第577話 土魔法の有用性
ここで考えても仕方がない。荷馬車はライオネルに任せて、俺たちは自分たちの馬車の方へと向かった。そうすれば自然と王家の馬車のところへと行くことになる。
……どうやら王家の馬車にはまだだれも乗っていないようだな。念のため確認しておくか。御者台にいるおじさんに聞いてみよう。
「あの、王家の方も一緒に行くのでしょうか?」
「これはユリウス様! 急な申し出になってしまいましたが、第一王女様とエルヴィン様も一緒に現地へと向かうことになっております」
「そうなのですね。分かりました」
やはりソフィア様とエルヴィン様だったか。国王陛下や王妃殿下じゃなくてよかった。これならみんなも普通に緊張するくらいですむだろう。ガチガチに緊張して動きが止まるようなことはないはずだ。
自分たちの馬車には乗らず、ファビエンヌと一緒に外で二人を待った。ちゃんとあいさつをしておくのが大人のマナーである。
研究者たちや魔法薬師たちの荷物も積み終えたようだ。今は最終点検をするかのように、ロープのチェックをしっかりと行っている。
「遅くなってしまってしまいましたわ」
遠くからソフィア様の声が聞こえた。どうやらソフィア様とエルヴィン様が到着したようだ。作業をしている人たちの手が止まった。
「ソフィア様、我々も今、準備が完了したところですよ」
作業をしている人のだれかがそう言った。二人はそのまま俺たちの方へとやって来た。二人の他に、別の護衛がついている。向こうの幌馬車には使用人らしき人たちが乗り込んでいるのが見えた。
なかなかの大所帯になるみたいだな。これなら準備に時間がかかってもおかしくはないか。一緒に行くことを急に決めたのだろう。俺たちのように。
そのままの姿勢でソフィア様の言葉を待った。
「国王陛下にお願いして、私たちも一緒に見学させていただけることになりました。よろしくお願いいたしますわね」
「お願いするのは私たちの方ですよ。無理を言ってついて行かせていただく立場ですからね」
まあ、とソフィア様が目を丸くしている。今の俺の顔は、隣にいるファビエンヌと同じように、苦笑いしていることだろう。ちゃんと許可をもらったソフィア様とは違い、こちらはちょっと強引について行くようなものなのだ。
「それでは宿の手配をしておきますわね。というか、どうされるおつもりでしたのですか?」
「宿泊できる場所がなければ野営をするつもりでした。馬車には野営道具一式が積み込んでありますからね」
野営はお手の物である。テントを張るだけでもいいし、周囲が気になるなら、土魔法でぐるっと周りを囲めばいいだけなのだ。かまどもトイレもお風呂も、土魔法で簡単に作り出すことができる。
そう考えると、土魔法って大概チートな魔法だよね。これ一つでなんでもできる。人手が足りないなら、ゴーレムだって作れちゃう。ヤバいな土魔法。何かのときのために、素早く豆腐ハウスを作れるように練習しておこうかな?
「ユリウス様……そういうわけにはいきませんわ」
ソフィア様とエルヴィン様が苦笑いしている。どうやらダメだったようである。これは二人にも、俺のサバイバルスキルを見せてあげた方がいいかもしれない。無謀なことをする人物だと思われるのは不本意だからね。
談笑をしている間に出発の時間が来たようだ。先頭を進むことになる馬車から、ブォーという、出発を告げるホラ貝を吹いたような音が聞こえてきた。
「ユリウス様、ファビエンヌ様、出発の時間になったようです。馬車へお乗り下さい」
「分かったよ、ライオネル。それではまた後ほど会いましょう」
「ええ、またお会いいたしましょう」
ファビエンヌの手を取って馬車に乗せる。さすがに何度もやっているので、ファビエンヌのエスコートは完璧である。成長したな、俺。
すぐに馬車が動き出した。アレックスお兄様が作りあげた最新式の馬車なだけあって、ほとんど揺れることはない。さすがである。
ソフィア様とエルヴィン様がこの馬車を試乗したときは大騒ぎになったみたいだからね。すぐに手紙で同じ馬車を発注したって言ってたっけ。これでアレックスお兄様にも箔がつくことになるな。
俺たちを乗せた馬車は特に何事もなく進んで行った。朝からの出発なので、今日中には現地に到着するだろう。前回、向かった場所と同じであるならばの話ではあるが。
途中で何度か休憩を挟みつつ、目的地へ到着した。そこは前回訪れた町だった。
「この町を拠点にして、周辺の村々へ向かうことになるのかな?」
「どうやらそのようですな。王族の方もいらっしゃいますし、さすがに村に泊まるわけにはいかないのでしょう」
「ライオネルの言うとおりかもしれないね」
さすがに小さな村では手に余るか。あの村は小さかったもんね。一番大きな家でも、お姫様が宿泊するのには問題がありそうだった。
町の中で、一番大きくて立派な宿に泊まるようである。すでに部屋は確保してあるのか、俺たちも一緒に連れて行かれた。
「あれ? 確か予定ではこのまま村まで行くことになっていたよね」
到着した宿屋のロビーでライオネルから受け取った予定表を確認する。間違いない。今日のうちに麓の村にまで到着する日程だ。ここからどうするつもりなのかな。研究者や、魔法薬師たちだけ先行して向かうつもりなのだろうか。それなら一緒に肥料を持って行ってもらった方がいいかもしれない。
「そのようですね。ちょっと情報を集めて参ります」
この場所にはソフィア様たちだけでなく、研究者の偉い人や、ジョバンニ様の姿もある。話を聞くのは簡単だろう。ライオネルに情報を集めてもらいつつ、周囲を確認しておいた。
「今日中に村まで行って、明日の朝から本格的な作業を始めると思っていたんだけど、違うのかな?」
「私たちが加わったので、急いで予定を変更しているのではないでしょうか?」
「う、あり得る。みんなには悪いことしちゃったな~」
「そんなことはありませんわよ。ユリウス様が来て下さったことで、きっと安心しているはずですわ」
笑顔でそう断言したファビエンヌ。そうだったらいいんだけどな。まあ、急に加わったのは俺たちだけじゃないし、予定変更になるのはしょうがないか。
ソフィア様も邪魔をしに来たわけじゃないはずだ。おそらく今回の浄化作業に権威付けをするために来ているはずだからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。