第346話 王都組が出発する

 元の姿に戻ったミラとロザリアが庭で走り回っている。俺とファビエンヌはそのまま庭でまったりすることにした。

 まだ肌寒いが天気は良く、着々と春が近づいて来る気配がしていた。


「もうすぐお兄様たちが王都に行っちゃうね」

「寂しくなりますわね」

「きっとファビエンヌの両親もこんな気持ち何だろうな。無理に押し通さなくて良かった」

「ユリウス様……ありがとうございます」


 目尻を下げたファビエンヌの腰をそっと支える。ファビエンヌがこちらに体を預けて来た。

 アンベール男爵夫妻とは良い関係を築いておきたいからね。力業で無理やり意見を飲ませようとする息子など、反感しか持たないだろう。これで少しは好感度をアップさせることができたかな?


「お兄様たちが戻って来ましたわ」

「キュ!」


 ロザリアとミラがこちらに走って来る。どうやら領都に出かけていたお兄様たちが屋敷に戻って来たようだ。

 出発まではそんなに日付が残っていないが、それまではなるべく一緒に過ごしたいところだ。




 いよいよ王都組が出発する日がやって来た。

 今回はダニエラお義姉様とミーカお義姉様がいる。そのため、王都について行く騎士もいつもより多い。

 玄関の前にはすでにその騎士たちと、荷物を載せた馬車が規則正しく並んでいた。


「それではお父様、お母様、行って参ります」

「カイン、ダニエラ様とミーカ嬢をしっかりと守るのだぞ」

「お任せ下さい」


 冬の間、カインお兄様はミーカお義姉様と共に騎士団で過ごして来たからね。しっかりと信頼関係を築いてきたのだろう。自信たっぷりである。これならハイネ辺境伯家の騎士団も将来は安泰だな。


「カイン、ダニエラ様を頼んだよ。本当は私も一緒に行きたいところ何だけど……」

「大丈夫です。お兄様の分までしっかりとお守りしますよ。夏休みに帰ったときに、どれだけハイネ商会が発展しているのか楽しみです」

「カインの期待に応えられるように頑張るよ」


 アレックスお兄様とカインお兄様が拳をぶつけ合っていた。アレックスお兄様の一緒に行きたい発言は本音だろうな。今もすでに寂しそうな顔をしているからね。

 どうやらこの冬の間に、アレックスお兄様とダニエラお義姉様の仲はかなり進展したようである。こちらも将来は安泰だな。


「ユリウスちゃんがいなくなると寂しくなるわ」

「こちらも同じですよ、ダニエラお義姉様、ミーカお義姉様」

「ミラちゃんに乗れば、ひとっ飛びで王都まで来られるかしら?」

「さすがにミラが疲弊すると思いますよ」


 それにもしそんなことをすれば、王都で目立つこと間違いなしだ。

 領都ならまだ良い。領民はハイネ辺境伯家を信頼しているから、悪いことを考える人はないだろう。

 だが王都は違う。色んな領地の、色んな国の人が集まるのだ。その人たちが何を考えるかは予想できない。


 俺の返事にミーカお義姉様の眉が情けないくらいに垂れ下がっている。どうやら冗談ではなく、本気でそう思っていたようである。ミーカお義姉様の想像力はときどきたくましいところがあるな。


「ユリウスちゃんに作ってもらった水着は必ず役に立てるわ」

「いや、役に立てなくて良いですから。ミーカお義姉様、水泳を習うおつもりですよね? やめて下さいよね。カインお兄様も嫌だと思います」

「そうかしら? カインくんもかっこいい水着を持っているし、水泳の授業のときに自慢すると思うんだよね」


 どうも聞いた話によると、剣術の野外授業で水泳の授業があるらしいのだ。水泳の授業は選択式だそうで、授業を受けない人も多い。しかし、本気で武の道を極めようとしている一部の学生にとっては必須の授業らしい。


 弱き者の守護者である騎士が泳げなくてどうする。川に流された子供をだれが救うのか。騎士道、ここに極めたり。そう言うことらしい。

 無理せず、他に助けを求めてもいいんじゃないのかな? カインお兄様も困った顔をしていた。


「私も王家に水着を宣伝しておきますね」

「ほ、ほどほどにお願いします」


 実にイイ顔でダニエラお義姉様が笑っている。これは本気だな。きっとすぐにでも水着の注文が舞い込むことだろう。王妃殿下のスリーサイズが送られて来るのかな? 恐れ多すぎるぞ。


「カインお兄様、お義姉様たちをお願いしますよ」

「分かってるって。そんなに俺って信用ないか?」

「違いますよ。むしろ逆」


 思わず小声になる。カインお兄様に近づいて頭を突き合わせた。


「カインお兄様も気がついているでしょう? お義姉様たちの方が何をしでかすか分からないことに」

「聞かなかったことにしておくぞ、ユリウス。だが、同感だ。なるほど、そっちの方が心配か」

「はい。しっかり手綱を締めて下さいね」

「……努力はする」


 どうやらカインお兄様は厳しいと思っているようだ。なめられているわけではないのだが、カインお兄様は優しいところが大いにあるからね。きつく言えないのだ。


 締めるところは締めないといけないんだけどなー。そこが今後のカインお兄様の課題だな。カインお兄様に女難の相がないことを祈る。

 この王都までの移動で何かつかむことができたら良いんだけど。


 いよいよ馬車が出発した。領都に居残り組は一団が見えなくなるまで手を振り続けた。

 寂しいが、一生の別れではないのだ。夏休みに帰って来たときにみんなをビックリさせられるように、頑張らないといけないな。

 まずは新しい温室の建築からだな。一つ一つ確実に片付けて行こう。

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