第570話 足並みそろえて

 休憩時間が終わったところで、さっそく新肥料、ドンドンノビールを作ることになった。

 作業は役割分担をして行ってもらう。一人で最初から最後まで作るとなると、効率が悪いからね。今回は急ぎなので最大効率でいかせてもらう。効率こそパワー!


「まずはみなさんが使える魔法を教えてもらえないでしょうか?」


 そこからは水を用意する係、水を温める係と役割を与えていく。もちろん火魔法が使える人はすべて、水を加熱する作業に従事させる。ここでどれだけ燃料を抑えられるかがカギとなる。


 薪や魔道具で水を温めることはもちろんできるのだが、それだとお金がかかる。緑を再生しなければならない土地の面積は広大だ。森の精霊様が手伝ってくれるからとはいえ、油断していたらとんでもない金額になることだろう。そしてそれはレイブン王国の国庫を圧迫することになるのだ。


 もちろん俺も水を温める係に加わる。自慢ではないが、火魔法の扱いと魔力量にはそれなりに自信があるのだ。鍛えておいてよかった魔法スキル。

 力がある人たちは肥料を運ぶ役目だ。大変な仕事だが、とても大事な役目である。


 役割分担を終え、それぞれの場所で作業を教えていく。すでにファビエンヌはドンドンノビールの作り方を熟知している。二人で手分けして教えれば、それほど時間をかけずに終わることだろう。


 庭師たちは本当に頑張ってくれた。何よりも、”自分たちが国の危機を救うんだ”という熱意がものすごかった。それに当てられた俺たちも、ついつい作業に熱が入ってしまう。

 気がつけばそれなりの量のドンドンノビールが完成していた。


「ユリウス様、そろそろ城へ戻る時間ですぞ。これ以上遅くなると、心配をおかけすることになるやもしれません」

「もうそんな時間?」


 ライオネルにそう言われて辺りを見渡すと、すでに日が暮れかけていた。あっという間だな。ファビエンヌも今そのことに気がついたのか、キョロキョロと周囲を見ていた。

 完成品の性能と、与える肥料の量を決める試験をしたかったのだが、明日以降におあずけだな。


 しかしそうなると、明日から行うであろう”けがれた大地の浄化作業”には間に合わないな。それならそれでじっくりと構えて、浄化作業の第二陣から、肥料チームが参加できるように万全の態勢を整えておくべきだろう。

 あせって準備して”失敗しちゃった”となるよりかはずっといい。


 作業をしている庭師たちの手を止めさせて、続きは明日にすることを通達した。ちょっと不満そうな顔になった庭師もいたが、指示にはちゃんと従ってくれた。


 そんな顔をしなくても、これから嫌というほど作ることになると思うので、どうか安心して欲しい。……ブラックな職場にならないように気をつけないとね。休み時間をたくさん入れるんだ。


「明日も今日と同じように、庭師の仕事が終わった方から手伝ってもらえるとありがたいです。その間、私たちがここで作業を続けているので、あせる必要はありませんからね」

「もちろんです。必ず手伝いにきますよ」


 他の庭師たちも同じような返事をしている。大丈夫かな? 安全に仕事をしてもらえればそれだけで十分なんだけど。完成した肥料を調合室にしっかりとしまいこむと、城へと戻った。


 これは大事なものだからね。何かあっては困るし、勝手に使われても困る。第二の巨大シダーウッドが誕生すれば、今度こそ、レイブン王国の歴史に名前を残すことになるだろう。


 城へ戻ってからはお風呂に夕食、それから自動魔石粉砕機の追加の作成と忙しい時間をすごすことになってしまった。もちろん、合間合間で時間を作り、ここぞとばかりにファビエンヌに甘えた。ゴロニャン。




 翌日、朝食が終わるころにジョバンニ様たちから伝言があった。昨日言っていた通り、こちらの見学にみんなで行きたいとのことだった。


 もちろんオッケーである。そうなると、今日はけがれた大地が広がる山へは行かないみたいだな。もしかすると、肥料チームと足並みをそろえようと思っているのかもしれない。

 実にありがたい話である。


「ジョバンニ様への伝言と、ちょっと買って来てもらいたいものを頼んでもいいかな?」

「もちろんです。なんなりとお申しつけ下さい」


 伝言を伝えてくれた使用人に、”いつでもお待ちしています”という伝言と今日のお昼の食材を頼んでおく。これで昼食は大丈夫だな。みんなにも振る舞えるように、少し多めに頼んでおく。余ったら庭師たちの晩ご飯用に持って帰ってもらおう。俺のポケットマネーだし問題ない。


「次は自動魔石粉砕機の設置だね。ファビエンヌはここで待ってて、と言いたいところだけど、護衛がライオネルしかいないからなぁ」

「一緒について行きますわ。私一人のために、別の護衛をつけてもらうのもなんだか気が引けますもの」


 頼めば間違いなくつけてくれるだろうが、今は猫の手も借りたいくらい忙しいと思うんだよね。忙しそうに動く使用人や騎士たちの姿を見てるので、これ以上の負担は避けたい。

 ソフィア様なら”そんなこと気にするな”って言うだろうけどね。俺が気になるのだ。


 室内訓練場へ向かい、自動魔石粉砕機を設置する。これで魔石砕きチームの負担はかなり軽減されたはずである。そして人手にも余裕ができるはずだ。これで少しは楽になったかな?


 そう思っていたんだけど、今度は手のあいた騎士たちが肥料作りを手伝うと言い始めた。手伝ってくれるのはありがたいんだけど、本当に大丈夫かな? お仕事大丈夫?

 あまりにも他が忙しそうだったら、元の持ち場へ戻ってもらうことを条件に、手伝ってもらうことにした。


 そのまま騎士たちを引き連れて、まずは先日行った苗木の試験場へと向かう。そろそろジョバンニ様たちがここへ来ているかもしれないからね。それに現状を騎士たちにも見せてあげる必要があるだろう。


「あ、あれはなんだ?」

「いつの間にあんな大木が……まさか、ユリウス様が作ったという肥料でこのように?」

「えっと、実はそうなんですよ。ちょっと肥料を与える量が多かったのと、森の精霊様のお力でこんな大きさまで育ってしまって」


 てへぺろとごまかそうとしたが、すでに騎士たちはあがめるモードになっていた。拝むんじゃない。あと、膝をつこうとするのはやめるんだ。すごく目立つじゃないか。



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