第731話 剣術大会へ行く
あまり良い話ではなかったが、現状を知れただけよかったと思うことにしよう。これで何も知らずに、いきなり”大量に魔法薬を作ってくれ”なんて言われたら、色々と困るところだった。
今回は事前に話があったので、あせらずに準備することができるだろう。ファビエンヌへの連絡は、俺がハイネ辺境伯家へ帰ってからにしよう。今、遠距離通話で話すと、ファビエンヌが一人で抱え込むことになる。ファビエンヌだけに負担をかけさせるわけにはいかない。
「ネロ、伝説級の剣を増やすべきかな?」
「私の口からはなんとも言えませんね。それをすればハイネ辺境伯家は伝説級の剣を量産できるというウワサが、すぐに広まることになるでしょう。大騒ぎになることは間違いないと思います」
「だよね。きっとライオネルに相談しても同じことを言われると思う。どうしたものか」
それぞれの領地に伝説級の剣が一本ずつでもそれがあれば、安全性はより高くなるとは思うんだけどね。だけどもし、それと聖剣が比較されるようなことになると、色々とまずいことになるかもしれない。
うん。やっぱりこの案は保留だな。ギリギリまでこの切り札は取っておこう。
「もうすぐ剣術大会だ。それが終わればすぐにハイネ辺境伯家へ戻って、魔法薬を準備することにしよう」
「それが一番だと思います」
それまでは俺にできることはないな。何事もなく平和な日々が続くことを願っておこう。
そうしている間に、国王陛下から、ハイネ辺境伯家として動くことへの了承の返事が届き、その返事はダニエラお義姉様の手紙と共にハイネ辺境伯家へと送られた。
なお、大体のことは精霊様の加護による通信を利用して、あらかじめ両親へ伝えている。これであちらでも、俺の失点にはなっていないはずだ。そもそも、悪いことはしてないからね。
あるとすれば、ターンアンデットの件がどのように伝えられているかくらいだろう。
そうしてついに剣術大会の日がやってきた。この日は学園内に一般の人が入ることができる特別な日である。それだけに、変な人物が入り込む可能性も高いのではあるが。
「ダニエラお義姉様、私たちは特別席があるんですよね?」
「そうよ。王族専用の見学席があるから、そこに行くわ。そこならミラちゃんを連れていても、問題ないわよ」
「キュ!」
ベッタリとダニエラお義姉様に引っ付くミラ。これならあまり騒ぎにはならないだろう。
当初はミラをタウンハウスに置いて行く話もあったのだが、ミラのつぶらな瞳を見て秒でその考えは却下されることになった。
そして代替案として提示されたのが、王族専用の特別席での見学である。俺は王族ではないのだが、ダニエラお義姉様が王族なのでセーフとのことだった。
なお、ダニエラお義姉様が言うには、俺一人でも問題ないとのことだった。
俺ってどれだけ高い地位に担がれているんだ? ちょっと聞くのが怖いぞ。王族並みの待遇を受ける臣下って、俺以外にはいないような気がする。俺がダニエラお義姉様の義弟だから許されているのだと思いたい。
カインお兄様とミーカお義姉様は無事に授業で行われた予選を突破したそうである。
本選はトーナメント方式。その表を見た限りでは、カインお兄様とミーカお義姉様が当たる可能性があるのは決勝戦のようだ。
「二人とも、ケガをしなければいいのですが……」
「大丈夫よ。ケガをしても、ユリウスが改良した回復薬が渡されることになっているわ。数年前までとは違って、それで不戦勝になることはないはずよ」
「ソウデスカ」
不戦勝って。もしかして、試合に勝ったはいいけど、そのあとに飲んだゲロマズ回復薬が原因で、戦意を喪失した人がいたのかな? それとも、気絶して目を覚まさなかった?
いずれにせよ、以前の剣術大会では”いかにしてダメージを受けないか”も重要だったのかもしれないな。
そうすると、今の剣術大会は昔よりももっと激しいものになっているのかもしれないな。ケガをしたあとのことを、どちらも気にしなくてよくなっているのだから。
はぁ。ますます二人が心配になってきたぞ。
だが、そんな俺の心配とは裏腹に、二人は順調に勝ち進んで行った。女子生徒で決勝トーナメントに残っていたのはミーカお義姉様を含めて二人だけ。その一人も、すでに敗退したので、残すはミーカお義姉様だけになっていた。
準決勝、カインお兄様は苦戦したものの、しっかりと勝ち残り、ミーカお義姉様は現在、俺の目の前で男子生徒と対戦していた。
相手の男子生徒はすでに騎士と言っても差し支えない体格をしているな。学園時代でこれほどまでに鍛えられているのなら、すぐにでも騎士団で活躍できそうだ。
「うう、なんだか胃が痛くなってきました」
「ユリウスも心配性なのね。こんなことなら、よく効く胃薬を飲んでおくべきだったわ」
どうやらダニエラお義姉様も胃に来ているようだ。まさかこんなことになるとは思わなかった。胃薬を飲んでおくべきだった。
子供の剣術大会だと思って油断してしまったなー。これは大人顔負けの剣術大会じゃないか。
周囲を見渡すと、観客席は満席。そしてそこには学生だけでなく、保護者や、貴族の姿も見える。今から目をつけておくつもりのようである。
カインお兄様とミーカお義姉様のことは話題に上がっているのかな? まあ二人ともすでに、ハイネ辺境伯家の騎士団に内定済みなんですけどね。鼻が高いぞ。
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