第504話 害獣被害

 村長宅に到着し、一息入れていると、すぐに夕食の時間になった。この辺りの農家では、この時間帯に夕食を食べるのが一般的のようである。

 ちょっと早い気もするが、夜は早く寝て、ロウソクや油、魔石の消費を抑えているのだろう。


 夕食は肉料理が多かった。俺たちを歓迎する意味合いもあるのだろうが、もしかすると、かなりの数の野生生物が出没しているのかも知れないな。ちょっと気になる。


「この辺りの野生生物は多いのですか?」

「ええ、その通りです。近くに森があるでしょう? そこに住み着いた動物が畑の野菜を狙って頻繁に現れるのですよ」

「おいしそうな野菜ばかりですからね」

「これはこれは。お褒めいただき、ありがとうございます」


 恐縮したかのように村長が頭を下げる。やっぱり害獣被害が出ているようだな。畑の周りには柵があったが、それだけでは完全に防げないのだろう。

 どのくらいの被害が出ているのかを聞くと、予想よりもかなり多かった。特に万能植物栄養剤を使った畑で被害が多いそうだ。


 夕食も終わり、俺たちは用意された部屋でくつろいでいる。話題は畑での被害についてだった。昨日の農村ではそんな話は聞かなかったからね。

 おそらくネズミなんかの被害はあったのだと思うが、それぞれで対処していたのだろう。話題にするまでもなかったということだ。


「動物たちもおいしいお野菜を食べたいみたいですね」


 納得するかのように両手を組んでうなずくロザリア。つい先日まで、あまり野菜が好きじゃなかったよね? どうやらおいしい野菜を食べて、考えが変わったみたいだ。それだけでも一緒に視察に来たかいがあったな。


「そうだね。しかも、どこにあるのかを知っているみたいだ。匂いが違うのかな?」

「キュ」


 ミラが肯定するかのように答えた。やはり匂いが違うのか。


「そうなると、これから万能植物栄養剤を使う範囲が広がれば広がるほど、被害も大きくなりそうですわね」


 ファビエンヌが言う通り、これから被害が増えることになりそうだな。そうなる前に、なんとか手を打ちたいところだ。よし、害獣よけの魔法薬を作ろう。

 都合がいいことに、この近くには森がある。そこに行けば欲しい素材が手に入るだろう。


「ネロ、明日は畑の視察と、森にも入ろうと思う」

「森ですか?」

「うん。欲しい素材があるんだ」

「何か作るおつもりですか?」

「さすがファビエンヌ。察しがいいね。その通りだよ。詳しくは明日話すよ」

「楽しみにしておりますわ」


 燃料を消費するのはよくないということで、俺たちも早めに眠りについた。それに、移動で疲れていたからね。

 そんなわけで、ファビエンヌとロザリア、ミラはすぐに眠りについた。だがしかし、俺はそうはいかなかった。


 ファビエンヌとロザリアに挟まれ、俺の胸の上ではミラが寝ている。ロザリアとミラはまあいいとして、ファビエンヌの顔がめっちゃ近い。なんなら寝息が聞こえてくるくらいだ。この状況で眠れるとは。ファビエンヌは意外と神経が太いのかも知れない。


 翌朝、朝食を食べるとすぐにライオネルに昨日の話をした。ちょっと寝不足気味な感じはするが、活動するのにはなんの支障もない。朝起きたときに、赤い顔をしたファビエンヌがジッと俺の顔を見つめていたのには驚いたけど。


「森に入るのは問題ないと思います。魔物はおりませんからね。ですが、あまり長時間は無理ですな。今後の予定がありますので」

「分かったよ。そんなに時間をかけるつもりはないよ」


 この農村を出発するのは明日の朝になっている。どうやらそこから次の農村まで移動するのには丸一日かかるようだ。そこが最後の目的地である。結構遠いな。

 そんなわけで、今日一日は時間があることになる。それまでに魔法薬を作ればよいのだ。


 村長に連れられて畑を見て回る。こちらへあいさつする農家の人たちは、だれもがあかるい表情をしていた。ハイネ辺境伯家が農業にも目を配っていることを実感して、うれしく思ってくれているのかな? そうだといいんだけど。


 作られている作物は先日の農村で見た物と同じようなのが多かったが、芋類の種類が多いように感じた。保存が利くからだろうな。そう思えば、先日の農村では葉物野菜が多かったな。


「森に面した場所にある畑の被害が多いみたいですね」

「これはちょっとひどいですわね」

「おいしい野菜が食べられちゃいましたね」


 森の近くまでやってきた。畑の柵は二重になっているようだが、それでも被害は食い止められていないようだ。柵の一部が壊れているところを見ると、かなり大きな野生生物も来ているようだ。


「わざわざ万能植物栄養剤を使った畑にまでやって来るのですよ。ここから離れた場所で育てているんですけどね」


 農家の方が困り顔をしている。詳しく話を聞くと、どうやらクマやイノシシっぽい害獣が出没しているようだ。追い払うのが危険なため、なされるがままになっているようだ。


「なんとかしてあげたいですわね」

「もちろんそのつもりだよ。そのためには森に入らないとね。ファビエンヌとロザリアは村長宅で待っててよ」

「私も行きますわ」

「私も行きます」


 なんで置いて行くんだ、という目をされたので、連れて行くことにした。ライオネルもいることだし大丈夫だろう。俺だって、野生生物に後れを取るつもりはない。

 森の中を進んで行くと、すぐにそれを見つけることができた。


「あったあった。粉塵キノコだ。これに唐辛子とコショウを混ぜて、木の柵に仕掛けておくんだよ。動物は賢いからね。罠があると分かれば、それをさけようとするんだよ。あとは……あったあった。ハバネロキノコだ。これは火を噴くほどからいんだよ。これを木の柵に塗りつけておけば、壊そうとしないはず」

「魔法薬というよりかは、完全に罠ですわね」

「確かにそうかも知れない」


 これなら作り方を農村の人たちに教えて、各自で作って設置してもらった方がいいかな? どちらも取り扱いには注意する必要があるけど、注意点さえ守ってもらえれば、安全に使うことができるはずだ。


「よし、戻ったら、罠の作り方をみんなに教えよう。そうすれば、害獣被害を最小限にすることができるはずだからね。野生生物の数も抑えられるし、ちょうどいいね」

「それがいいと思いますわ。おいしい作物をたくさん作ってもらいたいですものね」

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