第695話 怪しい人物

「カインお兄様、超常現象クラブの部長とはどこで合流するのですか?」

「ああ、教会で待ち合わせすることになっているよ。あそこなら、休日に人がいてもおかしくはないからね」

「なるほど」


 超常現象クラブの部長が信心深いかどうかは分からないが、そこにいて怪しまれるようなことはなさそうだ。

 そう思っていたのだが。


「何あの怪しい人……」


 イジドルが呪術的な何かをフル装備した人物を教会で見つけた。どう見ても怪しい人物にしか見えないな。アクセルも同じことを思ったようで、警戒心を強めたかのように、鞘を握っていた。

 そんな緊張感に包まれている俺たちの隣で、カインお兄様がコホンと一つせきをした。


「あー、あれが部長だ」

「……すごく目立つのでは?」

「そうだな。普段は普通の学生服を着ているんだけどな。どうやら今日は気合いを入れすぎたようだ」

「気合いを入れすぎた」


 どうやら部長も、ある程度の話をカインお兄様から聞いているみたいである。そのための装備なのだろう。でも、あの装備でゾンビに対抗できるとは思えないんだけど。『鑑定』スキルで確認してみたが、特になんの情報も得られなかった。つまり、見た目だけってこと。


「来たか!」

「部長、目立たないようにって、俺、言いましたよね?」

「い、いや、これはだな、身を守るために……」


 何やら言い訳を始めた部長を、目立つので木陰へと連れて行く。これ端から見ると、不審人物を人目のつかない場所に連れ込んでいるように見えないんじゃないかな。

 不安になって周囲を確認するが、学園の休日とあってか、他に人の気配はなかった。今日が休日でよかった。


「はぁ。司祭様を呼んでくるからここで待っていてくれ。くれぐれも、ここからは動かないように」

「もちろんですよ」


 カインお兄様が小走りで教会の建物へと向かって行った。さすがのカインお兄様でも”これはない”と思ったようである。よかった、カインお兄様が俺と同じ感覚を持っていて。

 お互いにあいさつをしつつ、部長を取り囲むようにみんなで壁を作っていると、カインお兄様と一緒に司祭様がやってきた。


 話に聞いていた通り、ずいぶんとご高齢のようだった。杖をつき、カインお兄様に伴われている。これは俺たちが司祭様のところへ行った方がよかったかな? でも、案内してもらわないと、場所が分からないんだよね。


「ようこそいらっしゃいました。お話は伺っておりますよ」

「あの、これはダニエラ王女様からのお手紙です」

「拝見させていただきます」


 俺が手紙を渡すと、その場で司祭様が目を通し始めた。読み進めながら、何度かうなずいている。

 そして読み終えると、引き締まった顔をこちらへ向けた。


「私もここに着任してから、一度も地下道へは入ったことがありません。入り口は閉ざしているので魔物が入り込むようなことはないとは思いますが、くれぐれも気をつけて下さい」

「もちろんです。何かあればすぐに引き返してきますよ」


 自信たっぷりにそう言ったカインお兄様。カインお兄様、その言葉、信じていますからね? 俺たちのリーダーはカインお兄様ですからね? 分かってますよね?

 なんだか疑わしく思われてしまうその発言を聞きながら、今にもスキップしそうな様子になっているカインお兄様の後をついて行く。本当に大丈夫かな?


 司祭様に案内されたのは、教会の敷地内にある倉庫のような場所だった。建物の中に入ってみると、やはり倉庫だったようで、教会の催し物の際に使うのであろう、見慣れぬ道具たちが整然と積み上げられていた。


 その倉庫の中央の床に秘密かがあった。なんと地下室が隠されていたのだ。全然、気がつかなかった。それだけ巧妙に隠されていたのだ。


「こんなところに地下室があるとは。世紀の大発見ですね!」

「部長、分かっているとは思いますが、記録に残すことも、誰かに話すこともダメですからね?」

「もちろん分かっているよ。学園の七不思議として、ウソか本当か分からない形で後輩へ伝えていくよ」


 本当に分かっているのか怪しいな。だが、学園の七不思議としてなら、ほとんどの人が冗談だと思うだろう。それにこの場所には普段は入れないからね。見つけ出すのはまず不可能だろう。ここに地下室がありますと明言しなければの話だけど。


 地下室へ進むと、鉄製の扉が見えてきた。どうやらここが地下道への入り口のようである。ダニエラお義姉様から借りたカギを使って、カインお兄様がその扉を開いた。その先は当然、真っ暗である。


「何かのときに備えて、私はこの場所で待っています。大丈夫、他の者たちには少し出かけてくると言ってありますから」

「よろしくお願いします。なるべく早く戻ってきますので」


 司祭様に見送られて地下道へと入った。もちろん、部長も一緒だ。聞いたところによると、運動は全然ダメだが、少しは魔法が使えるらしい。部長が言うには、得意なのはデスクワークだそうである。見た目通りだな。だがそれはそれで有能だと思う。


「暗くて何も見えないわ。魔道具のランタンをつけましょう」

「そうだな。そんなに広くはないし、それで十分周りを照らせるだろう」

「あ、明かりなら私が用意しますよ。ライト!」


 フワッと視界が開けた。これで奥までバッチリ見えるぞ。

 地下道の壁はレンガを積み上げられて作られていた。かなり丈夫そうだし、手間がかかっているな。避難場所として使っていたのもうなずける構造である。


「さすがはユリウスちゃんね」

「ユリウス、魔力は大丈夫なのか?」

「え? このくらいならなんともありませんよ」

「そ、そうか」


 カインお兄様の顔が引きつっている。俺、なんかまずいことを口走っちゃいましたかね?

 ふむ、ネロと部長が同時に何かを手帳に書き始めたな。これは注意しておくべきだろうか。

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