第661話 ゲロマズ魔法薬の刑
そんな俺の苦しい言い訳に、笑顔で首肯する騎士たち。
キミたちがそこまで後押しするなら仕方ないな、と心の中で勝手に言い訳をしながら試験を続けることにした。
「さっきみたいに、切れ味の確認くらいはしておく?」
「そうですな。なんとなく結果は分かりきっておりますが」
そう言ってからライオネルが試し斬りをするべく、剣を持ってわら人形の前に出た。ライオネルが率先して試し斬りをしているということは、認めてくれたということなのだろうか。それとも、他の騎士にやらせると、危険だと思ったのか。
確かに危険かもしれない。その切れ味でケガをすることはないと思うが、そのまま持ち帰ろうとするかもしれないし、手応えの説明に尾びれ背びれがつくかもしれない。
みんなが見つめる目の前でライオネルがわら人形を斬った。
先ほどよりも小さな音を立てながらわら人形が二つに切断された。切れ味には問題なさそうだな。耐久性能もたぶん問題ないだろう。
「どうだった?」
「まさに伝説級、と言ったところですな。切れ味が良すぎて、普段使いにするのには向いていないかと思います」
「なるほど、確かに」
そうか。ライオネルはこれを言いたいがために率先して切れ味の確認をすることにしたのか。これなら伝説級の武器が騎士団に支給されることにはならない。せいぜい準伝説級で済ませることができるだろう。
チラリと騎士たちを見ると、ものすごく残念そうな顔をしている人たちがいた。ライオネルの意図に気がついたのだろう。残念だったね。
「それじゃ、これ以降に魔法薬の性能試験に使った鋼の剣は厳重に保管しておくように。当然だけど、必要なときには使ってもらって構わないからね」
「分かりました。そうさせていただきます。もちろんこのことをお館様に話してもいいのですよね?」
ニコォとライオネルが笑う。う、怖い。ここで”みんなにはナイショだよ”なんて言う度胸は、俺にはなかった。ここは了承するしかないな。チラッと見たファビエンヌとネロの顔も引きつっている。やむなしだ。
「もちろんだよ、ライオネル。いい感じに話しておいてよ」
「善処はします」
そうは言ったものの、”さすがにそれは無理だろ”とライオネルは言いたそうだった。俺もそう思う。それでもお父様に対してワンクッションを入れることができるので、お父様の胃には優しいかもしれない。どうか、そうでありますように。
「よし、次だ次。次の魔法薬を試験しよう。みんなは俺の指示に従うように」
ここまで来たからには遠慮はいらない。どのみちお父様にこの話が伝わるのだ。それならしっかりと試験をしてしまった方がいいではないか。そしてしっかりと怒られることにしよう。そう思うことにした。
ここで大事なのが、この試験を強行したのが俺でなければならないということだ。そうでなければ、ファビエンヌとネロ、そしてライオネルたちがお父様に怒られることになるかもしれない。それだけは全力で回避せねば。
「ユリウス様……」
「ほら、ファビエンヌもネロも手伝ってよ」
それを察したのだろう。ファビエンヌとネロの顔が曇った。きっと頭の中では、自分たちも一緒に怒られるべきだと思っているのかもしれない。でも、そんなことはさせないぞ。
みんなで怒られる必要なんてない。俺一人で十分だ。
あとはこの場にいるみんなを共犯にすることでその口を封じてしまえば問題ない。まあ、そんなことをしなくても、うちの騎士団は優秀な人がそろっているから、情報が外に漏れたりすることはないんだけどね。
もしそんなことをすれば、ゲロマズ魔法薬の刑である。おお怖い。
準備してもらった鋼の剣へ次の改良型聖なるしずくをふりかけた。先ほどよりもさらに黄色の色合いが濃くなった。これは最終的には金色になりそうな予感がするぞ。
「ふむ、聖剣級か」
「ちょっとユリウス様、さすがにこれ以上はやめた方がよろしいのではないでしょうか?」
小声でつぶやいた俺の声を拾ったファビエンヌが素早く何度も俺の袖を引っ張った。ファビエンヌにも同じような鑑定結果が見えていることだろう。それならそんな風にもなるか。
どうしたものかな。ここでやめにしたい気もするし、これ以上になるとどんな鑑定結果になるのかも気になる。
「ユリウス様、どのような鑑定結果になりましたかな?」
笑顔のライオネル。その顔はすでに悟りの境地に達したようである。
可能な限り性能を確認して、その現実を受け止める。そしてそのことをお父様に話す。そんな気概を感じた。
「聖剣級になったよ。そうなると、この鋼の剣は聖剣ということになるのか。でも、あくまでも擬似的なものだね」
「と申しますのは?」
「聖剣には剣の切れ味、耐久性能の他に、特殊な能力を持っているんだよ。レイブン王国の聖剣ゲートキーパーは楽園への扉を開くことができるし。でも、この聖剣級の剣にはそこまでの力はないみたいだ」
「なるほど。それなら確かに擬似的な聖剣ということになりますな。それでもとんでもない代物であることには変わりありませんけどね」
俺たちの話を聞いて、さすがに騎士たちも緊張しているようだ。先ほどまでの祭りのような熱気はなかった。それだけ聖剣という存在が重いことを示している。
さて、その先は一体、何になるのかな?
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