第712話 スキル習得へ向けて
完全に黒い魔物が消滅したところで、空からミラとダニエラお義姉様が降りてきた。ライオネルとネロ、アクセルがそれぞれ剣を鞘に収めると、黒い魔物がいた場所を確認しながらこちらへ向かって来た。
「みんなお疲れ様。これで脅威は去ったはずだよ」
「みんなよくやってくれたわ。このことはしっかりと国王陛下へ報告しておくわね」
ホッとした表情を浮かべていたダニエラお義姉様だったが、しっかりと顔を引き締めながらそう言った。功労者にはしっかりとその功績に報いること。ダニエラお義姉様だけでく、王族はしっかりと評価してくれるようだ。
「これで全部終わったんだよね?」
「そう思うんだけど、どこから黒い魔物が来たのかは気になるかな」
「確かにそうだな。どっから来たんだろう?」
みんなで首をひねって考えるが、答えは出て来そうにない。ふと森を見ると、折れた木々が続いている道が見えた。おそらく黒い魔物が通ったあとだろう。
「あの倒れた木をたどって行けば、原因が分かるかもしれない」
「確かにそうですな。ですが、同時に危険でもありますね。もし、他にも黒い魔物がいたら大変です」
「大丈夫だよ、ライオネル。この辺りにはもう黒い魔物の反応はないからさ」
俺の言葉にライオネルがうなずいている。どうやらこの辺りが安全であるということに納得してもらえたようである。
俺たちがこのまま原因を追ってもいいけど、国から調査団を派遣してもらって、この辺り一帯を調べてもいいんだよね。そこの判断はダニエラお義姉様に任せることにしよう。
「なあ、ユリウス。どうして魔物の居場所が分かったんだ?」
「ああ、それは、ちょっとした特殊技能を使ってるからだよ」
「特殊技能? 相手の気配が分かるみたいなやつか?」
「そう。そんな感じ」
この世界にはまだスキルという概念がないので、大ざっぱに説明しておく。俺の答えにアクセルは納得したようである。
「いいなぁ。俺にもその特殊技能があったらよかったのに」
「それならアクセルも練習してみる? うまくいくかは分からないけどさ」
「やってみたいような、そうでもないような。一応、話を聞こう」
うーん、アクセルのこの警戒っぷり。どうやら俺がまた何かやらかすと思われているような気がする。そんなことないのに。
でも、『探索』スキルを身につけられる可能性はあると思うんだよね。
「木の陰に隠れたアクセルに向かって殺気を飛ばす。そうすれば、アクセルも遠くの人の、気配のようなものが分かるようになるかもしれない」
「殺気」
「うん殺気」
アクセルが迷っているな。『探索』スキルは欲しいけど、殺気を向けられるとどんな感じになるのか分からないから不安だ。そんな様子である。
もちろん俺だって手加減はする。アクセルがオシッコをちびるようなことにはならないはずだ。たぶん。
「よし、それじゃ、イジドルと一緒にやってみるよ」
「なんで! なんでボクまで巻き込むの!」
めっちゃ嫌そうな顔をしたイジドルがアクセルのそばから離れた。フラれたアクセルは口をとがらせていたが、それでもあきらめきれなかったようである。そこに救いの手が差し伸べられる。
「あの、私も挑戦してみてもいいでしょうか?」
「ネロも? まあ、いいんじゃないかな」
たぶん大丈夫だと思うけど。ライオネルが参加しないところを見ると、どうやらライオネルは特殊技能を身につけつつあるようだ。もしかすると、近くなら分かるようになっているのかもしれない。
ダニエラお義姉様に許可をもらって、ちょっとだけ試してみることにした。感覚がつかめれば、あとはそれを研ぎ澄ませるだけである。日常生活でも練習はできると思う。
アクセルとネロが木の裏へ隠れたところで殺気を飛ばす。もちろん本気ではない。俺が取っておいたプリン、食べたよね? くらいの殺気である。
「ヒッ!」
「なんでイジドルが反応するんだよ」
「いや、だって、なんかおいしい食べ物を横取りされて、怒ってるみたいだったんだもん」
鋭いな、イジドル。もしかすると才能があるかもしれない。もったいないけど、本人が嫌ならば、無理強いはしない。
木陰から二人が出て来た。その顔色はあまりよくない。
「どうだった?」
「ああ、うん」
「よく分かりました」
口数が少ないな。そして俺と目を合わせない。これは二人のトラウマになってしまったかな? このやり方で『探索』スキルを身につけさせようとするのは無理そうだな。別の方法を考えた方がいいだろう。
「ごめんね、二人とも」
「い、いや、謝らなくていいぞ? 俺が頼んだんだからな」
「そうですよ。ユリウス様が気にすることではありません」
慌てて二人が否定してくれた。どうやら嫌われたわけではなさそうである。ちょっと安心した。
だが、この空気はあまりよくないな。話題を変えた方がいいだろう。
「ダニエラお義姉様、これからどうしますか? あとを追いますか、それとも、調査団を派遣しますか?」
「このまま探りたいところだけど、私たちだけじゃ見逃しがあるかもしれない。何かが見つかる可能性を高めるためにも、この辺りに調査団を派遣してもらえるように国王陛下へ相談することにするわ」
「分かりました。それでは私たちも拠点へ戻りましょう」
一息ついてから、俺たちも戻ることになった。ミラは元の子犬の大きさに戻り、ダニエラお義姉様の腕の中にいる。こちらの被害は皆無だ。損害といえば、念のため、みんなで初級体力回復薬を飲んだくらいである。
一仕事終えたあとの一杯のようで、とてもおいしく感じられた。
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