第1033話 隣町から隣町へと移動する

 街道の近くに馬車を止めて昼食を食べる。その間にも、乗合馬車が俺たちの馬車の隣を通り抜けて行った。

 どうやら満席みたいだな。馬車を引っ張っている馬がきつそうな顔をしているように見えた。


「領都へ向かう人って結構いるんだね」

「そのようですね。先ほどからすれ違う乗合馬車はどれも満席でしたからね」

「ネロも観察していたんだ」

「はい。なんとなく気になってしまって」


 ネロの言う通り、すれ違う乗合馬車はどれも人であふれていた。それに、なんだか体調が悪そうな人の姿もチラホラ見えた。

 これは隣町にもすでに病が広まりつつあるのかもしれないな。気を引き締めておいた方がよさそうだ。


「どうしたんだ、ユリウス、ネロ?」

「もうすでに、病がそこまで広まっているんじゃないかと思ってね。まだ早いかなと思っていたけど、もう警戒しておいた方がよさそうだ」

「ユリウスたちがそう思うなら、そうなんだろうな。予防薬の飲み忘れはないよな?」


 そう言ってからアクセルがみんなを見渡す。それに応じてみんながうなずいている。護衛たちにはライオネルが聞いてくれているようだ。

 みんなが特に変わった動きをしていないみたいなので、大丈夫そうだな。もしかすると、隣町からすでに治療を開始する必要があるかもしれない。気を引き締めないと。


 まあ、治療と言っても、危険な状態になっている人に、特効薬を飲ませるくらいなんだけどね。そうでもない人には解毒剤だ。これでなんとかなるはず。

 ちょっと不安な気持ちになりながら、隣町へと到着した。本来の予定ではそのまま通過することになっていたのだが、情報収集をしてもらうことにした。


「予定外のことだけど、よろしく頼むよ」

「お任せ下さい。すぐに調べて参ります」


 ライオネルを先頭に、ハイネ辺境伯家の騎士と使用人たちが町の中へ散って行った。もちろん、ロンベルク公爵家からの護衛たちもだ。そのあいだ俺たちは馬車でおとなしく待っているだけである。


「重症になっている人がいなければよいのですが……」

「こればかりは調べてみないと分からないね。町の様子を見る限りでは、そこまで問題にはなっていないみたいなんだけど」


 馬車の窓から見える景色はいつもと変わらない風景のように見える。曇りで日が差していないため、ちょっと周囲が薄暗いけどね。

 この町は領都の隣にあるだけあって、それなりに人が多い。それだけに、調べるのに時間がかかるかもしれないな。

 そう思っていたのだが、思ったよりも早くみんなが戻ってきた。その様子は落ち着いているようだった。どうやら何事もなかったみたいだ。


「ただいま戻りました」

「どうだった?」

「特にこの町では問題になっていないようです。どうやら領都へ向かっていたのは、さらに西にある町や村からの人たちのようです。そのため、領都へ向かう乗合馬車に乗れないという話でした」

「なるほど。この町に到着したときに、すでに満席になっているということか」

「そのようです」


 ちょっと安心した。どうやらあの乗合馬車に乗っていた顔色があまりよくなかった人たちは、この町の住人ではないようだ。つまり、まだこの町には病は広まっていないということ。

 ここから先がさらに危険な状況になっているのだろう。


「ライオネル、今から出発して、隣町へは到着できそう?」

「日が暮れることになりますが、大丈夫だと思います」

「セレス嬢、どうしますか?」

「行きましょう。急いだ方がよさそうです」


 そんなわけで、俺たちは急いでこの町を出発した。どうやらこの町では「西で病が広まっているのではないか」というウワサが出始めているらしい。西へ向かう乗合馬車には、ほとんど人が乗っていなかった。


 そのまま俺たちの乗った馬車は止まることなく、隣町へ進んだ。もちろんひそかに雲を散らしていたので雨には遭遇していない。おかげで日が暮れる前には到着することができた。


「ライオネルたちは疲れただろう? しっかり休んでおいて」

「分かりました。ユリウス様たちはどうするおつもりですか?」

「宿から出ることはないから安心して。宿を利用している人たちに少し話を聞くくらいだよ」

「その程度なら、我々もできますよ」


 苦笑いするライオネル。確かに話を聞くくらいなら、少々疲れていてもできるか。でも、明日からの移動に備えてしっかり休んでほしい。

 そう言うと、ライオネルも理解してくれたようである。「それではよろしくお願いします」と行って、部屋へと向かって行った。


 荷物を部屋に置くと、さっそく行動を開始した。移動用の動きやすい服を着ているので、今の俺たちは「ちょっといいところの商人の子供たち」のように見えているはずだ。


「俺は宿の従業員たちに話を聞いてくるよ」

「それじゃ、俺たちは宿を利用している客たちに話を聞いてくる。行くぞ、イジドル」

「あ、ちょっと待ってよ!」


 コミュニケーション能力が高いアクセルがイジドルを連れて行った。俺はネロと一緒に話を聞きに行くことにしよう。

 もちろんファビエンヌとセレス嬢はここで護衛たちと一緒に待機である。


「二人はここで待っててね。連絡役が必要になるかもしれないからさ」

「分かりましたわ。魔法薬の確認をしながら待っていますわ」

「夕食の手配もしておきますわね」

「よろしく頼みます」


 部屋から出ると、まずは玄関へと向かう。まずはここにいる受け付けの人に話を聞くことにしよう。

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