第302話 拠点作り

 翌日、ハイネ辺境伯家の雪山調査団は連なって出発した。移動は馬である。細い道を通ることになるし、場合によっては徒歩になるだろう。そのため、馬車はなかった。

 出発前にホットクッキーをかじり、魔石懐炉を懐に入れておいた。そのおかげで全然寒くはない。


「ライオネル、どのくらいでカシオス山脈の麓まで着くんだ?」

「明日の昼過ぎには到着します。そこに調査拠点を設営しますので、本格的な調査はその次の日からになります」

「分かったよ。雪の精霊様にしばらく雪を降らせないようにできないか、頼んでみるよ」

「よろしくお願いします」


 ライオネルが頭を下げる。今俺は騎士の前に座らされて馬に乗っていた。本来は一人でも馬に乗ることができるのだが、何かあってはならないからと言われてこの体勢になっている。過保護なのか、そうでないのか、分からないな。これだと、騎士が一人使えなくなってしまう。戦える人数は多い方が良いのに。


 雪の精霊様に伝わるのかどうかは分からないが、手の甲にある「雪の結晶の模様」を手で覆いながら、しばらくの間、雪が降りませんようにと祈っておいた。

 そのかいがあったのか、俺たちが調査を終えるまでの間、雪が降ることはなかった。


 初日は日が暮れる前にテントを張り、野営の準備を行った。まだまだ子供とカウントされる俺とネロがいるため、早めに休むことにしたようだ。

 完全に足を引っ張っている。申し訳ないことをしてしまったな。


 テントは当然、防寒用のテントだった。懐に魔石懐炉を入れていたこともあり、夜も寒くはなかった。急きょ思いつきで作った魔石懐炉だったが、思った以上に役に立ちそうだ。騎士たちも凍えることなく夜を過ごせたようで、次の日の朝からキビキビと動いていた。


 休憩を挟みつつ、移動を続ける。途中で何度かスノウウルフが襲いかかってきたが、騎士たちが全て片付けてくれた。もちろん俺の出番はなかった。まあ、これが普通だよね。

 安心しながら騎士たちの働きを見ているうちに、目的地までたどり着いた。


「これから拠点を設置しますので、しばらくの間、休んでおいて下さい」

「それは良いんだけど、もしかして、テントを張るだけなのかな? 標高も少し高くなっているから、それだと夜、寒くない?」

「大丈夫です。魔導師がこの周囲に、風と魔物からの襲撃を防ぐための壁を作ります。それに一晩中、火を絶やさないようにしますので」


 グッと握りこぶしを作って、騎士がそう言った。なるほど。さすがは騎士団。使えるものは何でも利用するようだ。それならば。


「俺も手伝うよ。少しは役に立たないと、『何のために一緒に行ったんだ』って言われかねないからね」

「そのようなことはないと思いますが」


 騎士が困惑している。だが、俺の誠意がうれしかったのか、作業中のライオネルの場所まで連れて行ってくれた。


「ライオネル、手伝いに来たぞ」

「ユリウス様、そのようなお気遣いはなさらなくても……」

「良いんだよ。俺がやりたいだけだからさ。えっと、まずは邪魔な木を切るところからだな」

「ええ、そうですが」


 困惑するライオネルをよそに作業現場へ向かう。そこでは騎士たちが斧を片手に、どの木を切るかを話し合っていた。斧の数はそれほど多くはないようだ。それもそうか。遠征に持って行く荷物は少ない方が移動が楽になるからね。


「あの印が付いている木を切るのか?」

「ユリウス様ではありませんか。そうですよ。危険ですから、離れていて下さい」

「いや、そういうわけにはいかないな。木を切るのは得意なんだ。俺に任せろ。ウインドブレード!」


 一陣の風と共に、木がバッタバッタと倒れていく。ぼう然とする騎士たち。慌てて駆けつけて来るライオネル。手帳に何やら書き始めるネロ。色々と忙しいな。でも急がないと、日が暮れるぞ。


「ユリウス様! ああ、もう、目を離すとすぐにこれだ」

「お、珍しくライオネルが愚痴ってるな」

「勘弁して下さいよ。おい、倒れた木をどかしてくれ。あと、魔導師たちを呼んで来てくれ」

「フッフッフ、その必要はないぞ、ライオネル。ウインドソード!」

「もうやめて」


 倒れた木々を『クラフト』スキルとの合わせ技で木の板へと加工する。それをそのまま組み木の要領で木の扉や窓に加工する。魔法とスキルの合わせ技をするのは初めてだが、思ったよりもアッサリできたな。家の中では使えないけど外なら十分に使えるぞ。


「ユリウス、これは?」

「カインお兄様! これは切り倒した木を魔法で切断して、そのままスキルで加工したのですよ」

「あ、ああ、そうなの?」

「そうなんです! 思ったよりも簡単にできました。これを利用すれば……アースウォール!」


 先ほどのウインドブレードによってできた空間を囲むように壁が出現した。天井はないが、これでも十分に風と魔物を防ぐことができるだろう。それにこれなら、中で煮炊きしても一酸化中毒になる心配はないぞ。


 扉と窓を取り付けるための穴を空けているので、あとは先ほど作った物をはめ込むだけである。完璧な簡易拠点作りである。自分の才能が怖い。


「ほら、ボーッとしてないで、空けた穴にあの扉と窓を取り付けてよ」

「は、はい、直ちに!」


 騎士たちがキビキビと動き始めた。その様子を見ながら足りないものに気がついた。


「ライオネル、かまどがいるよね」

「ユリウス様……」

「大丈夫。俺に任せて。かまどなら調理場で見たことがあるからさ!」

「ユリウス様! カイン様、ユリウス様を止めて下さい。何か妙なものに取りつかれているのかも知れません!」

「そんなこと言われても」

「ガイアコントロール!」

「何事ですか……って、もう壁ができてるー!」


 驚く魔導師たちを尻目にかまどを作る。三セットほどあれば十分に足りるかな? あとはボコボコした地面を平らにして、そこにテントを設置してもらえれば完璧だろう。これで安心、安全の寝床を確保することができたぞ。

 ファビエンヌ嬢、俺、頑張ってますからね!

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