたりに虫のようなそうでないような不思議な存在がいるではないですか。のぶ君は、びっくりして、しりもちをついてしまいました。

「は、は、は、そう驚かないでよ」と、その存在は、にこにこしながらいいました。

「き、き、きみは誰だい?」と、のぶ君は、恐る恐る聞いてみました。

「ぼくはね、このラベンダー村に住んでいる妖精だよ。名前は、フラメロというんだ。よろしくね」

「う、うん、よ、よ、よろしく。ぼくは、のぶひろだよ」

「よ、よ、ようせい?妖精なの?」

「まぁ、妖精って言うと人間には分かりやすいかなと思ったんだけど、ぼくはね、ホッカイドウそしてこのフラノの自然を守るような仕事をしている生き物とでも言っておけば、いいかな?」

「そ、そうなんだ。妖精だから、羽も生えてるんだね。魔法も使えるの?」

「まぁ、君たちから見ると魔法のようなこともできるよ。たとえば、時間を止めたりできるんだよ」

「えー、それは、すごいなぁ」

「ところで、きみのことは、のぶ君、と言えばいいかな?」

「うん、それでいいよ」

「のぶ君、きみは、ずいぶん勇気があるね。さっきは、ラベンダーたちを守ってくれてありがとう。それでね、君の勇気をたたえて、今晩このラベンダー村の夕食会があるから、招待したいなと思ったんだけど、来てくれるだろ」

「うーん、でも、お父さんとお母さんに聞いてみないと」

「ああ、お父さんとお母さんに相談してからでいいよ。今日の夜6時にここに来てくれるかな。案内するからさ」

「うん、分かった。今晩の6時だね」

「それじゃぁ、待ってるよ」と、フラメロはそう言ったと同時に、消えてしまいました。


 のぶ君は、信じられなくて、しばらくボーっとしていました。気が付くとお母さんが呼んでいます。お母さんのところへ走っていって、

「お母さん、いまね、ラベンダーの妖精にあったんだよ」と言いました。

「ええ、なに、なに?妖精とかいったかしら。夢でも見てるの?大丈夫?」

「ちがうよ。本当だよ。でね、今晩6時にここでご馳走してくれるんだって」

「ご馳走?のぶ君は、もうおなかがすいたのね」と、お母さんは、本気にしてくれません。のぶ君も、自分でもまだ信じられないくらいですから、お母さんが信じてくれないのも無理もないやと、その話はやめることにしました。


 その後、牛乳を作っている工場へ行って、そこでアイスクリームを食べて、「おにいちゃん、これうますぎる!」とあっ君が大興奮で、のぶ君もその濃厚な味にとろけそうになりました。そのアイスクリーム屋さんの隣のおみやげ屋さんでは、水鉄砲のおもちゃをおばあちゃんに買ってもらいました。のぶ君とあっ君は、さっそく、水鉄砲で、ばきゅーん、ばきゅーんと戦争ごっこを始めました。


ホテルの夕食


 夜になりました。のぶ君は、昼間ラベンダー畑で会ったフラメロのことはすっかり忘れて、みんなで晩御飯を食べていました。ホテルのレストランのバイキングでは、いろいろな料理があって、とてもおいしくて、大満足でした。ただ、グリーンピースは嫌いなので、サラダの中でそれを一つ一つ見つけては外していると、「のぶ君」と呼ぶ声がします。あれ、なんか聞いたことある声だなぁ、と思っていると、なんと、今食べようとしているサラダのブロッコリーの陰から、あのフラメロが出てきたではないですか。


「のぶ君、今晩6時の約束だろう。来ないから探しにきたんだよ」

「ごめんごめん、お母さんに言ったんだけと、信じてくれなくてさぁ」とひそひそ声で返事をしました。

「まぁ、しかたないよ。大人には僕ら妖精のことは見えないんだよ。だから、信じることはできないのさ」

「そうなんだ。大人には見えないんだね。君達って。え、妖精って、他にもいるの?」

「ああ、仲間の妖精はいっぱいいるよ。そのうち会えるよ。じゃ、君を夕食会に連れて行きたいから、これから、大人の時間をちょっとだけ止めちゃうよ」

「うん、いいけど。あっ君も連れていっていいよね」

「ああ、もちろんさ。それじゃ、時間を止めるよ。アダマール!」フラメロがそういうと、まわりの大人たちは動きを止めてしまいました。

お父さんなんか、メロンを口に入れようとしたまま止まってしまって、のぶ君は笑いをこらえるのに必死です。

「それじゃ、いまのうちに、ラベンダー村へ行くよ」

フラメロがつえのようなものを空中で動かすと、周りのものが巨大化していきます。

のぶ君とあっ君が驚いていると、フラメロが

「ごめん、ごめん、ちょっと驚いたよね。これから、行くところは、とっても小さい家だから、ちょっとだけ、のぶ君とあっ君にも小さくなってもらったよ」といいました。

さらにフラメロがつえのようなものをふると、羽のようなものが出てきました。

そして、フラメロがそれをのぶ君とあっ君の背中に付けました。

「これで、ふたりとも、僕みたいに、空を飛ぶことができるよ。やってごらん」

「やってごらんって、どうやるの。」とあっ君が聞きました。

「簡単さ。飛ぶぞーって、念じるだけだよ」

のぶ君とあっ君は「飛ぶぞー」とやってみました。すると、ふわっと宙に浮くではないですか。

「すごーい!」とのぶ君もあっ君も大喜びです。

「じゃぁ、次は、前に進むぞー、って思ってごらん」

のぶ君とあっ君は、今度は「前に進むぞー」と念じたところ、じわっと前に進みました。

「やっほーい!これは、楽しい!!!」とあっ君はご満悦です。

のぶ君も、恐る恐る練習してみて、なんとか飛ぶことが出来るようになりました。

「それじゃ、僕の後についてきてよ」とフラメロがいいました。のぶ君とあっ君はフラメロの飛ぶ後をついて行きました。

 ホテルの中を抜けて外に出て、しばらく林の中を飛んでいると、昼間のラベンダー畑の上にきました。そして、さらに木々の枝の間をすり抜けていきます。スリル満点で、あっ君が「気持ちいいー!」と絶好調です。次は、大きな木の上まで飛び上がりました。そして、その木のてっぺんにある小さな小屋へと入っていきました。


ラベンダー村の夕食会


 小さな小屋に入ると、大きなテーブルが一つありました。テーブルには、沢山のラベンダー畑の住人である虫達が座っていました。いちばん奥の方にすわっていた長いひげをはやしたおじいさんカブトムシが立ち上がっていいました。


「のぶ君、それに、弟のあっ君じゃな。よく、来てくれたのう。わしは、このラベンダー村の村長をやっとるロンドじゃ。きょうは、ラベンダーの畑を守ってくれたのぶ君の勇気をたたえて、ご馳走をしようと思っておる。いっぱい食べていってくれ。」

村長のあいさつがおわるとと、フラメロがのぶ君とあっ君をテーブルに座らせてくれました。それから、ご馳走がたくさん運ばれてきました。みんなおいしそうなものばかりで、つぎからつぎへと食べましたが、不思議なことに、いくら食べてもお腹がいっぱいになりません。ですから、出てきた料理を全部食べることができて、のぶ君とあっ君は大満足です。まわりでは、虫たちがとってもかわいらしい踊りを踊ってくれています。

「みなさん、今日はどうもありがとうございました。」と、のぶ君はお礼をいいました。

「とってもおいしい晩御飯でした。」と、あっ君もいいました。

のぶ君は、お礼に、最近学校で習った「ともだち」という歌を歌ってあげました。

ラベンダー村のみんなは、じっと感心して聞き入っていました。


 のぶ君の歌が終わったとき、窓を激しくつつく音がします。なにか、ぶーんという音もしています。虫達は、「大変だー。こんな時に、スズメバチ軍団が攻めてきたぞー。」と騒ぎはじめました。そうこうするうちに、窓が割れ、スズメバチ軍団が部屋の中へ入ってきました。


スズメバチ軍団との戦い


 スズメバチ軍団とラベンダー村の虫達は、戦いはじめました。スズメバチ軍団は、このフラノいったいで乱暴ばかりする困りものなのです。のぶ君とあっ君は、フラメロから、この話をきいて、フラメロ達を助けたいと思いました。でも、相手はスズメバチ軍団です。とっても、怖いのです。のぶ君は、あっ君を守って、襲ってくるスズメバチを近くにあった棒で払いのけていました。しかし、すごい速さで襲ってくるスズメバチにびっくりして、しりもちをついてしまいました。

「あ、いてて」と、のぶ君は、叫びました。そして、しりもちをついたおしりをさすろうと、手をおしりにあてると、何かが手にさわりました。なんだろうと思って、はたと気が付きました。そうです、昼間、おばあちゃんに買ってもらった水鉄砲があったのです。

「そうだ、水鉄砲だ。あっ君、水鉄砲持ってるよね。」

 怖くて泣いていたあっ君が「うん、あるよ。」と答えました。

「よーし、水鉄砲で、反撃だー。」と、のぶ君とあっ君は、立ち上がって、水鉄砲で、スズメバチ軍団を攻撃しはじめました。すると、どうでしょう。スズメバチたちは水がきらいなのか、あっという間に逃げていくではないですか。のぶ君とあっ君が、悪者スズメバチ軍団をやっつけたのです。

 ラベンダー村の虫たちは、また、のぶ君とあっ君にお礼をいいました。のぶ君とあっ君は、ラベンダー村の虫たちと、またいつか会おうと約束をして、フラメロといっしょに小屋を出て、ホテルに戻りました。


ホテルのレストラン


「ここで、お別れだよ。」と、フラメロは言いました。

「羽をとるよ。」と、フラメロはつえのようなものを振りました。すると、のぶ君とあっ君の背中から、羽のようなものが消えました。

「もう、飛べなくなっちゃうのか。」と、あっ君はちょっと残念そうです。

「羽をつけたままだと、お父さんとお母さんがびっくりするだろう。それに、今夜のことは、ないしょだよ。」とフラメロは言いました。

「うん、ないしょにするよ。どうせ、大人に言っても信じてくれないしね。

フラメロ、とっても楽しかったよ。また、会えるよね。」と、のぶ君は言いました。

「ああ、いつでも、このラベンダー畑に来たときは、ぼくの名前を呼んでくれよ。すぐに現れるからさ。さぁ、そろそろ戻ったほうが、いい。そうだ、君たちを元の大きさに戻さなきゃ。」というと、フラメロがつえのようなものをふると、周りのものがどんどん小さくなって、のぶ君とあっ君は元の大きさに戻りました。

「それじゃ、お別れだよ。僕がいなくなったらアダマール!って言ってごらん、まわりの大人たちは動きだすよ。」

「うん、わかったよ。それじゃ、さよならだね。ばいばい。」と、のぶ君がいうと、フラメロは手を振って、つぎにつえのようなものを振っていなくなりました。


 のぶ君は、フラメロに言われたように、「アダマール!」と叫びました。

すると、大人たちは動きはじめました。お父さんは、ずーっとメロンを食べようとして口をあけていましたが、やっと食べられたようです。

「のぶ君、あっ君、もう食べないの。まだまだ、おいしいものが一杯あるのよ。」と、お母さんが言いました。

「うん、もういいんだ。いっぱい、おいしいもの食べてきたから。」と、のぶ君が答えると、

「ええ、食べてきた?夢でも見てるのかしら、この子は。」と、お母さんが不思議そうに言いました。

のぶ君とあっ君は目を合わせて、そっと笑いました。大人には分からない冒険をしてきたのです。


 さて、レストランでの夕食も終わり、部屋に戻る時に、おばあちゃんが

「ラベンダー畑の虫たちと晩御飯を食べてきたのね。水鉄砲が役にたったでしょう。」と、ウィンクしながら言いました。

「あれ、おばあちゃんは、知ってるの!?」

「そうよ。おばあちゃんも遠い昔、子供のときに、フラメロに会ったのよ。」

のぶ君とあっ君は、ラベンダー村での冒険をおばあちゃんに話してあげました。


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る