第724話 杖と剣術大会
ダニエラお義姉様専用の杖作りは午後から行うことになった。そしてこれからは昼食の時間である。さすがにお姫様であるダニエラお義姉様がその辺にある食堂で昼食を食べるわけにはいかない。
そんなわけで、俺とダニエラお義姉様は高位貴族専用の食堂へと足を運んだ。王族のプライベートスペースでの食事も考えたが、ここからだとちょっと遠いのだ。
さいわいなことに、俺たち以外にはだれもいなかった。それもそうか。高位貴族なんて、そんなに数がいないからね。
「ダニエラお義姉様、王都でやれることは終わりましたので、近々、ハイネ辺境伯家へ帰ろうかと思っているのですが、どうでしょうか?」
「そうね、私もするべきことはほぼ終わっているわ。いつでも帰ることができるわよ。ああ、でも、ミーカさんとも話したのだけれども、もうすぐ、王立学園で剣術大会があるのよ」
そう言えば、風呂に入っていたときに、カインお兄様がそんなことを言っていたような気がするな。もしかして、”それを見てから帰らないか”ということなのかもしれない。
確かに、カインお兄様とミーカお義姉様が戦っている姿を見たくもあるな。
「そうでしたか。それではそれを見てから帰るということになるのですかね?」
「そうしたいと思っているわ。二人とも、張り切っていたもの」
「分かりました。そうしましょう」
二人とも優勝狙いみたいだったからね。部門は男女で別れているのかな? 帰ったら詳しい話を二人から聞こうと思う。
そのまま話の流れはこれから作る杖のことになった。どんな杖がいいのかを聞きながら、イメージを組み立てていく。
あまり重たい杖にするわけにはいかないな。それじゃ、ベースは木になるな。そこへ耐久性を高めるために、金属の外装を巻きつけることにしよう。これならそこまで重くはならないはずだ。もし重たすぎたら、堅い木だけにしよう。
いや、待てよ。それなら堅い木に硬質化を付与すればよいのでは? うん、これでいこう。
ダニエラお義姉様にそのことを話すと、驚きながらも了承してくれた。
「木材にも付与ってできるのね」
「……どうなんでしょうか? あとでライオネルに聞いてみようと思います。聞いたことがないということでしたら、秘密にしておいて下さい」
「付与はしてくれるのね」
少し困ったように眉を下げたダニエラお義姉様だったが、内心では期待しているのか、口元はどこかうれしそうだった。これで決まりだな。バレなければそれでいいのだ。
ゲーム内では普通に付与することができたけど、どうなのかな? 木材への付与が可能なら、魔道具にも幅が出るような気がする。
昼食を終えてライオネルたちと合流する。さっそく先ほど話にあったことを尋ねてみた。もちろん周囲には俺たち以外のだれもいないことを確認しているぞ。
「ライオネル、木材に付与できるって話は聞いたことがある?」
「……ありませんな。まさか?」
「ありがとう。とても参考になったよ」
「ちょっとユリウス様、その話、詳しく」
ガシッとライオネルが肩をつかんできた。結構、力が入っているところをみると、どうやら”ちょっと聞いてみただけ~”では済まされそうにないな。
「いや、実はダニエラお義姉様用に作る杖の素材を、軽くて丈夫な木材にしようかと思ってさ。それで、せっかくなので、硬質化の付与をつけようと思っているんだよ」
「なるほど。素晴らしい案だと思いますぞ。木材に付与ができるのであればの話ですが。できるのですね?」
「うん。みんなには内緒だよ? 木材の種類によって付与できる数は変わってくると思うけど、最低でも一つはできるはずだ」
頭痛がするのか、頭を押さえているライオネル。ダニエラお義姉様とネロは俺と同じくそのすごさ、もしくは異常さが分からないようで、首を少しだけ傾けている。
この世界には聖剣なんかの伝説の剣はあるけど、伝説の杖は聞いたことがないような気がする。あるのかな? ちょっと気になってきたぞ。
「ライオネル、伝説の杖ってないの?」
「えっと、かつて大賢者や大魔導師が使っていたと言われる杖ならありますが、それに付与が施されているかまでは分かりませんね」
「あるんだ。知らなかった」
「聖剣に比べると有名ではないですからね」
そうなると、聖剣みたいに、その杖自体に特殊な効果があったりはしないんだろうな。単にすごい魔法使いが使っていた杖だったというだけなのだろう。
そう言えば、聖剣以外の武器は聞いたことがないな。聖弓や、聖槍なんてのもあってもよさそうなものなのに。
少しずつ情報を集めつつ、武器工房へたどり着いた。工房の人たちに頼んで、武器に使う木材を見せてもらう。槍の持ち手の部分や弓は木材で作られていることが多いので、それなりの種類の木材が用意されていた。
その中でも、特に丈夫で堅くて軽い木材を選んだ。持っててよかった『鑑定』スキル。どうやら二つ付与することができそうである。
「ダニエラお義姉様、この木材がいいと思います。どうでしょうか?」
「堅くてしっかりとしているわね。それに、見かけよりも重くはないみたいだし。私が持つのにピッタリだと思うわ」
「しっかりと装飾を施しますので、ダニエラお義姉様が持っていてもおかしくない杖になると思います」
「楽しみにしておくわね」
ちょっと弱気なのは、俺のセンスがダニエラお義姉様の美的感覚と一致するのかが怪しいからである。ダニエラお義姉様との付き合いはそこそこ長いので、外すことはないと思うんだけど、どうかな?
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