第673話 訓練場で友と再会する
翌日、さっそく聖剣の調査に乗り出すことにした。いきなり行っても研究者たちが困るだろうから、使用人に頼んでダニエラお義姉様につなぎを入れてもらう。
その返事はすぐに戻ってきて、午後から案内するとのことだった。
「事前に聞いておいてよかった。向こうも準備があるんだろうね」
「聖剣を準備することになるでしょうからね。それではこのあとはどうしましょうか?」
「そうだな、訓練場にでも行ってみようかな?」
「キュ!」
ミラも賛成のようである。昨日はダニエラお義姉様が離さなかっただろうからね。運動不足になっているのかもしれない。
訓練場では午前中の鍛錬が行われていた。そこには俺が探していた人物たちの姿もあった。
「アクセル、イジドル!」
「ユリウス? 来てたのか!」
「久しぶりだね!」
おお、二人とも少し大きくなってる? ということは、俺も大きくなっているのかもしれないな。自分の姿は毎日鏡で見ているから気がつかなかったけど。
そんな二人はかわいらしくあいさつするミラにデレデレになりながらあいさつを返していた。
「二人とも変わりはなさそうだね」
「ユリウスもな。いや、ちょっと背が伸びたか?」
「それはアクセルも同じだよ」
そこからはネロも混じって男子トークが始まった。もちろんミラが退屈しないようにミラも一緒だ。そうして話の流れから、アクセルと戦うことになった。アクセルが言うには、俺にどれだけ近づけたか確認したいらしい。
そこまで言われたら断れないよね? そんなわけでアクセルと対戦する。もちろん人目が少ない場所でである。うるさいのがいるからね。オビディオとかピエトロとか。
結果はもちろん俺が勝った。だが、間違いなく前回戦ったときよりもアクセルは強くなってる。
ネロとも戦った。こんな機会はめったにないからね。ハイネ辺境伯家で対戦しようと思ったら、騎士たちが並ぶことになるのだ。そんなことをすれば、ライオネルが苦笑いになっちゃう。こちらももちろん俺が勝った。
「やっぱりユリウスは強いな。騎士団に入ればいいのに」
「俺は魔法薬師だからね。そのつもりはないよ。護身用で十分」
「護身用レベルじゃないんだよな~」
身も蓋もないことを言うアクセル。その顔からは”もったいない”という感情がにじみ出ていた。
剣術ができないイジドルはなんとか俺の魔法を見ようとしたが、さすがに断った。
魔法は派手で目立つ。そう簡単には使えないのだ。そのことはイジドルにもご理解いただけたようである。
訓練も終わり、休憩室へと移動する。ここはだれでも使ってよい場所だ。ミラがいるのでちょっと注目を集めているが、まあ問題はないだろう。つかず離れずの位置でライオネルが見守っているみたいだからね。
「それで、今度は何をやらかしたんだ?」
「ちょっと、ひど……くはないのか?」
「煮え切らないね。ちなみに心当たりは?」
心当たりを話すと、二人の笑顔はだれにでも分かるような作り笑いに早変わりした。無理やり口角を上げて、眉を下げているようだ。もしかして、気を遣わせちゃった?
「さすがはユリウス」
「ブレないよね~」
「いや、違うんですよ。必要に駆られて……」
「チョコレートはどうなんだよ」
「キュ!?」
アクセルのチョコレートに鋭く反応するミラ。キョロキョロしているけど、チョコレートは出てこないからね? チョコレートはポケットに入れておくと溶ける可能性があるからな~。さすがに手持ちはないぞ。
「甘くておいしいんだよ? きっと二人も気に入ると思うんだけどな」
「チョコレート……食べてみたいかもしれない」
イジドルがそうつぶやいた。その本心だと分かるつぶやきに思わず吹き出しそうになったのをグッとこらえた。部屋に戻ればあるんだけど。そう思ってネロを見ると、一つうなずいてから足早に去って行った。
さすがはネロ。どうやら取りに行ってくれたようである。
そのまま二人と話していると聖剣の話になった。どうやら騎士や魔導師たちの間ではそれなりに知られている話のようだ。どこにあるのかは分からないが、この城のどこかにあることは知っているらしい。
「聖剣は台座に刺さってるって聞いたぞ」
「違うよ、箱の中に入っているんだよ。そしてその箱を開けることができれば、聖剣の持ち主として認められる……」
「それこそ違うぞ。台座から抜くことができれば聖剣の持ち主さ」
アクセルとイジドルが聖剣について熱く語っている。分かったことは、正確な情報は伝えられていないということだ。
一体どうやって聖剣の使い手を決めているのかな? やっぱり実際に使えるかどうかなのだろうか。
「ユリウス様、お待たせしました」
「ありがとう、ネロ。助かったよ」
「キュ!」
ネロが持っているものがなんなのか気がついたミラが飛びかかろうとした。それをなんとかキャッチする。ネロの手元にある箱に入ったそれをアクセルとイジドルがしっかりと見つめていた。
「この箱の中に、例のチョコレートがあるのか」
「どんな形をしているのかな?」
ゴクリとツバを飲み込んだ二人。そしてミラ。どうしてこんな食いしん坊に育ってしまったのだろうか。もしかして、育て方、間違っちゃった?
テーブルの上に置いた箱を、ネロがうやうやしく開いた。何その手つき。普通に開けてよね。
「なんだこれ……」
「うわぁ、これがチョコレートかぁ」
あんまり見ない色をしているからね。ちょっと警戒するのも当然か。でもね、食ってみな? 飛ぶぞ? ミラみたいに。俺は頑張って空を飛ぶミラを押さえていた。
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