第540話 チャーハンを作るかのごとく

 せっかくこの場に問題の土があるのだ。俺も観察をしておこうかな。『鑑定』スキルを使って、けがれた大地をしっかりと観察する。

 感染力はなしか。この土は汚染地帯の中でも、比較的、汚染がひどくない場所の土なのかもしれない。


 土は腐っているのではなく、どうやら変質してるだけみたいだ。それなら浄化の粉で元の状態に戻せば、土の力も復活するはず。もしも腐っていたなら、浄化しても数年は使い物にならなかったはずだからね。その点は運がよかったと言えるだろう。


 これなら浄化の粉でも戻せそうな気がする。そうなると問題は、浄化の粉がどれだけ必要になるかだな。まあ、その前に、ちゃんとけがれた大地を浄化できるのか試さなければならないけどね。


「だいたいの状況は分かりました。それではさっそく浄化の粉を作ってみましょう。これから大量に作ることになるかもしれませんから、しっかりと作り方を覚えておいて下さいね」

「はい、ユリウス先生」


 魔法薬師たちの声がそろった。一体だれが教え込んでいるのだろうか。ジョバンニ様か? ジョバンニ様なのか?

 説明を入れながら、まずは俺が作ることにする。使う素材自体は大したものではないのだが、ちょっと作るのにコツがいるのだ。人によっては苦戦するかもしれない。


「まずは蒸留水へ薬草、毒消草、魔力草を入れます」

「ユリウス先生、乾燥させなくてもよいのですか?」

「そのままで大丈夫です。その代わり、蒸留水の量はこのくらい少なくして下さい。そしてそのまま、沸騰しないようにゆっくりと加熱し続けて下さい」


 少量の水で長時間煮出すことで、それぞれの素材の成分を最大限、蒸留水へと移すのだ。

 なお、とんでもなく苦みと、渋みと、えぐみが出るので、人が使うのは無理だと思う。死ぬほどまずいんじゃないかな? なぜかジョバンニ様が興味深そうに見ているけど。

 しばらく加熱すると、深緑色の溶液へと変わった。


「色がこのくらいになったら、今度は魔石の粉の粉を加えます。加え終わったら、均一になるようにかき混ぜて下さい。その状態を維持しながら、今度は徐々に火を強くして、煮詰めていきます。このとき、急激に温度を上げすぎると台無しになるので、少しずつ強くして下さい」

「温度の加減が難しそうですわね」


 真剣な顔をしたファビエンヌがジッと俺が操作する火元を見ている。さすがはファビエンヌ。肝となる場所をピンポイントでチェックしている。この火のコントロールさえできれば、一つ目の山場は越えたようなものである。


「温度が上がりすぎそうになったら、こうやって鍋を火から離すんだよ。それもあって、片手鍋でしか作れないんだ」


 大きな釜で一気に大量生産できればよかったんだけど、それだと火の調整が難しいのだ。魔石の粉を大量に作るのは大変だし、なるべく失敗は避けたいところである。

 そうこうしているうちに、水分が少なくなり、全体的にドロッとした液体になってきた。コポコポと怪しげな泡が底から湧き出ている。同時に青臭い香りが漂ってきた。


「この状態になったら、今度は魔法で圧力をかけながら一気に温度を上げます。焦がさないように、手早く混ぜながらですよ」


 まるでパラパラのチャーハンを作るかのように片手鍋を操作する。たぶんここが一番の山場だと思う。魔法で圧力をかけながら、火加減を調節しつつ、かつ、急いで混ぜる。

 こればかりは体で覚えてもらうしかないな。しばらくは二人一組でやらせることにしよう。


「これで完成です。熱いので、冷めるまで触らないようにして下さい。魔法で冷まさずに、ゆっくりと冷まして下さいね」


 ガラス製の容器の上に完成した浄化の粉を広げる。白い色をしていた魔石の粉が濃い緑色へと変貌している。ホカホカと湯気が上がっているので、かなり熱いはずだ。

 すぐに効果を試してみたいところだけど、さすがに無理そうだ。念のために鑑定しておこう。


 浄化の粉:高品質。どんな頑固な汚染も除去する。効果(特大)。活力を与える(小)。


 うん。ちゃんと汚染は除去できそうだ。これで一安心だな。最後の一分がちょっと気になるが。


「これが浄化の粉……! さっそく現地の土で試してみたいところですが、さすがに今すぐには無理そうですな」

「そうですね。早くても試験は昼食後になるかと思います。その間に、皆さんも実際に作ってみましょうか。最初は二人一組でやりましょう。後半が少し難しいですからね」

「はい、ユリウス先生」


 素早くチーム分けが完成する。ちょうど偶数なのでボッチになる人はいない。俺はもちろんファビエンヌとペアになった。

 目をぎらつかせた魔法薬師たちが作業を開始した。それとなくそれを見守りつつ、自分たちの作業を開始する。


「分からないことがあったら、なんでも聞いてよね」

「よろしくお願いしますわ」


 ファビエンヌが片手鍋を設置し、慎重に作業を開始した。スピードはないが、その分、バツグンの安定性を誇っているのがファビエンヌの売りである。コツさえつかめば自然と速度も速くなることだろう。

 見回りつつ、ファビエンヌを見つつ、作業が進んでいく。


 やはり最終の仕上げ部分が難しいようだ。あちらこちらから、ちょっと興奮気味な、少し大きめの声があがっている。二人一組にしておいてよかった。なんとか素材を無駄にせずにすみそうだ。

 失敗しそうになったチームをフォローしつつ、なんとかみんな一通り作ることができた。


「完成しましたわ」

「うん、上出来だね。他のみんなもなんとか問題なく作り終えたみたいだし、あとは実際の試験結果次第か」

「うまくいくといいですわね」

「そうだね。いい結果になることを祈ろう」


 完成した浄化の粉をかき集めても、俺の両手ですくえるほどの量しかなかった。分かっていたけど、果てしないな。でもまずは無事に完成したことを喜ぶとしよう。




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