第685話 二人と手合わせする

 ちょうどいいタイミングだったので、カインお兄様にアクセルとイジドルと一緒に、自分も参加したいことを告げた。学園には許可がおりればだれでも入ることができたはずだけど、さてどうなるかな?


「そうか。ユリウスならそう言ってくれると思ったので、すでに学園には許可の申請を出しておいたぞ。ユリウスの護衛ということにすれば、アクセルとイジドルも一緒に入れるはずだ」

「ありがとうございます?」


 つい、疑問形になってしまった。まさか最初から俺を学園の七不思議に巻き込むつもりだったとは思わなかった。てっきり魔法薬を渡して終わりになると思っていたのに。

 だがこれはこれでラッキーだな。聖なるしずくを使うとは言え、お兄様たちがゾンビと戦うのはちょっと心配だったからね。


 別に実力が伴っていないだなんて思ってはいない。ただ、なんだか張り切りすぎて、やりすぎそうな気がするんだよね。学園に封印されていた何かを倒そうとしたりとか。


「どうしたんだ、ユリウス?」

「あ、いえ、二人も喜ぶと思います」


 俺の作り笑顔に首をかしげるカインお兄様。そうこうしているうちに、ダニエラお義姉様とミーカお義姉様が戻ってきた。ダニエラお義姉様はミーカお義姉様と同じような服を着ている。


 二人の顔はまったく別物なのだが、その体型はよく似ている。出るところも、引っ込むところも含めて。思わず見とれていると、カインお兄様が口を半開きにして見とれていた。もしかして俺の口も半開きだった?


「ちょっと胸元が苦しい気がするけど、わがままは言っていられないわね」

「ダニエラお義姉様は私よりも大きいですものね」


 何が、とは言わないし、言えない。確かにミーカお義姉様よりもぴっちりしているような気がする。それだけに、体のラインがハッキリと出ているのだが。大丈夫かな、これ?

 だがしかし、ダニエラお義姉様はその服が気に入ったようである。


「ミーカさん、お休みの日に、この服が売られているお見せに連れて行ってもらえないかしら? いくつか購入したいわ」

「もちろんですわ。それでは次のお休みにでも行きましょう」


 始まるガールズトーク。ちょっと居場所に困る我ら男衆。そうだ、夕食までにはまだ時間があるし、ミラと一緒に運動しよう。そうしよう。今日は一日、俺も部屋にこもりっぱなしで運動不足気味だからね。


「ミラ、庭で運動するぞ」

「キュ!」

「それなら俺もやるぞ」


 学園帰りで疲れていると思うのだが、落ち着いてはいられなかったようである。カインお兄様が参加表明をする。

 そんなわけでみんなと一緒に庭へ行こうとすると、ダニエラお義姉様とミーカお義姉様もついてきた。


 もしかしてダニエラお義姉様はミラを太らせてしまった責任を感じているのかな? 気にしなくていいのに。そしてミーカお義姉様は何やら期待するような目でこちらを見ていた。


 軽い運動のつもりなんだけど、なんだかそれだけではすまないような気がしてきたぞ。

 とりあえずミラと一緒に庭をグルリとランニングしていると、カインお兄様がどこからともなく木剣を持ってきた。やっぱりそうなるよね。


「ユリウス、せっかくだから手合わせしよう」

「カインくん、待った。ユリウスちゃんと手合わせするのは私が先よ」


 そう言って、胸元から紙を引き出した。どこに入れてるんですか、ミーカお義姉様!

 それはまさしく俺がミーカお義姉様におわびとしてプレゼントした”手合わせチケット”だった。


 それをかざされて、引きつった顔になるカインお兄様。まさかそんなところに入れていたとは思わなかったのだろう。俺もそう思う。いつからそこに入れていたのかな。まさか、毎日そこに入れて持ち歩いていたとかないよね?


「いいわよね、ユリウスちゃん?」

「もちろんですよ」


 断れないな。そしてその紙を回収することもできないな。そんなことをすれば、カインお兄様からにらまれそうだ。今もすでに少し半眼でこちらを見ているのに。


「それじゃ、ミラちゃんは私が運動させておくわ」

「よろしくお願いします」


 ダニエラお義姉様にミラを預けると、二人そろってランニングを再開した。

 ……口には出さなかったけど、もしかしてダニエラお義姉様自身も自分の体型が気になっていたのかもしれない。紙一重だったな。今度から言葉には気をつけないと。特に女性を前にして、体重の話をしてはいけない。


 カインお兄様から木剣を受け取るミーカお義姉様。どうやら今着ている服は見た目通り、機能性が優れているようである。露出が少し高めなのが玉にきずではあるが。

 俺も木剣を受け取ると、少し距離を取った。


 ミーカお義姉様が剣を構えた。なかなかすきのない立ち姿である。もちろん俺も構えた。どのくらいの力を出せばいいのだろうか。ちょっと悩むな。

 俺たちが庭で何やらやっていることにライオネルたちも気がついたようである。気がつけば、みんなが庭に集まりつつあった。


 ライオネルはカインお兄様とミーカお義姉様の実力が見たいのかな? それならちょっとした昇格試験のような感じにしようかな。相手の実力をすべて引き出すことができるような戦い方にしよう。


 そう思っていると、カインお兄様が試合開始の合図として、あげていた手を振り下ろした。まっすぐにミーカお義姉様が突っ込んでくる。一秒でも時間を無駄にしたくない、そんな感じの突進である。

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