第608話 ネロ、やらかす
ロザリアに蓄音機の話をして盛り上がったところで、大きな問題が立ち上がった。テーブルの向こうから、ロザリアとミラが白い目で俺を見ているのだ。
「私もお兄様とファビエンヌお義姉様が歌った曲を聴きたかったですわ」
「キュ、キュ!」
「あー、今度ファビエンヌがハイネ辺境伯家へ来たときに聴かせてもいいか、聞いておくよ」
今度はほほを膨らませる二人。そんなに俺たちが歌った歌が聴きたかったのか。完全に悪乗りして歌った曲なので、ちょっと、いや、かなり恥ずかしいんだけど。俺にいたっては、歌った曲はアニソンである。もし、この世界に俺以外の転生者がいたら、非常に気まずい。
「私も聴いてみたかったです」
「リ、リーリエも? 困ったなぁ」
助けを求めてネロに視線を送る。それに対して、いい笑顔を浮かべたネロ。
大丈夫かな? なんだか嫌な予感がしてきたぞ。ちゃんと三人を止めてくれるよね? 信じているよ。
「ユリウス様の歌はどれも素晴らしかったですよ。なぜか聴いているだけで、こちらまで元気が出てくるような気がしてくるほどなのです。それに、ユリウス様のピアノの演奏は、もはや芸術的でしたからね。レイブン王国の王族の皆様も涙をお流しするくらいで……」
「ちょ、ネロ、ストーップ! やめて!」
慌ててネロの口を塞ぐ。ロザリアの蓄音機に入っている曲のピアノを演奏しているのが俺であるということは、まだだれも知らないはずだ。あのときお父様からは特に言われなかったので、ライオネルも報告していないのだと思う。
それなのに、ここでみんなに暴露したら、とても悪い予感がする。お父様とお母様から、試しに演奏してみなさいとか言われかねない。
俺に口を塞がれて、ハッと我に返るネロ。しまった! みたいに目を大きくしている。
遅いから。色々と遅いから。さすがはユリウス教の枢機卿なだけはあるな。俺の自慢話になると、うっかり我を忘れてしまうようである。恐ろしや。
ジョバンニ様たちは大丈夫かな? 国王陛下に妙なことまで言ってないよね?
「お兄様はピアノも演奏できるのですね! 私、お兄様のピアノの演奏を聴いてみたいなー?」
「キュー?」
やめろ、二人しておねだり光線を放つんじゃない。破壊力が極めて高いから。こら、リーリエ、一緒に混じるんじゃない。さらに断りにくくなるじゃないか!
自分の失言に気がついたネロが、今さら顔色を青くしている。これはもうダメかも分からんね。
「……分かったよ。ロザリアが蓄音機を無事に作ることができたら、一曲だけ演奏してあげるよ」
「お兄様のお歌は?」
「キュ?」
「私も聴きたいです」
「……考えておくよ」
ダメだ。この三人には勝てない。この三人を一カ所にまとめてはダメだ。なんとか分散させないと。
そんなわけで、おやつタイムが終わるとその足で工作室へと向かった。
おお、なんか見たことがない物が転がっているな。ロザリアが何かを作ろうとしていたのかな? それとも、何か作ったあとなのかな?
俺の視線に気がついたのだろう。ロザリアがコテのような物を持ってきた。
「これは私が作った魔道具ですわ。この部分が熱くなって、こうやって髪の毛を挟んでクルンとすると……」
「ヘアアイロン! よく思いついたね」
「ヘアアイロン! いい名前ですわね。それにしますわ。名前が決まらなくてどうしようかと、リーリエと話していたところなのです」
どうやら乾風器に付属しているパーツだけでは、いい感じにウェーブのある髪型にならなかったようである。それに乾風器だけでは髪をセットするのに時間がかかるのかもしれない。
その点、ヘアアイロンがあれば、かなりの時間を短縮することができるようになるだろう。女性特有の悩みなので、間違いなく俺じゃ気がつかなかったな。
「すごいな、ロザリア。この魔道具は女性たちにきっと喜ばれるよ」
「そうだととってもうれしいです。さっそくお母様とお義姉様にも見せることにしますわ」
どうやら出来立てホヤホヤの魔道具だったみたいである。念のため動作を確認したが、まったく問題なかった。これはもう、俺が教えることはないな。免許皆伝の腕前だ。ロザリアにはもうお兄ちゃんは必要ないな。ちょっと寂しい。
「でもその前に、お兄様、早く蓄音機の作り方を教えて下さい! 他に魔道具は作ってませんよね?」
「あー、えっと、そういえば自動魔石粉砕機も作ったっけ?」
そうそう、自動魔石粉砕機を改良して、穀物を粉にする装置にしようと思っていたんだっけ。ついでに改良するか? それほど時間はかからないだろうからね。
「お兄様、その話も詳しく!」
「分かったよ。それじゃ、まずは蓄音機からだね。結構な数を作る必要があるから、気合いを入れておいてよ」
「お任せあれ!」
「キュ!」
ロザリアとミラが胸を張った。ミラはロザリアの邪魔をしないように、ネロとリーリエと一緒にちょっと離れたところから見ておこうね~。
そんなわけで、俺とロザリアの蓄音機製作が始まった。さすがロザリア。覚えが早い。こんなに立派に育って、お兄ちゃん、うれしいよ。
「内部装置は問題ないね。あとは外装か。これが問題だな」
「どんな模様にしますか?」
ロザリアと相談しながら、まずは図案を紙に描くことにした。同じ構図だと、さすがに手抜きだと思われるかな? 一般販売するものはそれでもいいかもしれないけどね。
貴族向けの蓄音機の外装はオーダーメイドを受け付けますとかにすれば、間違いなく大金を稼ぐことができるだろう。
でもそれをやると、俺とロザリアが忙しくなる可能性が高くなるのか。親方たちも、他の魔道具製作で一杯一杯だろうからね。これはもっと魔道具師を増やす必要があるかもしれないな。
どこかに信頼できる魔道具師が転がっていないかな? エドワードくんとかよさそうなんだけど。今度、声をかけてみようかな?
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