第631話 植物育成のすすめ

 霧吹きに入れた保存液を使って、みんなの花冠にコーティングしていく。『鑑定』スキルで確認すると、問題なくコーティングできていた。持続時間についてはノーコメントで。

 遠い子孫がどう思うか、今から心配だ。


「これで大丈夫です。物理的に壊れたりしない限りはこのままの状態を保つことができるはずですよ」

「それなら飾っておくケースを準備しなくちゃいけないわね。マックスが私のために作ってくれた宝物ですもの」

「お母様、私も飾っておきたいです! ユリウスお兄様が作ってくれた宝物ですから」

「キュ!」


 お母様のまねをしたのか、ロザリアとミラもショーケースをご希望のようである。もちろん、ダニエラお義姉様もだろうな。

 サロンがその話で盛り上がってきたところで、俺たちはクローバー畑へと向かうことにした。このままだと、行く時間がなくなってしまう。


「ファビエンヌも飾っておくケースがほしいんじゃないの?」

「それはもちろんそうですが……」

「あとでアンベール男爵家へケースを届けるように手配しておくよ。それまでちょっと待っててね」

「ありがとうございますわ」


 ファビエンヌがニッコリほほ笑んだ。これでよし。ファビエンヌだけ仲間外れにするのはよくないからね。

 クローバー畑へ到着すると、そこにはすでにクローバーの苗とドンドンノビール二号が置いてあった。

 準備は万全だな。あとは植えながら、ついでに挿し木をしながら増やしていくだけである。


 まずはドンドンノビール二号を畑に与えることにしよう。これだけあれば、畑の半分近くにまくことができるはずだ。


「まずはみんなでドンドンノビール二号を畑にまいていこう。三人でやればすぐに終わるはずだよ」

「それではさっそく始めましょう」

「任せて下さい」


 三人で手分けして作業をしていく。黙々と作業をしたこともあって、それほど時間をかけることなく終わらすことができた。次はそこへ苗を植えていく作業である。

 採取して来たクローバーの苗は全部で十八株。本当は二十株ほどほしかったがさすがにこれ以上は無理だった。


 だがしかし、厳選を重ねて選んだ苗なだけあってどれも立派である。少々、挿し木に使っても大丈夫そうだ。これで三倍くらいに増やしたいところである。

 ファビエンヌとネロに指示をしながら植えていく。


 本当は『移植』スキルを持つ俺が全部やるのがよいのだろうが、それだと二人が育たないからね。今後も一緒に色々とやっていくことになるだろうし、できれば二人にも『移植』スキルを身につけてほしい。こればかりは運要素が強いけどね。


「クローバーの苗はこうやって植えるんだよ」

「ユリウス様は植物の生育にも詳しいのですね」

「魔境に生えている素材にも品質が高いものがあるけど、庭でこうして育てれば、安定した品質のものを採取することができるからね。魔法薬師には必要な技術だと俺は思っているよ」

「私も趣味で庭に草花を育てていますが、まだまだ知識が足りておりませんわね」


 アンベール男爵家の庭にも、花だけでなく、魔法薬の素材になる植物が植えられていることは知っている。そこではなかなかよい品質の物が育っているのだが、種類はそれほどでもなかったからね。


 庭に魔力の豊富な場所ができたことで、きっとこれからはもっと色んな種類の素材が採取できるようになるんだろうな。そうなれば、作れる魔法薬の幅が広がることになる。それはファビエンヌの成長にもつながることだろう。


「次はこれ、カカオの実を植えよう。立派なカカオの木になるように、クローバー畑から少し離れたところに植えることにしよう。しまったな、植物栄養剤を作って持ってくるのを忘れてしまった」

「そんなに早く生長させたかったのですか?」

「ファビエンヌもすぐにカカオの実のとりこになるよ」

「楽しみにしておりますわ?」


 ファビエンヌ、疑問形になっているぞ。そんなに疑っているのか。まあ確かにこの見た目だと、おいしそうには見えないよね。俺も見えない。

 だが加工することでチョコレートになるのだ。その状態まで持って行けば、みんなチョコレートのとりこになることだろう。今からその日が来るのが楽しみだ。


 カカオの実から種を取り出し、魔法で耕した土へと植えていく。場所を忘れないように、目印の木切れも忘れない。これでよし。明日は忘れずに植物栄養剤を持って来よう。


 その後も二人に色々と教えながら作業をしていったが、どうやらスキルを覚えることはできなかったようである。本当にスキルは取得条件が不明だな。ファビエンヌが『鑑定』スキルをいつの間にか取得していたように、そのうち取得するのを願うしかない。


「あとは水をあげれば、今日の作業は終わりだよ。手伝ってくれてありがとう」

「いい勉強になりましたわ。クローバーはかわいらしいですし、家の庭にも植えようと思います」

「とても勉強になりました。畑一面がクローバーになる日が楽しみです」


 どうやらそれぞれ、何かしらの収穫があったようである。みんな少しずつ成長していることだろう。そのうち芽が出るといいね。

 最後に魔法で水をあげた。しばらくは毎日、ここへ来るつもりなので、水やりは問題ないだろう。


 でもそのうち、ロザリアが作った散水器を設置する必要があるな。ロザリアにおねだりして作ってもらおうかな? いや、それだとあとが怖いか?

 そんなことを考えながら屋敷へと戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る