第744話 夏休みの過ごし方

 ハイネ辺境伯家へ帰るのは、当初は俺とカインお兄様、ダニエラお義姉様の三人だった。そこにミーカお義姉様が加わったため、これからどうするのかを話すことにした。

 カインお兄様の話によると、ミーカお義姉様のご両親であるラニエミ子爵夫妻から、夏休みの間、ミーカお義姉様を連れてハイネ辺境伯家へ帰る許可をもらっているとのことだった。


「ラニエミ子爵夫妻は寂しくないのですかね?」

「寂しいと思うわよ。二人とも、ハイネ辺境伯家へ戻るまでにはもう少しかかると思うの。その間、ラニエミ子爵家へ行ってはどうかしら?」


 ダニエラお義姉様の提案はもっともだと思う。俺が結界の魔道具を修理して、それを王宮魔道具師たちに教えるには、もう少し時間がかかるはずだ。その間にラニエミ子爵家に行って、交流を深めておくのはいいことだと思う。


「ダニエラお義姉様の言うことはもっともですね。分かりました。ラニエミ子爵に話してみます」

「鍛錬する時間を確保することができたらいいんだけど」


 キリリと顔を引き締めたカインお兄様に対して、眉を下げたミーカお義姉様。なんかミーカお義姉様はラニエミ子爵家が苦手みたいだな。何かあるのだろうか。ちょっと気になる。


「私も一緒に行くわ。今後のことについても、ラニエミ子爵夫妻としっかり話しておかないといけないものね」

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 カインお兄様とミーカお義姉様が頭を下げる。ダニエラお義姉様が介入すれば、まず問題ないだろう。俺もついて行きたいなとは思ったけど、結界の魔道具を修理するのが最優先かな。ダニエラお義姉様が戻ってきたら、改めて俺もあいさつに行きたいと話すことにしよう。


 話がまとまり、夕食の時間が終わった。その後、サロンで談笑している間にタイマーの魔道具を持ってきた。

 想像していたよりも小さかったのだろう。カインお兄様とミーカお義姉様がタイマーを手に取って、ジッと見つめている。


「これがタイマーの魔道具か。懐中時計とよく似ているな」

「その方がなじみがあると思いまして。そこに表示されている数字が今の時間です」

「え? ……本当だ」


 カインお兄様が懐から懐中時計を取り出して確認している。ダニエラお義姉様が驚いて一緒に確認を始めた。あれ、話すのを忘れていたかな?

 たぶん、時間を数字で表示するのを初めて見たのだろう。ものすごく驚いている様子だった。


「ユリウス、これ、どうやって数字を表示しているのかしら?」

「えっと、それはこんな感じに、棒を組み合わせてですね」


 ネロに大きめの紙を持ってきてもらい、一本一本棒を書きながら説明した。数字をデジタル表示にしたのは画期的だったようである。

 それもそうか。この世界にはまだコンピューターなんて代物はないのだから。


「さすがはユリウスね。こんなすごいことを思いつくだなんて」

「いえ、それほどのことではありませんよ」


 本当にその通りである。俺が思いついたんじゃない。昔のすごい人たちが思いついたのだ。俺はそれを流用してるだけにすぎない。でも、ここではそんな風には思われないんだよな。完全に俺の手柄になってしまう。いたたまれない気持ちになってしまうが、今は前だけ向いておこう。


「ここを押して表示を切り替えてですね、このボタンで時間を設定するのですよ」

「こうか? お、数字が小さくなってる!」

「本当だわ。すごいわね」


 カインお兄様もミーカお義姉様も興奮気味である。よっぽど珍しかったんだろうな。

 それにしても、この流れなら計算機とか作れそうだよね? と言うか、作れるな。どうしよう。ソロバンならもうあるから、そっちと競合することになっちゃうな。


 悩んでいる間に、”ピピピ”と音が鳴った。カインお兄様とミーカお義姉様が再び騒がしくなった。どうやら気に入ってもらえたみたいだな。再び時間を設定して、ワクワクした様子でタイマーを見つめている。


「何か気になることや、こうしたらいいと思うことがあったら言って下さいね」

「これ、首からさげられるようにしたいな」

「時間の計測だけじゃなくて、特定の時間が来たら音が鳴るようにできないかしら?」


 首からさげるようの紐を通す部分を付け加えた方がよさそうだ。そしてミーカお義姉様の提案は、目覚まし時計のように使いたいと言うことなのだろう。確かに派生形としてはいいかもしれないな。


「ありがとうございます。参考にさせてもらいますね」


 タイマーの魔道具のおひろめ会が終わったあとはお風呂になった。もちろんみんなで一緒にお風呂に入る。

 ……いいのかな? ミーカお義姉様が正式にハイネ辺境伯家の一員になったので、いいことにしよう。それに、みんな水着を着ているからセーフだと思うことにしよう。


 ミーカお義姉様にはさっそく護衛の女性騎士がついたようである。その様子を見て、満足そうな表情をしているダニエラお義姉様。

 ダニエラお義姉様がミーカお義姉様を止められなかった説は当たりだったようである。これはしばらくの間はミーカお義姉様から目を離さない方がよさそうだ。


 翌日、ダニエラお義姉様たちはラニエミ子爵家へと向かった。俺は別行動で王城へと向かう。ミラはダニエラお義姉様たちと一緒にラニエミ子爵家へ行くようだ。ミラのこともしっかりと話しておく必要があると思ったのだろう。


「ちょっと馬車の中が寂しいけど、今日こそは結界の魔道具を修理するぞ。もちろんネロにも協力してもらうからね」

「お役に立てるように頑張ります」


 昨日話したタイマーの改良もしないといけない。少し忙しくなりそうだが、それでこそ、俺の腕の見せ所だろう。ラニエミ子爵家のこともあるし、あせる必要はない。しっかりと一歩ずつやるべきことをやっていこう。

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