最ゴの言葉

アカサ・クジィーラ

ありがとう...

 みんなは後悔があるだろうか。



 もちろん人間誰しも後悔があり、それを力に成し遂げてきた者やそれにより折れた者、大小様々である。そんな俺は、後者だ。あの時、あの卒業の日、俺は彼女を捨て、友人を捨て、青春を捨てた。その後の人生はクソだ。夢を追い続けるがあまり、周りを見ていなかった。借金取りに追われる人生であった。俺の夢がギターで天下取るって決めたあの日、あの時から俺はすでに落ちぶれていた気がする。


 だから、俺はこの日、この世を去ろうと思う。もしもタイムマシンがあれば、タイムリープという現象があれば、良かったのに...


 俺は漫画や小説の主人公ではない。そのようなもの、存在するわけがない。でも、俺には慈悲がある。誰も迷惑しない死に方で終わらす。だから、都市部からだいぶ離れた森の中にある鉄筋コンクリートの廃ビル。そこの一室に俺はいる。バイトで貯めたお金を使い、火鉢とマッチを買った。そこに火をつけ、ものすごい勢いで煙が集られる。そして、最ゴに俺こと、成井ナルイ真司シンジは今までの後悔譚をつづる。燃え盛る火に今までの思い出、希望、そして後悔に絶望が映し出される。それをそっくりそのまま書いた。遠くで何やらサイレン音も聞こえるが、別に興味ない。そして、この手紙を誰かが読む頃には、俺はもういないだろう。手紙の始まりは、そうだな・・・




『ありがとう...これがみんなへの”最ゴの言葉”です』




 ■


 15年前、近所にある高校の最後の年、俺は未だに進路を決めきれずにいた。友達の鉄山哲テツヤマテツ一色翔イッシキカケルはすでに大学進学を決めていた。でも、俺は大した学力を持ち合わせておらず、大学進学を早くから諦めていた。だから、一生懸命勉強している彼らが羨ましかったし、妬んでいた。嫉んでいた。でも、彼らの邪魔はしまいと最後の年はもう実質疎遠になっていた。加えて、俺がその頃好きだった彼女、真春七奈マハルナナも大学進学をするので、3年に上がってすぐにふった。つらかったが、彼女も俺は邪魔はしまいとしたのだ。

 そしてその後、一学期が終わってひどい評点が出て、夏に入り、ボーッとギターの練習に明け暮れた。担任の丸山先生も、俺のことを心配しているが、『それを選んだのなら、君の人生』と言い、応援もしてくれた。俺はこの学校を去ると、フリーターとして、ただギターを弾き、有名になりたかった。それでも、うまく上達出来ず、有名にはなれなかったが、そのことに関しては後悔してない。俺が最も後悔しているのは、みんなが受験終わった後の卒業式での出来事である。

 ただ前提として、俺たちの思い出を語らしてくれないか。小学生の頃から仲良し四人組で有名だった。中学では、部活は一切入らず、ただ4人で一緒に遊び呆けていた。そして、高校になって、俺らは部活を作る決断を下した。よって、俺らはこの高校にはない軽音部を立ち上げた。三年間同じの担任を顧問として、これからもずっとみんなで音楽の道へ向かおうとしていた。いつかは武道館ライブという大きな夢も決めたよな。でも、そんなの叶わなかった。ライブハウスに行っても、路上でやっても、全くお客さんを引き込めなかった。まして保護者も一切来なかった。俺の親は、一応応援していたが、みんなの両親は全く応援する気がなかったはずだ。加えて、小学生の時から俺らが集まることを嫌がってた俺たちの親らである。そんなの当たり前だよな...だから、俺らは高校2年の3月、軽音部を廃部に追いやり、俺は七奈をふった。だから、俺らは疎遠になった。まして受験のためだけの理由ではないことはよう俺にはわかる。でも、俺はずっと一緒にお前らといたかった。一緒に音楽、やりたかった。

 しかし、卒業式の日。俺はもう一回、お前らに誘ったよな。覚えてるよな。なあ...でも、お前らは卒業式後、俺の元へは一切駆け寄らなかった。悲しかったよ。俺たちの友情はほんのちっぽけなものだったことが。お前らは、俺とはつるまず、ただ空虚な背中だけを表して、そのまま帰路についた。その後の俺の事情はきっとお前たちにはわからないあだろう。有名政治家で、有名警察官、有名芸能人のお前らとは。おそらく担任の先生だけは俺をどうにかしようとしてきたはずだ。なぜなら、つい先日担任と瓜二つの人を俺のボロアパートの周りでつけ回っているという噂が流れたからだ。でもまあ、そいつが本当にそうなのかは真意がついていないが。ギターだけでは、俺は何も出来ない。ただ弾くだけ。それだけで、人々を感動させられるかというとまったくもってない。いやあきらめないことが肝心とは先人はよく言うけど、俺にはもう不可能にちかづいた。もう出来ないのである。


だから、俺はギターをやめた。


数十件あったバイトも全部やめた。残ってるのは、そこに置いてある火鉢とマッチだけ。この間に奮い起こされる走馬灯をこの手紙に一字一句書いてきたが、それももう終わりのようだ。だから、みんなにを、『ありがとう』





 だんだんと瞼が落ちてくる。酸素量が減っていくのを感じる。まるで勉強してこなかった俺がやっと酸素についてよ〜く理解した瞬間だった。俺の人生に幸あれ...





























 そんな時、部屋の外側でどんどんと扉を開けようとする輩がいるそうだ。残念ではあるが、扉の前には大きな障害物があるし、まして酸素濃度が低くなってるので、そう易々と開けられないと豪語していた。でも、もし開けたら...


 俺は一体どうなってしまうのか。いや、もう決心したことだ。そんな興味のせいでこの計画が終わるのは、ダメだ。もうそろそろである。もうそろそろで...

 


 その扉を開けたのは、もちろん警察である。しかし、時すでに遅し。間に合わなかったのである。そのビルの外では、彼の友人の哲、翔、七奈である。彼らは彼が自殺を遂げたことを聞くと、悔やみ出し、泣き出し、そして後悔を繰り返した。




 真実、彼らはあの時、卒業式の終わりの頃に真っ先に彼の元へ向かおうとしていた。しかし、周りの友人と受験期を共に乗り越えたおかげで仲良くなったのが、原因だろう。話が弾んでしまった。だから、彼を待たせるようなことが起きた。哲は、すぐに話を切り終え、彼の元へ向かったが、そこには誰もおらず、いたのは、翔と七奈だけであった。彼らはおそらくもう帰ってしまったのだろうと思い、もうここまでの縁だと思い、彼2人はそのまま帰ってしまった。その背中はどこか寂しげで、空虚な感じがした。



 私は、彼のことを信頼して、ずっとそこで待っていたが、一向に出てこなかったので、彼の家の方へ向かった。彼の家についた時に一度、インターフォンを押そうとしたが、以前私の母と彼の母がいがみ合いの喧嘩をしていたのを思い出し、押せずにいた。そして、その恐ろしさのせいで門限ギリギリまでかかった。だから、私はまたいつか会えるよねと安直に考え、その日はそのままにしてしまった。その選択が私を今、このどん底に突き落とした。私の好きだった人、それを失ったショックは大きい。おそらく彼らも会おうと感じてるはずだ。



 俺は七奈と少し話してるうちに、いつか奴が来るだろうと思ってた。でも、来たのは、哲だった。俺はもう奴は来ないと思い、同じ考えの哲と一緒に帰った。さえいれば、奴はいいだろうと思っていた。でも、現実はそうではなかった。あの時、その勘違いのせいで、彼は死んだ...















『選択は変えられない、だから後悔をする。失敗をする。でも、それに打ち勝ってこそ”優しい人間”になれる。』




 その言葉は、成井真司の親友たちが、たくさんの息子娘孫たちに囲まれ、一見幸せに亡くなっていったである...


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最ゴの言葉 アカサ・クジィーラ @Kujirra

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説