第496話 パパパッと
「ユリウス、今度は一体どんなものを作ったのかしら? よかったらお母様にも教えてちょうだい」
「も、もちろんですよ。あとでお母様にも見せますよ」
「ユリウス、私にも見せてもらえるかな?」
「ユリウスお兄様、私も見たいです!
どうやら家族全員に見せることになりそうだ。できれば四人だけの秘密にして欲しかったのだが、どうやらそうもいかないみたいだ。
アレックスお兄様に何か考えがあるのかな? もしこれがまずいことだったりしたら、絶対に止めてくれているはずだからね。
もしかすると、お父様とお母様にも計算方法を学んでもらいたいと思っているのかも知れない。仕事が速くなるのは間違いないからね。アレックスお兄様とダニエラお義姉様が不在のときにも、問題なく仕事をこなすことができるようになるはずだ。そっちが本当の狙いかな?
結局その後の夕食は、俺が編み出したことになっている計算方法についての話になってしまった。
せっかくみんなそろっているのだから、もっと楽しい話をしたかったところである。
夕食が終わり、そのままソロバンをおひろめすることになってしまった。
ダイニングルームに食後のデザートとコーヒーが運ばれて来た。その間にネロに頼んで、ソロバンを部屋から持って来てもらった。
「これが商会の執務室で話していた補助用の道具になります。ソロバンという名前です」
「ソロバン。どこからその名前が出て来たのかは分からないけど、確かに玉の並びは執務室で説明してもらったときと同じだね」
「これがユリウスの頭の中にある形だったのね。どうやって使うのかしら?」
アレックスお兄様とダニエラお義姉様が興味深そうにソロバンを見ている。二人だけじゃない。お父様とお母様もこれはなんだと首をかしげながら見ている。パッと見ただけでは何をする道具なのか分からないからね。
その一方でロザリアはミラを抱えた状態で身を乗り出していた。ちょっとミラが苦しそう。だがドライフルーツをつまむ手は止まることはなさそうだ。どれだけ気に入ったんだ。料理長が次々と新しい味を作るので、飽きないのは確かだけどさ。
「まずはこうやって、玉を一定方向にそろえてですね」
そこから俺のソロバン使いレクチャーが始まった。二つしかないので、アレックスお兄様とダニエラお義姉様に一つ、お父様とお母様とロザリアに一つである。こんなことになるのなら、全員分、作っておけばよかった。
気になったのか、使用人たちも遠巻きに俺たちを観察している。
「すごいです! これなら私でも簡単に計算することができますわ」
「ロザリアは計算問題が苦手だものね~」
「そ、そんなことないです! ちゃんと計算問題を解くことができますわ」
興奮したロザリアをお母様がたしなめている。どうやらロザリアは計算問題が苦手だったようである。
それはちょっと困るな。魔道具を作るときにも、消費魔力や出力を計算しなければならないときが結構あるからね。今からしっかりと鍛えておいてもらわないと。
「ユリウスがどのようにしてこの計算方法を思いついたのかはひとまず置いておいて、これはいいものだぞ。習得すれば、もっと計算が速くなるのだな?」
「ええ、そうです。試しにやって見ましょうか? お父様、好きな数字をこの紙に書いて下さい。私が計算して見せますよ」
まだちょっと半信半疑なところがあったので、実際にやってみた。お父様だけじゃない。お母様にもロザリアにも数字を書いてもらった。結構な数になったが、問題ないだろう。それよりも、本当に正解しているのかを計算する方が大変なような気がする。
ソロバンを使って出された数字を計算していく。頭の中ではすでに計算が完了しているのでかなりもどかしいが、今は我慢だ。パパパッと計算する。
「すごい速さだね。ユリウスはこれを頭の中でやっているのか」
信じられない、といった声を出したアレックスお兄様。まさかここまでとは思っても見なかったようである。だが、玉をはじいているので、ほんの少しだけ実際よりも遅いのだ。こればかりは見せられないけどね。
「慣れればだれでもできるようになりますよ。はい、これが合計の値になります」
みんなで計算してもらったが、俺が出した答えと完全に一致した。そしてその速さの違いにとても驚いていた。どうやらみんなにもそのすごさを理解してもらえたようである。俺が開発したわけじゃないんだけどね。ちょっと心苦しい。
「ユリウス、私にもソロバンを作ってもらえないか?」
「私も欲しいわね。それに、みんなも欲しそうな顔をしているわよ。どうせなら、商会で売りに出すのもいいかも知れないわね」
「いい考えですわね、お母様。それならソロバンの使い方を教えるために、ソロバン教室が必要ですわね」
こうしてお母様とダニエラお義姉様が二人で盛り上がり始めた。これはこのままの勢いで進行しそうだな。とてもではないが俺では止められないだろう。とりあえずは俺ができることをやっておこう。
「それではお父様とお母様のものを含めて、いくつか作っておきますね。ついでに設計図も作っておきます」
「ユリウスお兄様、私も一緒に作りたいです」
「それじゃ、明日、一緒に作ることにしよう」
「やったー!」
ロザリアが抱きついて来た。間に挟まれたミラが遊んでいるのだと思って、キャッキャと楽しそうな声をあげている。
ソロバンはただの木工品だからね。商会の従業員たちでも作ることができる。ちょっと細かい作業になるので、もしかしたら、みんなに『クラフト』スキルが身につくかも知れないな。そうなるとうれしいな。
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