第609話 ロザリアサン!?
ロザリアと一緒に蓄音機の外装の図案を考える。他の人の意見も聞きたくて、ネロとリーリエにも相談する。だが、庶民向けなら意見を出すことはできるが、貴族向けはさすがに無理だと言われてしまった。
「そうなると、やっぱりお母様とダニエラお義姉様に聞くしかないか。流行には敏感だろうし、伝統的な絵柄についても詳しいと思う」
「私はもっとクマちゃんやネコちゃんを増やした方がいいと思います」
「そっか~。それじゃ、ロザリアの考えた模様で作った蓄音機を、お兄ちゃんにプレゼントしてもらえないかな?」
「もちろんですわ」
そうしてロザリアがフンス、フンスと言いながら外装を作っていく。愛する妹から蓄音機をプレゼントされるとか、兄冥利に尽きるな。お兄様たちがうらやましがるかな? それならアレックスお兄様の蓄音機もロザリアに作ってもらった方がいいかもしれないな。
「まずは国王陛下用の蓄音機を作ろうかな。いつも通り、国章は入れるとして、やっぱりミラも入れた方がいいよね。一応、国の守り神のはずだから」
「キュ」
俺の声が聞こえたのか、ミラがポーズをとってくれた。伸びをするようなポーズである。それでいいのか? せっかくなので、その様子を紙にササッと描いた。『絵画』スキルはそれほど高くはないのだが、なかなかいい感じに描けたと思う。
「描き終わったから楽にしていいよ。どう? 似てる?」
「キュ、キュ!」
俺の描いた絵に大変満足したのか、絵を見たミラが頭突きをしてきた。喜んでくれているのだと思いたい。そんなミラの様子が気になったのか、作業を中断したロザリアがこちらへとやってきた。
「私もお兄様が描いた絵を見てみたいです」
「別に構わないけど、ミラを描いただけだよ?」
はい、とロザリアにわたす。特になんということもない、鉛筆でのデッサンである。それなりに細部まで書き込んではいるけどね。
それを穴があきそうなほど見つめるロザリア。気になるのか、ネロとリーリエもチラチラと紙に視線を送っている。
「ネロとリーリエも見ても構わないよ。ロザリア、二人にも見せてあげて」
「お兄様、この絵、もらってもいいですか?」
「いや、あの、これから作る外装の下絵なんだけど……」
結局、ロザリアのおねだりに負けてロザリアにあげることになった。色もついてない、ただの鉛筆での素描なんだけどいいのかな? ロザリアが満足そうにしているからいいのか。
ちょっと微妙な気持ちになりつつも、板金加工を施していく。ある程度の形になったところで夕食の時間になった。さすがに国王陛下へ献上することになる品なので、細工に時間がかかるな。決して他で手を抜いているというわけではないのだが、なんだかプレッシャーが違う。
夕食の場には家族全員がそろっていた。俺の隣に一ヶ月の間一緒にいたファビエンヌがいないのがちょっと寂しいが、そこは膝の上にいるミラがカバーしてくれた。ミラは相変わらずドライフルーツを食べている。精霊様たちも好きみたいだし、神聖な生き物が好む何かがあるのかもしれない。
みんなでワイワイと楽しく食事をしているところに、ロザリアが爆弾をぶち込んできた。どうして内緒にしておくように俺は言わなかったのか。
「もうすぐユリウスお兄様にプレゼントする蓄音機が完成しますわ。そしたらユリウスお兄様のピアノの演奏を聴かせてくれるのですよね?」
「え? えっと……」
シンと静まり返る食卓。どうしてついさっきまで騒がしかった食卓が、水を打ったように静かになるんですかね?
チラリと素早くお父様の顔を確認する。すでに片方の眉が上がっていた。
この場にライオネルがいれば、すぐにでも確認を取っていたことだろう。だが、残念ながら、この場にライオネルはいない。つまり、俺から直接この話を聞くしかないのだ。
だがお父様よりも先にお母様が敏感に反応した。
「ユリウス、なんの話かしら? 聞き間違いでなければ、ユリウスがロザリアにピアノの演奏をしてあげる、みたいに聞こえたのだけど」
「いや、その」
「ユリウスお兄様がピアノの演奏が得意だと、ネロが言っていたのです。それで私にも、ユリウスお兄様のピアノの演奏を聴かせてもらえることになったのですわ」
注目が俺に集まった。それもそのはず。ハイネ辺境伯家では一度もピアノの演奏なんてしたことがないし、音楽の授業なんてものもなかった。それなのに、どうしてお前はピアノの演奏ができるんだってなるよね?
「そうなのか。ユリウス、私もロザリアと一緒にピアノの演奏を聴かせてもらうとしよう」
「あら、いいですわね。私も聴かせてもらうわ」
「もちろん私たちも聞かせてもらうよ」
「ええ、楽しみですわね」
何も知らないダニエラお義姉様が無邪気に笑った。きっと俺が、ハイネ辺境伯家でピアノの練習をいつもしていたのだと思っているのだろう。
でも俺、ダニエラお義姉様がハイネ辺境伯家へ来てから、一度もピアノの演奏をしたことがないよね? どこかで隠れて練習していると思っているのかな。よく分からん。
だがしかし、一つだけ確実なことがある。それは俺がみんなの前でピアノの演奏をすることになるということである。
しょうがない。やるしかないか。人間、あきらめが肝心だ。そう思ってネロを見ると、その顔はすでに真っ青になっていた。
別にネロを責めるつもりはまったくない。ネロにはいつもお世話になっているからね。これ以上、ネロにそんな顔をさせるわけにはいかない。こうなったからには盛大にユリウスリサイタルを開催してあげようではないか。
「もちろんですよ。それでは夕食のあとに、タップリと演奏させてもらいますよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。