第686話 みんなで運動する

 イノシシのごとく突っ込んできたミーカお義姉様の剣をそのまま受けた。受け流すことも考えたのだが、なんか嫌な予感がしたんだよね。

 それに俺も少しは体が大きくなって力もついてきたことだし、その力を確認しておきたかった。


 カン! という木と木がぶつかり合う甲高い音がした。ミーカお義姉様は俺が受けるとは思っていなかったようで、一瞬だけ目を大きくした。

 どうやら受け流されることを前提とした突進だったようである。そこから反撃する方法をあらかじめ用意しておいたのかもしれないな。


 これは受け流した方がよかったか? そう思いつつ、ミーカお義姉様の剣を次の攻撃を受ける。力は同じくらいだろうか。いや、強さが増しているということは、どうやら強化魔法を使っているようだ。


 そこからは剣をいなしたり、受けたり、ちょっと反撃する振りをしながら戦った。全力で戦っているのだろう。ミーカお義姉様の息があがってきた。そして汗で服が透け始めた。これはまずい。


 そう思った俺は、急加速して懐に飛び込むと、一瞬のすきをついてミーカお義姉様の剣を強打した。すでに疲労が蓄積していたのだろう。剣から手が離れた。すかさず俺の剣をミーカお義姉様の喉元に突きつける。


「そこまで」


 いつの間にか審判に代わっていたライオネルが試合終了を告げた。悔しそうな表情をするミーカお義姉様。だが体力の限界なのか肩で大きく息をしており、言葉にならないようだ。


 チラリとネロに目配せすると、すぐに俺の考えを察してくれたようで、すぐに初級体力回復薬を持ってきてくれた。


「ミーカお義姉様、これをどうぞ」

「ありがと……」


 ポンという爽やかな音と共にフタを開けると、ミーカお義姉様がゴキュゴキュと一気にそれをあおった。しかも、腰に手を当てて。

 そこにご令嬢の面影は一切なかった。これはラニエミ子爵夫妻から文句を言われても言い逃れできないな。


「プハッ、生き返る~! あ~あ、ユリウスちゃんにはまだまだ追いつけないわね。もう一回!」

「あ~、えっと……」


 すっかり元気を取り戻したミーカお義姉様が詰め寄ってきた。目のやり場に困る! 服が透けて、下着が見えてますから! 気がついていないのかな。助けを求めてカインお兄様の方を見た。

 察したカインお兄様がタオルを持ってこちらへ来てくれた。


「ミーカ、次は俺だ。ほら、タオル」


 ミーカお義姉様にタオルをかけるカインお兄様。顔が赤いが、見ないようにしているみたいだ。バッチリ見てしまった俺は、このあとでカインお兄様に怒られるのかもしれない。

 そうして今度はカインお兄様と戦うことになった。


 ミーカお義姉様もだけど、カインお兄様も結構強いな。精鋭ぞろいと言われるハイネ辺境伯家騎士団の騎士たちと遜色ない実力を持っている。もちろん、ハイネ辺境伯家騎士団四天王とかにはまだまだかなわないけどね。


 カインお兄様の次はネロだ。こちらも俺と一緒に訓練をしているので、それなりに強い。同年代の子供の中では頭一つ、抜け出ているのではないだろうか? まあ、カインお兄様とミーカお義姉様ほどではないけど。


 そのあとはネロとミーカお義姉様、ネロとカインお兄様が戦った。さすがにヘロヘロになっていたネロに、初級体力回復薬を飲ませた。本人はもったいないからと遠慮したけど、無理やり飲ませた。


 ネロは変なところで遠慮するからなー。初級体力回復薬くらいならすぐに作れるので、気にしなくていいのに。

 もちろん、ライオネルたちも加わった。最後にはダニエラお義姉様も加わって、みんなで運動することになった。


 どうやらダニエラお義姉様も剣術に興味があったようだ。だが、お城では危険なのでやらせてもらえなかったらしい。

 だがしかし、同じ女性であるミーカお義姉様が剣術をしている。しかも、とてもキレイな所作だった。そのため、自分もやってみたいとなったのだ。


「ハァハァ、剣術も、なかなかいいわね」

「ダニエラお義姉様もこれをどうぞ」

「ありがとう」


 ダニエラお義姉様がミーカお義姉様と同じく、腰に手を当てて初級体力回復薬を飲んでいる。ごめんなさい、アレックスお兄様。悪いのはミーカお義姉様なので、俺を叱らないで下さい、お願いします。


「こ、これが初級体力回復薬の真の力なのね。疲れたときほどよく効くとは聞いていたけど、これほどまでとは思わなかったわ」

「あ、ありがとうございます?」


 感動するダニエラお義姉様。もちろん他のみんなにも飲んでもらっている。明日、王城へ行ったときに作る魔法薬の数が増えるが、その程度の量が増えたところで、どうということはない。これでもこの世界で一番の魔法薬師を目指しているからね。


「カイン様も、ミーカ様も、ずいぶんと腕をあげられましたな。これなら安心して仕事を任せることができそうです」

「ライオネルにそこまで言ってもらえるとうれしいな。剣術クラブで鍛えたかいがあったよ。今年こそ、剣術大会で優勝するぞ」

「私だって負けないからね」


 フンスとミーカお義姉様が握りこぶしを作っている。どうやらミーカお義姉様も優勝狙いみたいだ。せっかくなら、剣術大会の応援に行きたいところだな。もちろん、機会があればの話だけどね。


 そのまま庭でみんなと一緒に先ほどの手合わせの講評をしていると、夕食の準備ができたとの知らせがきた。それを聞いたミラがうれしそうにはねながら屋敷へと戻って行く。

 これはすぐにリバウンドしそうだぞ。気をつけなければ。

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