第593話 御神木の枝
国王陛下たちとの謁見が終わると、神棚を作るべく木材の確保を頼んでおいた。なるべく高級木材にしてね、と頼んでおいたので、きっと精霊様たちも満足する神棚を作ることができるだろう。
そうして夕方、俺たちの部屋に立派なシダーウッドの枝と透明度の高い水晶が使用人から届けられた。
あれからすぐにソフィア様は手続きをしてくれたようで、今ではこの部屋は、王城内の俺たち専用の部屋になっていた。
「ずいぶんと立派な枝ですわね」
「ファビエンヌにも分かる? この枝、かなり濃厚な魔力が含まれているんだよね。どこから持ってきたのかな? 届くのもずいぶん早かったけど、まさか……」
「……まさか、御神木から?」
どうやらファビエンヌも俺と同じ結論に行き着いたようである。ネロとライオネルも同じ意見のようで、ファビエンヌと同じように苦笑いしていた。たぶん俺もみんなと同じ顔をしているんだろうな。
「明日にでも御神木に謝りに行かないとね」
「そうですわね。何かお礼を持っていきたいですわね」
「それならファビエンヌ特製の万能植物栄養剤を与えることにしよう。もう生長する必要はないだろうからね。栄養を与えて、いつまでも元気でいてもらえるようにしよう」
「いい考えですわね。明日の朝にでも調合室を借りて、作ることにしますわ」
これで御神木への対応は大丈夫だろう。貴重な枝を提供してもらったんだ。お礼は必要だよね。
それにしてもいい枝だな。この枝に負けない、立派な神棚を作らないとね。
あまり大きな神棚にすると、移動させるときに大変になる。そこで今回は小型ながらも、しっかりと装飾を施したものにしようと思う。
装飾はどうしようかな? レイブン王国といえば聖剣だろう。なので聖剣のレリーフは入れる。あとはやっぱり精霊様だな。この国を救ったのは間違いなく精霊様たちだからね。
……大丈夫だよね? ちょっと見た目が変質者一歩手前だけど、精霊様だから大丈夫だよね? 俺はみんなを信じて、精霊様たちのレリーフを入れるぞ!
あとは御神木と、レイブン王国の国章だな。これで完璧。だれがどう見てもレイブン王国専用の神棚にしか見えないだろう。
「ユリウス様、私に構わず、作製に取りかかってもらって大丈夫ですわよ」
「そう? それじゃ、そうさせてもらおうかな……」
どうやら顔に出ていたようである。どんな顔だったのだろうか。想像を膨らませ過ぎて、ニマニマしちゃってた? ちょっと恥ずかしいな。こんな顔、なるべくファビエンヌにしか見せないようにしないといけないな。
御神木の枝を切り分けて、部分ごとにレリーフを彫っていく。シュッシュッと木を削る小気味よい音がする。
この部屋が俺たち専用の部屋になったことで、遠慮なく作製できるようになっていた。
これまでは防音の魔法を使ったりしていたのだが、少々の音が出るくらいなら、その必要もない。
そしてやろうと思えば、魔法薬を作るための設備も持ち込むこともできるだろう。もちろん最小限の設備になってしまうけどね。それでも十分に魔法薬を作製することができるのだ。
ある程度、出来上がったところで今日の作業を終えることにした。いくらファビエンヌからの許可が出たからといって、寝るまで放置するわけにはいかない。ここから寝るまではファビエンヌと過ごさないとね。
「ねえ、気がついてる?」
「……ベッドが一つの大きなものになっていることですわよね?」
「いつの間に……判断と動きが速い」
先ほどベッドルームに入ってみると、そこにはいつも使っていた二つのベッドではなく、いつの間にか一つのベッドになっていたのだ。
あまりの作業の速さに俺じゃないと見逃していたかと思ったが、ファビエンヌにも見えていたようである。
「今日からユリウス様の隣で寝ることになりますね」
「そ、そうだね」
俺の理性、持つかな? 普通の子供だったらよかったんだけど、中身は大人なんだよね。当然のことながら、そっちの知識もあるわけで。ファビエンヌはどうなのだろうか。たぶんこれから教育を受けるんだよね?
客間のソファーで寝ようかとも考えたけど、それは絶対にファビエンヌが許さないだろう。なんなら、自分と一緒に寝るのがそんなに嫌なのかと勘違いされそうである。
ここは大人しくファビエンヌと一緒に寝るしかないな。
何、大丈夫。実家ではロザリアと一緒に寝ていたこともあるではないか。問題ない問題ない。
だがしかし、その日は明け方まで眠りにつくことができなかった。
ちなみにファビエンヌは普通に寝ていた。どうやら意識していたのは俺だけだったようである。なんか、恥ずかしい。
翌日、朝食を終えてから神棚の仕上げに入る。あとは組み合わせるだけの状態になっていたので、それほど時間をかけずに終えることができた。
神棚が完成したら、次は調合室で万能植物栄養剤の作製だ。朝のうちに調合室を借りられるように頼んでおいたので、問題なく使えるはずだ。
調合室にいたのはレイブン王国の魔法薬師たちだけだった。話によると、俺たちと一緒に来たスペンサー王国からの魔法薬師たちは、現在、部屋で報告書を書いているらしい。
スペンサー王国へ戻ったら、すぐに報告するんだろうな。色々あったからね。
まあ、俺には国へ報告する義務がないので関係ないのですけれどもね!
よかった。もし俺に報告義務があったら、今頃、神棚や万能植物栄養剤を作っている場合ではなかったことだろう。なんといっても、ほとんどすべての事柄に俺が関わっているからね。
もしかしなくても、みんなが必死に報告書を書いているのは俺が原因だよね? 万能植物栄養剤と一緒に初級体力回復薬も作って、差し入れに持っていってあげることにしよう。
すまねぇ、みんな。
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