第697話 隠し通路
そこからは部長が示した方角の壁を重点的に調査を開始した。もちろん壁もたたく。そうこうしているうちに、前を行くカインお兄様が何かに気がついた。
「この辺り、なんか臭うぞ」
「臭うって、ゾンビの臭いですか?」
「多分……」
ゾンビは独特の臭いがするからな。近くにいるとすぐに分かるのだ。そしてこのような狭い通路だと、臭いがこもって大変なことになる。
「清めのお香を持ってきているので、隠し通路を見つけたら使いましょう」
「さすがはユリウス。気が利くな」
確かに嫌な臭いがするな。だが今、清めのお香を使うと、場所の特定が余計に難しくなってしまう。今は我慢だ。みんなもその臭いを感じたようで、顔をしかめながら作業を続けている。
「みんな見てくれ。レンガの間に小さなヒビが入っているぞ」
どうやらカインお兄様が壁に異変を見つけたようだ。後ろにいた俺たちもその場所へ集まった。確かにレンガの間にヒビが入っている。それも一つや二つじゃない。よく見ると、その周辺のあちらこちらに亀裂が走っていた。
「この臭いもそこから臭ってきてるみたいね」
ミーカお義姉様の顔が、実に嫌そうにゆがんでいる。急いで清めのお香に火をつけた。すぐに周囲の不快な臭いが消えて、独特の香木の良い香りが漂い始めた。
「この先に隠し通路があるみたいだな。この壁の向こう側にはなんの気配も感じないし、待ち伏せしているわけではなさそうだ」
カインお兄様が慎重な手つきで壁を調べながらそう言った。カインお兄様の言う通り、ゾンビたちが壁の向こうで俺たちを出迎える準備はしていないようだ。どうも奥の部屋にとどまっているようである。
「どうしますか、カインお兄様?」
「そうだな、せっかく怪しい場所を見つけたんだ。ちょっと壁をたたいてみようぜ」
「やめた方がいいのでは?」
「いいから、いいから」
俺はちゃんと止めたからね。確認のためみんなの方を振り向くと、うんうんとうなずかれた。これで俺のせいにはならないぞ。
カインお兄様が剣の柄の部分でゴンゴンと壁をたたくと、いとも簡単にレンガの壁が崩れた。どうやらこの壁が崩れるのは時間の問題だったようである。
「あー、えっと、そんなに力は入れてないからな?」
「確かにそんな風には見えたけど……カインくんは結構力持ちだものね」
「これは……どうやらずいぶんと壁が劣化していたようです。長年、放置されていたからなのでしょう。見て下さい。レンガの裏側に何か模様のようなものが描かれていますよ。おそらく、結界か何かではないでしょうか」
崩れたレンガを手に取って確認する部長さん。超常現象クラブの部長とあって、その辺の呪術的な何かには知識が豊富なようである。
部長さんが調べている間に、奥の部屋にいたゾンビたちが一斉に動き始めた。どうやら壁が壊れたのが原因のようだ。これはまずい。
部長さんが言った通り、この壁がゾンビたちを封印していたようである。
「カインお兄様、隠し通路の向こうから何か来ます」
「急いで準備だ。ついに聖なるしずくの出番だな」
うれしそうにカインお兄様が笑っている。すぐにみんなが聖なるしずくを武器にふりかけ始めた。部長には清めのお香を持ってもらう。これで俺も戦うことができるようになったぞ。
「みんな、準備はできたな?」
「ええ、大丈夫よ」
「大丈夫です」
みんなでうなずき合う。隠し通路は大人二人が並んでも余裕があるほどの広さがあった。この広さなら、なんとか剣を振ることができそうだ。
だがしかし、その壁は先ほどまでのレンガの壁ではなく、ただの土の壁だった。壊さないように気をつけて戦う必要があるな。強力な魔法は使えそうにない。
通路の向こうから足を引きずるような音が聞こえてきた。どうやら先頭のゾンビがここまでたどり着いたようである。
「カインお兄様、魔法の援護はあまり期待しないで下さいね」
「分かった。魔法が外れて土壁が壊れるとまずそうだからな」
「え、それじゃボクも杖で殴ることになるの?」
「今のところはそうなるかな?」
嫌そうな顔をしたイジドルが一番後ろへと下がった。どうやら後方からの敵に備えるつもりのようである。まあ、そっちに敵はいないんだけどね。
通路全体に魔法防壁を張れば問題なく魔法を使うことができるので、どうしても不利になったときは遠慮なく使おう。
ゾンビの姿が見えた。長年熟成されたからなのか、なんだか思っていたゾンビよりもまがまがしい感じがするな。まあ、レイスも切れるようになった武器でなら、問題なく倒すことができるだろう。レイスほどは強くはないと思う。
「まずは俺が様子を見る。援護を頼む」
「任せてちょうだい!」
どうやら先手はカインお兄様とミーカお義姉様が行くようである。俺も万が一に備えて、いつでも援護ができるような状態にしておく。何かあればすぐに戻るようにとダニエラお義姉様からは言われているが、ゾンビくらいなら問題ないだろう。
カインお兄様がコンパクトに剣を振り抜き、ゾンビを斬り捨てた。ゾンビの厄介なところはその耐久力の高さである。普通の剣で倒そうとすれば、バラバラにしなければ無力化できない。
だがしかし、聖なるしずくを塗布した剣は効果がバツグンだったみたいである。一太刀でゾンビは浄化され、灰になった。
「倒せる! これはすごいぞ!」
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