第743話 ヤバイ何か

 ライオネルの隣で俺がうなずいていると、カインお兄様の視線を感じた。カインお兄様、俺を仲間に引き込もうとしてもダメですからね?


「ユリウスはいいのか? ファビエンヌ嬢といい感じになっても、手を出せないことになるんだぞ」

「何を言っているのですか、カインお兄様! 俺、そんなことしませんからね?」

「じゃあ、ファビエンヌ嬢が誘ってきたら?」

「ファビエンヌはそんなことしません! ……もしかして、ミーカお義姉様は誘ってくるのですか?」


 俺の質問に目をそらせたカインお兄様。誘うんだ、ミーカお義姉様。ちょっと意外だな。いや、そんなことはないぞ。そう言えば、いつも俺もネロも一緒にお風呂に入ろうと誘われるんだった!


 ミーカお義姉様にとってだれかとスキンシップを図ることは、通常運転なのだ。ダニエラお義姉様も誘っているみたいだからね。


「ミーカがそれだけ俺を信頼しているということだよ」

「……ならその信頼を裏切らないようにして下さいよね? ミーカお義姉様を泣かせたら許しませんからね?」

「わ、分かった。分かってるよ! だからその、言葉に表現できないヤバイ何かを抑えてくれ!」


 おっとウッカリ。思わず覇気が漏れ出ちゃってたかな? ゲーム内ではレベルマックスだったからね。その設定が生かされているのなら、今の俺の周りにはオーラが出ているはずだ。

 鎮めなきゃ。そしてそれをオフにしないといけない。


 バタバタと音がしたかと思ったら、サロンにミーカお義姉様とダニエラお義姉様が飛び込んできた。もしかして、ミーカお義姉様も察知しちゃいました? もしかして、『探索』スキルが芽生えてます?


「何、今の。なんだかものすごく悪い感じがしたんだけど。もしかして、カインくんとユリウスちゃんがケンカしてる?」

「そんなことはありませんよ。この通り、仲良しですよ。ただ、念押しはしておきました」


 俺の言葉にすべてを察してくれたのだろう。ダニエラお義姉様が”よくやった”とばかりにうなずいている。その様子を見るに、ミーカお義姉様に自覚を持たせることはできなかったのかもしれない。


 確か前情報では、ミーカお義姉様はガードが堅いという話だったと思うんだけどな。身内になると、ノーガードになっちゃうのかもしれない。うん、あり得そうだぞ。これはミーカお義姉様の動きにも注意した方がよさそうだ。


 そのままダニエラお義姉様に首尾を聞くと、やはり苦労しているようだった。一応は言い聞かせてあるが、不満そうな様子だったそうである。ダニエラお義姉様はよくて、どうして自分はダメなのか。


 ……ダニエラお義姉様? 俺の知らないところで一体何をしているんですかね。聞きたかったが、結局、聞くことはできなかった。ダニエラお義姉様とミーカお義姉様、もしかして似た者同士なのかもしれない。


 どうしてこうなった。ハイネ辺境伯家にはそんな女性が集まりやすいのかな。ファビエンヌは違うよね? そうじゃないと、俺の身が持たないぞ。ファビエンヌからのお誘いを断るだなんてとんでもない!


 夕食は少し豪華にしてもらった。まだお父様からの正式な許可をもらってはないとはいえ、ミーカお義姉様がハイネ辺境伯家の一員に加わることになったのだから。

 本日の夕食はローストビーフに、ステーキという、とても肉々しいものになっている。ニンニクもタップリと入っているようだ。スッポンのような物が入ったスープもあるぞ。


 ……料理人の皆さん? 何か妙なことを考えてないですよね? どうしてそんなに精力がつきそうなものばかりが並んでいるのか、小一時間ほど問い詰めたい衝動に駆られた。


「ユリウス、結界の魔道具はどうなったんだ?」

「分解はしてみましたが、まだ見通しはついていません。その代わりにタイマーの魔道具を作りました」

「ユリウスでも苦戦することがあるんだな。タイマーの魔道具!?」


 リアクション芸人のような反応をするカインお兄様。その様子に思わずみんなが笑い声をあげる。さすがはカインお兄様だな。ユーモアには定評がある。そんなカインお兄様はちょっと苦笑いしていた。


「いや、おかしいだろ。どうしてそうなった」

「どうやら集中すると周りが見えなくなるみたいだったので、時間を設定して、定期的に休憩を取るようにした方がよいかと思ったのですよ」

「それはそうだな。ユリウスは放っておくと、休憩どころか、寝食まで忘れそうだもんな」


 あきれた口調でそう言ったカインお兄様。それを聞いた他のみんなもウンウンとうなずいている。否定できないな。一応、気をつけてはいるんだけど、それでできるかと言えばノーである。


「それでタイマーの魔道具を作ったのね。でもそれって、私たちの訓練でも使えそうよね?」

「そうだなー、気がついたら、すごい時間が過ぎているときもあるからな」

「急にドッと疲れが出るのよね。タイマーをセットしておけば、そんなこともなくなるかもしれないわ」


 ミーカお義姉様が楽しげにそう言った。タイマーを試してみたいんだろうな。食事が終わったら、みんなにも試しに使ってもらうことにした。ここでしっかりと改善点を出し切っておこう。そうすれば、すぐに売り物になるはずだぞ。ダニエラお義姉様もきっと喜んでくれるはずだ。

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