第555話 自動魔石粉砕機

 今日の夕食は部屋でゆっくりとみんなと一緒に食べることにした。今回はネロとライオネルも一緒である。こんなときでないと一緒に食べられないからね。どうやらライオネルもひとしきりの人脈作りと情報収集が終わったようである。いい顔をしている。


「今日も一日、お疲れ様。みんなのおかげで今日も楽しく過ごすことができたよ」

「私も楽しかったですわ」

「たくさん発見がありました」

「集めた情報がお役に立てたようで何よりです」


 ちょっとした乾杯をしてから食事を始める。肉料理にサラダにスープ。どれもとてもおいしそうである。今日はたくさん歩いたからね。どの料理もおいしく食べることができそうだ。うん、間違いなくおいしい。


「浄化の粉と初級体力回復薬の魔法薬を作るのはジョバンニ様や王宮魔法薬師のみんなに任せても大丈夫そうだね」

「大丈夫だと思いますわ。その代わりと言うわけではないですが、私たちは植物栄養剤の改良を頑張らなければいけませんわね」

「そうだね。けがれた大地の浄化と再生の両輪をうまく回してあげれば、レイブン王国もすぐに元の姿に戻るはずだよ」


 ファビエンヌの顔には笑みがある。希望の光がファビエンヌにも見えているんだろうな。

 あと必要なのが魔石砕きの効率アップだな。これが一番ネックになりそうな気がする。最終的には国民総出で魔石砕きをすることになったりしないよね?


 魔石の粉は大量に手に入りそうだが、騒音がひどいことになりそうだぞ。街中からガンガンと何かを打ちつける音が鳴り続けるとか、冗談ではない。絶対に抗議の声があがる。


「ライオネル、オリハルコンの砥石は見つかった?」

「それにつきましてはまだ何も情報が入ってきておりません」

「やっぱり手に入らないか。探しに行くとしても、どこを探せばいいのやら」


 ゲーム内ではダンジョンやレアモンスターを倒すことで手に入れることができたけど、この世界ではどうなっていることやら。ダンジョンなんてあるの? 聞いたことないんだけど。


「古い遺跡から発掘されることがあると聞いたことがありますが、それも本当なのかどうかは怪しいですな」

「古い遺跡か。確かにありそうだね。その前に古い遺跡を探すところから始めないといけないけどさ」

「探すのなら未開の地になりそうですわね」


 さすがにそれはムリだろうと、ファビエンヌが苦笑いをしている。人目につきそうな場所はすでに探し終わっていることだろう。そうなると、強力な魔物が住み着いて、普段は人が立ち入ることができない場所に行くしかない。

 みんなで行くのはムリだな。俺一人ならどうにでもなると思うけど。まあ、行かせてくれないだろうけどね。


「地道に砕いてもらうしかないか。こんなときに”自動魔石粉砕機”でもあればいいのに……あればいいのに?」

「ユリウス様?」

「そうだよ、どうして思いつかなかったんだ。なければ作ればいいんだよ。自動魔石粉砕機!」

「えっと、ユリウス様、そのような物が作れるのですか?」


 ネロが興味津々とばかりに聞いてきた。もしかするとネロも魔石砕きの現場を見て、さすがに大変そうだと思っているのかもしれない。

 原理としては、大きな魔石と小さな魔石を互いに打ちつけ合えばいいのだ。そこを自動化する。


 作りはシンプルな方がいいな。大きな魔石で作ったハンマーを小さな魔石にたたきつける。風車が小麦粉を作るような原理でいいだろう。動力源を風から魔石へと変えるだけだ。

 大きな物にすると音がすごいことになりそうなので、なるべく小さくしよう。砕く魔石も小さなものだからね。


「うん、いけそうな気がしてきたぞ。ひとまずは蓄音機の素材を使わせてもらおう」

「それって、ロザリアちゃんとミラちゃんへのプレゼント用に頼んだものですわよね?」

「そうだね。だからあとで忘れずに追加注文しないといけないね」

「食事が終わったらすぐに頼んでおきます」

「頼んだよ、ネロ」


 これで少しは労働環境もよくなるはずだ。自動魔石粉砕機が完成した暁には、それを量産化することも視野に入れないといけない。でもこのときにしか使い道がないんだよな。何か他にも使えたら……そうだ、それこそ、小麦粉を作るのに使ってもらえばいいんだ。そのときは魔石のハンマーを木のハンマーに変えよう。


「自動魔石粉砕機の魔道具が完成すれば、浄化の粉の量産も進みそうですわね」

「そうなると、なるべく早く肥料型の植物栄養剤を作った方がよさそうだな」


 これは明日からも忙しくなりそうだ。まずは自動魔石粉砕機を作るところから始めよう。部屋で作るのはいいけど、周囲の迷惑にならないように、防音の魔法を使うのを忘れないようにしないとね。


 夕食を食べ終わると、すぐに魔道具作りを開始した。ゆっくりと食事を食べたので、気持ちも体も十分にリフレッシュしている。ここからお風呂の時間まではしっかりと集中しよう。


 金属板で箱を作って、回転軸を作って、ハンマーがピストン運動回転するような仕組みを作って……こんな感じかな?


 一回ごとにかかる力は小さいかもしれないけど、そこは回数でカバーする。与える力が小さければ、受け皿になっている鉄板の変形も防げるだろう。これなら受け皿がベコベコにならなくてすむぞ。

 あとはどれだけ速くハンマーを上げ下げするかだな。魔道具の力を信じるんだ。


「ひとまずはこれでよし」

「……もうできたのですか?」


 完成したプロトタイプを見たファビエンヌ。その眉は垂れ下がっている。こりゃまたあきれているな。でも完成しちゃったからにはしょうがない。そして完成したら、やることは一つ。


「ハンマーの先端につける魔石がまだだけど、あとは現地調達しようと思う。まずは試しに動かしてみるかな」


 スイッチを入れると、ガガガガガガ! とすごい勢いでハンマーが動き始めた。あらやだ、俺の想像していたよりもずっと速い。これにはきっとサラマンダーもビックリだ。

 暴走し始めた魔道具を見て、ファビエンヌとネロが後ずさった。


 これはダメだな。どこかに本体を固定する必要がある。このままじゃ危なすぎる。

 ひとまず動作が確認できたので、スイッチを切った。動かしてみた感想としては、たぶん大丈夫だと思う。


「なんだかすごい魔道具ですわね?」

「アハハ、まさかこんなに暴れるとは思わなかったけど……失敗じゃないからね?」

「あら、そうですのね」


 どうやら失敗したと思ったみたいだ。確かにあの動きを見ればそう思うよね。

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