第659話 準伝説級
模擬戦闘を終えて一息ついた騎士たちが俺たちの周りに集まってきた。考え込んでいるライオネルの様子に対して、ヒソヒソ声が聞こえてくるような気がする。
「ユリウス様、ご存じとは思いますが、あえて言わせていただきます。本来、レイスほどの魔物を倒すときは、取り囲んで、魔法で集中砲火して倒すものなのです。物理攻撃で倒すことは、だれも想定していないと思います」
「なるほど、確かに」
銀の剣を使ってもあまり効果がなさそうだったからね。物理攻撃で倒そうとするならば、聖剣クラスの武器を持ってこなければならないのかもしれない。
でもそれだと不便だよね? 聖剣クラスの武器がそんなにたくさんあるとは思えない。
もしたくさんあるのなら、スペンサー王国の聖剣が使えないだけで、ダニエラお義姉様があんな沈んだ顔になるはずがないからね。あの顔は、聖剣の代わりがないことを明確に示していたはずだ。
「それでも、ないよりかはあった方がいいと思うんだよね。魔導師を集めるのも大変だろうし、討伐までに時間がかかる。その間は被害が出続けることになるよね?」
「それはまあ、そうですが……」
「それなら問題ないよ。被害は最小限で食い止めた方がいいに決まってる。それに、魔法が効かないときもあるかもしれない」
俺がそう言い切ると、渋々といった感じでライオネルが了承してくれた。
どうしたんだ、ライオネル。いつもならノリノリで協力してくれるのに。まさか、お父様からの指示を気にしているのか? 俺がやりすぎないように見張っておけという指示を。
やだなぁ、ライオネル。俺がいつもやりすぎるわけないじゃないか。俺だって成長しているのだ。こんなこともあろうかと、今回は何段階にも効果に変化をつけて、魔法薬を作っているのだよ。
ライオネルの指示により剣が用意された。今回はゴースト系の魔物を倒しに行くわけにはいかないので、『鑑定』スキルを使って観察するだけにとどめることにしている。
それでもおおよそのことは分かるし、ファビエンヌの『鑑定』スキルのレベルアップにも貢献することができるはずだ。
「今回、用意した魔法薬はこれだ」
「ふむ、五つありますな。色が少しずつ違うようですが、効果が違うのですか?」
「その通りだよ。五段階に効果を分けて作ったんだ。その中で、一番よさそうなのを採用しようと思っているよ」
納得したかのように何度もうなずくライオネル。その目には安心したかのような優しい光がともっていた。そしてなんとなく、”いつもそうしてもらえるとよかったのに”と顔に書いてあるような気がする。
効果が高ければ高いほどいいじゃない、という俺の考えは改めるのがよさそうだ。
「こちらを作るにあたって、ファビエンヌ様も協力されているのですよね?」
「もちろんですわ。私も協力いたしましたわ」
「やはりそうですか。さすがはファビエンヌ様です」
笑顔のライオネル。まるで同志を得たかのようである。くっ、なんだか悔しいぞ。でも確かに、俺一人だったら、この一番効果がありそうなものだけを作っていたかもしれない。
俺はごまかすかのように作業を進めることにした。
「それじゃ、さっそく試験を開始しよう。まずはこの剣に改良型聖なるしずくをふりかけてと」
持ってきた”改良型聖なるしずく”の中でも、一番効果が低いものの小ビンのフタを開けて、中に入っている液体で剣の両面を洗う。ミラの毛を使ったこともあって、改良前のものよりもキラキラ感が強いように感じた。
そして、なんか剣の色がほんのり黄色くなっているような気がする。
「うーん、これは……」
「どうかしましたか? あら、ちょっと変色してますかしら」
「やっぱりそう見えるよね」
ライオネルを始めとして、他の騎士たちも剣を観察している。色が変わったくらいならいいんだけど、剣の耐久力が下がっていたとしたら問題だな。どうしよう。
鋼の剣:準伝説級。耐久力(最高)、破邪効果(大)、効果時間(百年)。
うーん、ヤバイ。これはヤバイ。一番効果が低い魔法薬を使ってこれなのか。どれだけすごいんだよ、ミラの毛は。それに準伝説級って何。俺たち、伝説の武器を作っちゃったってわけなの?
グイグイと無言でファビエンヌが俺の袖を引っ張ってきた。その顔には血の気がなかった。どうやらファビエンヌも見てしまったようである。
どこまで見えたのかな?
「ユリウス様、あれ、問題になるのではありませんか? 準伝説級って……」
「ふむ、ファビエンヌにも同じものが見えたのか。さすがはファビエンヌ。成長してるな」
「現実逃避しないで下さい。ちゃんと向き合って」
慌ててファビエンヌから目をそらせていた俺の顔を、グイとファビエンヌが自分の方へと向けた。
どうしよう。ファビエンヌにも見えているならごまかせないな。剣の色が変化したのは、鋼の剣の階級が一つ上へと上がったからなのだろう。
「こうなったら、ありのままを話すしかないな」
「ありのままを……」
「そう。ありのままを。そしてみんなの口を封じるんだ」
あ、ファビエンヌの目がチベットスナギツネみたいになってる。どうやらファビエンヌは俺の意図に気がついたようである。
そう。みんなも共犯にしてしまえという意図をである。
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