第1021話 特効薬と西の辺境伯領へ行く準備
そういえば領都に住んでいる魔法薬師たちに、初級回復薬と解毒剤の作り方を教えるという話をしていたな。それが達成できれば、安心して西へと向かうことができるぞ。
領都でそれらの魔法薬作りが進めば、西で魔法薬が足りなくなったときに送ってもらえるはずだ。
「特効薬を作るのに使用する素材についてですが、まずは毒消草ですね。それから毒消草の根を使います」
「毒消草の根ですか。確かに解毒効果は葉よりも高いと聞きますね。ですが、あまり採れないのが問題です」
「ええ、その通りです。そのため、大量には作れないと思います」
なるほど、と納得した魔法薬師たちが必要な素材を取りに行ってくれた。強解毒剤でも、未知の病を治すことができると思うけど、病に特化した特効薬の方が適材適所だと思うんだよね。
それに強解毒剤は作るのが大変だ。素材もレア度の高い物を使うことになるからね。王宮魔法薬師たちは作れるようになったけど、あそこにいるのがエリート集団であることを忘れてはいけない。
もちろん、ロンベルク公爵家のお抱え魔法薬師たちも腕はいいんだけどね。今はあまり時間がないので、作りやすい魔法薬を教えておいた方がいいだろう。
素材を持ってきてもらったところで、魔法薬作りを開始する。まずは根っこをきれいに洗ってから、小さく刻む。
幸いなことに、こんなこともあろうかと、毒消草の根っこを取っておいてくれたようである。
これなら思ったよりもたくさんの特効薬を作ることができるだろう。ロンベルク公爵領は大丈夫なはずだ。
「刻んだ根っこを蒸留水の中に入れて、常温からゆっくりと加熱していきます」
「じっくりと蒸留水の中に成分を溶け出させるわけですわね」
「そうだよ。色が茶色く濁ってくるけど、それで問題ないからビックリしないように」
「分かりましたわ」
そうしてできた茶色の液体を自然に冷ましてから、布でろ過していく。すると薄い茶色の液体を取り出すことができた。
これで第一段階は完了である。ここからは解毒剤を作って、そこにニンニクをすりおろしたものを入れる。
そうしてグツグツと煮込んだ物に、緑の中和剤を入れてから、先ほど作った薄茶色の液体を混ぜ合わせるのだ。
「これは……なかなか難しいですね」
「緑の中和剤を入れる量が分からないな」
「解毒剤の色が透明になったら大丈夫ですよ。溶け込んでいる成分の量によって入れる量が変わりますから、慎重に入れて下さい」
初級回復薬や解毒剤よりも細かい調整が必要だったので、何度か失敗もあったが、なんとかみんな完成させることができた。
もちろん俺とファビエンヌは一回で完成させたけどね。
「さすがはユリウス先生とファビエンヌ先生ですね。これだけ神経を使う調合なのに、見事に一回で完成させるだなんて」
「私たちもまだまだ鍛錬が足りないようです」
「そんなことはありませんよ。これまでの積み重ねがあったからこそ、こうしてみんなそろって完成させることができたのだと思います」
そこからの時間はできる限り特効薬を作った。もちろん、完成した特効薬の一部は西へ行くときに、一緒に持って行くことになっている。俺たちが西の辺境伯領へ向かうと聞いて、みんなも驚いていた。
無事に特効薬を作り終わったところで本館へと戻る。ライオネルから聞いた話によると、アクセルたちは西へ行く準備をしてから、訓練場へ向かったらしい。少しでも体を鍛えておこうということなのだろう。
本館へ戻ると、すぐにセレス嬢と合流した。そしてそのままサロンでお茶を飲む。ロンベルク公爵から無事に許可をもらうことができたのか、とても気になる。
「セレス嬢、許可はもらえましたか?」
「はい。ちゃんといただきましたわ。ハイネ辺境伯家の馬車と一緒に、ロンベルク公爵家の馬車も一緒に向かいます。今、その準備をしているはずですわ。出発は明日以降になると思います」
「それならよかったです。明日は領都の魔法薬師たちに魔法薬の作り方を教えることになっていますからね。出発は早くても二日後になると思います」
俺の答えにうなずくセレス嬢。ファビエンヌもうなずいている。なるべく最速で西の辺境伯領と向かいたいから、二日後に出発したいところである。
悪いけど、みんなに出発の準備を任せることになってしまうな。
「分かりましたわ。それでは出発の準備は私がしっかりと整えておきますので、ユリウス様は魔法薬の指導の方に専念して下さいませ」
「ありがとうございます。そうさせてもらいますよ。アクセルとイジドルの手があいていると思うので、使って下さい」
「そうですわね。手が足りないときは、そうさせていただきますわ」
笑顔のセレス嬢。これで自由にイジドルを使うことができるからね。アクセルは空気を読むのが大変かもしれないが、ぜひともがんばって欲しいところである。
そうしてその日は終わり、翌日、午前中に領都の魔法薬師たちがロンベルク公爵家へと集まってきた。
明日、俺たちが西へと出発することになっているので、なんとか午前中にねじ込んでくれたようである。とてもありがたい。これが終わったら、荷物の最終点検をしておかないといけないな。今はハイネ辺境伯家の護衛たちがそれをやってくれている。
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