第633話 緑の精霊様の加護
どうやら俺たちが最後にこの場に到着したようだ。他の家族みんなはすでに挨拶をしているのだろう。精霊様がこれから何を言うのかを、どこか不安な様子で見守っていた。
その精霊様からはどこか柔らかい空気が漂って来ている。悪い話ではなさそうだな。
「わたくしは緑の精霊ですわ。先日、ハイネ一族のみなさまがわたくしとの盟約を果たして下さったため、こうして再び、地上に現れることができました。ありがとうございます」
そう言って深々と緑の精霊様が頭を下げた。それに対して、なんのことなのかサッパリ分からないハイネ一族は笑顔を貼りつけたまま、お互いを見ていた。
何、盟約って。お父様、知らないの?
そんなみんなからの視線がお父様に集まった。ますます笑顔を深くしたお父様が、観念したのか緑の精霊様に尋ねた。
「申し訳ありません、緑の精霊様。その盟約とやらはなんなのでしょうか? どうやら途中でその伝承が途切れてしまったようで、我々の世代まで伝わっていないのですよ」
「あらまあ! そうでしたの? それなのに盟約を果たして下さるとは。これはもう、ハイネ一族とわたくしとの深い縁でしかありませんわね!」
一瞬、怒られるかと思ったがそんなことはなかった。緑の精霊様はますますうれしそうな雰囲気を作り出している。
ホッとする俺たち。どうやら見えない力が働いて、首の皮一枚でつながったようである。
「力尽きたわたくしが復活するまでには長い時間がかかることは分かっていました。そして復活するためにはハイネ一族のみなさまの力が必要だったのですわ」
「我々の力?」
お父様が俺たちを見渡した。お前たち、何かやったか? とでも言いたそうだった。そして最後に俺を見て止まった。
俺じゃないですからね! 今回は俺、何もやってませんからね!? 実に心外である。
まあ、それも前科持ちなのでしょうがないのかもしれないけど、今回ばかりは無実である。
「そうです。わたくしの力が再び満ちたときに、ハイネ一族のみなさまの手によって、慰霊碑に花と祈りをささげることになっていたのですよ。それなのに、こんなに素晴らしい物をいただけるだなんて」
なるほど。確かに祈りをささげたし、花の代わりに花で作った装飾品をお供えしたっけ。まさかそれが復活の鍵になっているとは思わなかった。
それならこれって俺が原因じゃないよね? ね?
「そうでしたか。まさか知らずにその盟約を果たしていたとは思いませんでした。あの、復活おめでとうございます」
「おめでとうございます」
みんなで頭を下げる。そんな俺たちの様子をイヤイヤと首を振って止めようとする緑の精霊様。まさかずっと昔からハイネ一族と緑の精霊様との縁があるだなんて思わなかった。
お父様、ちゃんと今日から当主の日記に書き記しておくんだよ。子孫が困らないようにね。
「お礼を言うのはこちらです。きっかけはどうであれ、みなさまのおかげですわ」
きっかけはそう……俺がクローバーの苗を採取しに行きたいと言ったことである。それってもしかして俺が原因なのか? でも盟約が無事に果たされたのでよし。お父様も怒ることはないだろう。
「みなさまにはお礼をせねばなりませんわ。わたくしの加護を授けましょう」
そう言うと、キラキラしたものが緑の精霊様から発せられた。それがみんなを取り巻いたかと思うと、手の甲に花の模様が浮かび上がった。
緑の精霊様の加護、ゲットだぜ! あ、他のみんなは自分の手の甲を見て口を開けているな。まさか自分が加護持ちになるとは思わなかったのだろう。
「あ、ありがとうございます。まさかこのような素晴らしいものをいただけるだなんて、思ってもみませんでした」
「当然の報酬ですわ。みなさまが心を込めて作って下さった、これらの素晴らしい装飾品によって、今のわたくしはかつてないほどの力を手にしておりますもの」
そういえば精霊は人々の信仰心が力の源になっているみたいなことを言ってたな。俺がやったのは精霊の魔力を増やすという対症療法だったけど、本来は必要ないものなのだ。
人々が精霊をもっと信仰してくれれば、世界ももっと清らかになるのにね。
そして緑の精霊様といえば、どうやらハイネ一族との結びつきがかなり強いみたいで、他の人たちよりも、ハイネ一族の信仰心の比重が大きいようだ。その結果が緑の精霊様のパワーアップである。
大丈夫だよね? ハイネ一族、何かやっちゃってないよね?
「ユリウス様、私も緑の精霊様の加護をいただいてしまったのですが、よろしいのでしょうか?」
「もちろんだよ。ファビエンヌももう、ハイネ一族の一員ということさ。ダニエラお義姉様ももらっているみたいだし、問題ないよ」
ダニエラお義姉様とアレックスお兄様へ目を向けると、お互いに手の甲を見せ合っている。感激と困惑が入り混じった複雑な顔をしているけどね。
「見て下さい、ユリウスお兄様! 私の手にもほら」
「キュ!」
ロザリアの手にもちゃんと花の模様がついている。そして、ミラの手にも浮かび上がっていた。
え? マジで!? ゴシゴシとミラの模様をこするが、取れそうにない。大丈夫なのかな。
「キュ……」
「ごめん、ごめん。ミラも一緒に花冠を作ったもんね、当然だよね?」
「キュ!」
いいのかこれで。それすなわち、ミラもハイネ一族として認識されたということである。つまり、ハイネ一族は聖竜とも深い縁ができたということだ。
どうしよう。スペンサー王国内でもかなりの力を持つ辺境伯になるぞ。
国王陛下にも報告することになるだろうし、今から頭が痛いことだろう。主に俺じゃなくてお父様が、の話だが。
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