第567話 俺、いらないんじゃないかな

 俺たちのことを気にして登場してくれた森の精霊様を含めて、今後の方針を話した。

 森の精霊様のおかげで、これから俺たちが作ることになる肥料は最大効率で効果を発揮するようになる。そのため、けがれた大地の緑を再生するのに必要な肥料の量は、それほど多くないことが判明した。


「これなら浄化の粉を使うのと同時に、肥料の散布を行っても大丈夫そうですね」


 てっきり大地の浄化作業が先行すると思っていたのだが、どうやらそんなことはなさそうである。同時に行えるのなら二度手間にならなくてすむな。現地に行く人数は増えるかもしれないけど、一度の作業で片づけることができそうだ。

 それに何より、時間を大幅に短縮することができる。


「すでに浄化が終わっている場所には、すぐにでも肥料をまきたいと思っていますわ。大地の緑がよみがえった光景を見れば、近隣住民のみなさんも、きっと安心して下さると思います」

「分かりました。肥料が完成したらすぐに現地へ運び込むことにしますね」

「そのときは私たちもご一緒したいのですが、よろしいでしょうか?」


 どうやら前回の浄化の粉を試したときに、その場にいなかったことを悔やんでいるようである。あのときは急な出発だったし、仕方がなかったと思う。でも、二人は納得していないんだろうな。


「それでは、準備が整いましたら、ソフィア様に一度、報告いたしますね」

「よろしくお願いしますわ」


 大体の方針が固まったところでその場は解散になった。森の精霊様は先に現地へ向かって、他の精霊様と共に作業をして下さるそうである。ありがたいな。むしろ精霊様が協力して下さるなら、”俺、いらないんじゃないかな”と思うほどである。


 俺が手を加えなくても緑の再生は行われそうな気がするんだけど、違うのかな? よく分からん。俺が作った肥料があるからこそ、植物が生長するのだろうか。そんなバカな。


「ユリウス様、また難しい顔をしておりますわよ」

「ファビエンヌ、世の中、分からないことだらけだね」

「それはそうかもしれませんけど……一体どうされたのですか?」


 心配したファビエンヌが俺の顔をのぞき込んできた。今のファビエンヌと同じ顔を、俺もしているんだろうな。

 これはいかん。自分のほほを両手でパチンとたたく。ファビエンヌがビックリしたかのように目をパチクリとさせた。


「もう大丈夫だよ。ありがとう、ファビエンヌ。俺たちは俺たちができることをやっていこう」

「なんだかよく分かりませんけど、ユリウス様が元気になったのならよかったですわ」


 笑顔になるファビエンヌ。これでよし。いや、ちょっと待てよ。あのまま塞ぎ込んだ状態でいれば、ファビエンヌが甘やかしてくれた可能性があったのか。もったいないことをしたかもしれない。

 ションボリしそうになったが、これ以上、ファビエンヌに心配をさせまいと笑顔を作る。




 ちょっとシダーウッドの様子を見に来たつもりが、ソフィア様たちと時間をかけて話すことになってしまった。


 時刻はそろそろ昼食の時間である。ひとまず庭師たちがいる小屋に戻って、軽くこれからの方針を話しておこう。詳しい話はまたあとだ。もしかすると、いつまでたっても戻って来ない俺たちを庭師たちが心配しているかもしれないからね。


 小屋に戻った俺たちはソフィア様たちと話したことと、森の精霊様が協力してくれることを話しておいた。どよめきと歓声が上がったが、それよりも俺は小屋の前で整列していた庭師たちの方が驚きだった。


 やっぱり心配してくれていたようである。ありがたいんだけど、みんなそろって外で待っているのはなんか違うと思う。庭師たちの信仰心も高くなってない? 俺、新しい宗教を開くつもりはないんだけど……。


「それで、今後は本格的にみなさんの力を借りることになると思います。王城でのお仕事と、肥料作りの両方をしていただくことになるので、大変な作業になることは間違いありません。それでもよければ、どうか力を貸して下さい」


 そう言って頭を下げると、隣にいたファビエンヌも、ネロとライオネルも同じように頭を下げた。すまねぇみんな。みんなを巻き込んでしまった。頭を下げるのは俺一人で十分なはずなのに。


「頭を下げないで下さい! お願いするのはこちらの方ですよ。どうかこの国を救うために、力を貸して下さい。よろしくお願いします」


 今度は庭師たちが頭を下げた。お互いに頭を下げる光景は、他から見るととても奇妙に見えたことだろう。

 こうして庭師たちからの協力を取り付けた俺たちは昼食を取るべく、城へと戻った。


「これからあの小屋での作業が増えるなら、向こうで食事を取れるようにしたいところだね」

「それならお弁当を持って行くのはどうですか?」

「そうだね、そうしよう。あ、でもそうなると、料理人たちに別でお弁当を作ってもらわないといけなくなるのか。それはちょっと心苦しいな」

「朝は特にお忙しそうですものね」


 それもそうだとファビエンヌが両腕を組んでいる。朝食は昼食や夕食と違って、ほぼ同じ時間にみんなが食事を取るんだよね。それに備えて料理人たちは俺たちよりももっと早くから起きていることだろう。そこに追加でお弁当を頼むのはやっぱり気が引けるな。


 うーん、そうだな、お弁当を頼めないなら、自分たちで作ればいいじゃない。そうなると台所が必要だな。さすがに調理場は借りられないだろうからね。

 じゃあどうするか。小屋で作ればいいじゃない。


 そう言えば庭師たちは小屋で食事を取っているみたいなんだよね。小屋に戻ったらみんなにどうしているのか聞いてみよう。その返答次第では俺たちも混ぜてもらえるかもしれない。


 問題は外聞なんだよね。俺はまったく気にしないけど、それは元々が庶民だったからにすぎない。ファビエンヌは気にするかもしれないし、ライオネルはそんな俺の姿を嫌がるかもしれない。そこのところがなんとかなればよさそうなんだけどね。

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