第529話 レイブン王国の王都へ到着する

 ようやく夕食が運ばれて来た。時間の流れがこれほど遅いと感じたのは久しぶりである。それだけ居心地が悪かったということか。

 ソフィア様に勧められて夕食を食べる。予定外の滞在だったはずなのに、昨日と変わらない豪華な食事である。大変ありがたいことだけど、ちょっとお金が気になるかな。レイブン王国としては、今は少しでも節約したい状態のはずだからね。


「ソフィア様とエルヴィン様のおかげで、ずいぶんと魔法薬に必要な素材を集めることができました。ありがとうございます」

「少しでもお役に立てたみたいでうれしいですわ」

「それで、明日は魔力草を探しにもっと森の奥まで行きたいと思っているのですが……」

「森の奥か……」


 エルヴィン様が考え込んだ。予想通りだな。大事な客人を危険にさらすわけにはいかないからね。いくらこの辺りに出没するのが弱い魔物ばかりでも、さすがに森の奥まで行けば、事情が変わってくるかもしれない。


 それに、この森の奥に魔力草があるとは限らないんだよなー。それもネックの一つである。森の奥まで行ったけど、何も見つかりませんでしたでは困るのだ。

 そのとき、コホンとせきをする音が聞こえた。ジョバンニ様だ。


「ユリウス先生、その必要はありませんよ。こんなこともあろうかと、今日の間に私たちが森の奥へと行って、魔力草を集めてきましたからね」


 静かにこちらへほほ笑むジョバンニ様。他の王宮魔法薬師たちも同じような表情をしている。どうやら近場での採取は俺たちだけで十分だと判断したようだ。その通りである。


「さすがはジョバンニ様。王宮魔法薬師の皆さんもありがとうございます。これなら明日にでも王都へ向けて出発しても大丈夫ですね」

「それならそうしましょう。手紙には数日遅れるとだけ書いていますので、明日出発することになっても何も問題はありませんわ」


 ニッコリと笑うソフィア様。どうやら予定に無理はないようだ。隣に座っているエルヴィン様も同じようにうなずいている。

 無理を言って予定を遅らせてしまっていたからね。悪いことをしたとは思うが、そのおかげで、これから必要になる素材を集めることができた。小さな魔石もそれなりに集まっているので、お試しで作るには問題ないだろう。


「それでは夕食後に明日の出発の準備をしておきますね」

「こちらも準備を整えておきますわ」


 その後はこれからの移動についての話になった。俺たちは一度、王都へ行ったことがあるが、ジョバンニ様たちは初めてだからね。もちろん途中で野営をする必要のない日程で進むようである。


 ここでの料理は山の幸満載でとてもおいしかった。名前は分からないけど、ジネンジョのようなトロッとしたものが入っている料理が特に気に入っていた。あとは謎の肉を使ったジビエ料理。弾力があって、それでいてジューシーでとてもおいしかった。

 話を聞くと、この辺りにだけ生息している、レアな鳥の肉を使っているらしい。


「ここでのおいしい食事とも、しばらくお別れになりますね」

「ユリウス様……またいつでもいらっしゃって下さい。一同、お待ちしておりますよ」


 料理人たちと使用人たちが目を潤ませている。冗談ではなく本気だったので、そう言われてとってもうれしい。たまに隠れて来るようにしようかな?

 みんなにお礼を言いつつ、おいしい料理に舌鼓を打った。


 翌日、俺たちはレイブン王国の王都を目指して出発した。馬車の中からは音楽が聞こえている。護衛たちの話によると、先を行く馬車からも同じように音楽が聞こえているそうだ。蓄音機がさっそく役に立っているようである。


「これで退屈な馬車の旅も、少しは気が紛れるかな?」

「それは間違いありませんわ。そういえば、ソフィア様もジョバンニ様もこの馬車のことが気になっておりましたわね」

「そうみたいだね。ソフィア様はダニエラお義姉様から聞いていたみたいだけど、ジョバンニ様は初めて聞いたみたいだったね。これはジョバンニ様から国王陛下へ話が行くかもしれないな」

「そうなると、新型の馬車の注文が増えるかもしれませんわね」

「そうなるといいね」


 これは一度、ソフィア様とジョバンニ様をこの馬車に乗せた方がいいのかな? でも今さら、旧式のガタガタ揺れる馬車に乗りたくない。

 よし、ひとまずは王都に着いてから考えよう。俺たちが使わないときなら、使ってもらって構わないからね。そのときに貸し出せばいいのだ。


 それからいくつかの町を越えてレイブン王国の王都へと到着した。見た目は俺たちが前に訪れたときとなんら変わった様子はない。街中も同じである。

 だがしかし、国王陛下や、国の重鎮たちに会うと、その表情にはどこか疲れが見え隠れしていた。


「ユリウス様、よく来て下さった。スペンサー王国の王宮魔法薬師の方々も、到着するのを心待ちにしていたよ」


 謁見の間に入ると、国王陛下が笑顔で迎えてくれた。遅れたことを謝罪し、その理由も改めて話した。国王陛下はすぐに納得してくれて、現在の状況を話してくれた。


「気をつかわせてしまったな。王都の周辺では、薬草などの素材の確保はできているようだ。だが、他の領地へ送れるほどの量はないと聞いている。新しい魔法薬を開発すれば大量に消費することになるだろうからな。とてもありがたい話だ」


 何度もうなずく国王陛下。よかった。勝手な行動をするなととがめられなくて。

 けがれた大地に対してどのような対策を採ったのかは、直接担当の人に聞くことにした。国王陛下も忙しいだろうからね。そんな中で俺たちのために時間を作ってくれたのだ。それだけでも、俺たちの待遇のよさが分かる。


 謁見が終わるとすぐに王城内の部屋へと案内された。荷物はすでに運び込まれている。ネロにお礼を言ってから、ちょっとだけ休むことにした。このあとは情報収集の時間だ。その間は休む時間がないだろうからね。

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