第721話 鋼の剣に付与する

 ひとしきり道具を見せてもらい、鋼を鍛えた剣をネロにプレゼントすることにした。さすがに聖剣を作るつもりはないからね。作ろうと思っても、そもそもオリハルコンがないので無理なのではあるが。


 騎士団で使っている剣はどれも鋼の剣である。それなら同じ素材の方が、後々問題にはならないだろう。特殊な合金で作って、あとで大騒ぎになることはないはず。

 どうやらすでに鉄の塊になった物を使わせてもらえるみたいだ。あとはこれに炭素や、その他の微量金属をいい感じに混ぜればいいだけである。


 王族の方々が来たらすぐに剣を打てるように、前準備を始める。炉に金属の棒を差し込んで、そこにワラや鉄鉱石なんかを足していく。『鑑定』スキルを使ってしっかり含有量を確かめているので問題はない。


 ああ、剣を打つのは久しぶりだな。なんだかんだでゲーム内でも魔法薬ばかり作っていたからね。実際は魔法薬だけじゃなくて、武器や防具なんかも作れたわけだけど。

 そういえばそっち方面はぬいぐるみとか、水着なんかの布製品しか作っていなかったな。


 金属棒を熱しながら、色々とそこに混ぜ込んでいる様子を、ネロが興味深そうな目をして見ている。もちろんダニエラお義姉様も同じような目をしていた。


「ネロも興味がある?」

「いえ、ユリウス様は本当になんでもできるなと思いまして」

「そんなこと……あるかもしれないな」

「そうね。あるわね」


 ダニエラお義姉様が苦笑いしてる。やたらと慣れた手つきで作業をしていたからだろうな。なぜか職人の何人かが、俺の作業を食い入るように見ているし。キミたちは自分の仕事をしなさい。


「キュ!」

「ミラもやりたいの? さすがに無理かな~。あ、ミラの毛を金属に混ぜ込めば!」

「ユリウス様、まことに申し訳ないのですが、普通の剣にしてほしいです」

「そ、そうだよね。ミラの毛はまた今度にしようかな」


 ネロにお願いされてしまった。それは俺が作った剣を飾るのではなく、しっかり使いたいという決意の表れなのだろう。

 俺も飾られるよりかは使われる方がいい。この剣がネロを守ってくれるように。そんな願いを込めて、剣を打つことにしよう。


 金属棒を伸ばしながら、魔力も込めていく。鋼の剣には一つか二つ、特殊効果を付与することができるからね。俺ほどの技量を持っていれば、もちろん二つつけることができるぞ。さて、何にしようかな。


 聖剣はダメだけと、魔剣なら……いやいや、ネロは普通の剣がほしいのだったな。それなら普通の鋼の剣にしなければならない。


 それじゃ、折れないように、”硬質化”と切れ味が鈍ることがないように”劣化防止”の二つの効果をつけることにしよう。これなら、他の人がこの剣を見ても、普通の剣にしか見えないはずだ。


 せっかくなので、燃える剣や、凍らせる剣にしてもよかったのだが、ネロは目立たない剣の方がいいみたいだからね。作り手は持ち手のことを考えて作る生き物なのだ。

 折り曲げて、たたいて伸ばし、ゆっくりと慎重に魔力と付与を込めていく。そうしてねりねりとしていると、皇太子殿下が見学にやってきた。


「お兄様、ご機嫌よう」

「やあ、ダニエラ。相変わらずキレイだね」

「……お兄様、家族にそのようなお気づかいは不要ですわよ?」

「いや、そんなつもりで言ったわけじゃないんだけどな」


 困り顔になる皇太子殿下。どうやらダニエラお義姉様はお世辞だと思ったようだが、それが事実であることは、ここにいるだれもが分かっているはずだ。

 ダニエラお義姉様からの紹介を受けて、あいさつをする。それが終われば、さっそく鍛錬を開始した。


 すでに下準備は十分にできているので、加熱してからガンガンとハンマーでたたいて形にしていく。金床にハンマーをたたきつけるたびに、小さな火花が散っている。

 魔法で金属を加熱しながらやっているからね。いつまでも熱いままである。


「すごいね、ユリウスは。まるで熟練の職人みたいだよ」

「ありがとうございます」


 ゲーム内では専業ではなかったものの、かなりの数の武具を作ってきたからね。売りに出したり、友達にプレゼントしたり、クエストで納品したりと、色々やったものである。

 そうこうしているうちに、国王陛下と王妃殿下もやって来た。実によいタイミングだ。ここからもう少し鍛えてから研ぎを済ませれば、刃の部分は完成だからね。


「もうここまで完成しているのか。さすがだな」

「やっぱりユリウスちゃんには鍛冶屋の才能もあったのね。魔道具の作成で、金属加工はお手の物だものね」

「そう言っていただけるとうれしいです」


 本当は違うのだが、そういうことにさせてもらおう。国王陛下と王妃殿下をだましているようで申し訳ない気持ちで一杯なのだが、武器作りも得意だとは思われたくない。

 今回はあくまでも俺への報酬であり、ネロに自分自身を守ってもらいたいという思いからである。


 国王陛下たちからの質問を受けつつ、剣を仕上げていく。残すは研ぎの作業だけである。さすがにオリハルコンの砥石はないので、いつもこの工房で使っている砥石を借りることにした。


 オリハルコンの砥石で研磨すると、シャープな切れ味になるんだよね。きっと表面のでこぼこが完全になくなるからだと思う。摩擦が限りなくゼロになるんじゃないかな。

 この砥石だとそこまでは難しいけど、『クラフト』スキルを駆使すれば、限りなくそれに近づくことができるはずだ。

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