第83話 聖竜の生態調査
その日はミラの歓迎会になった。聖竜が食べ物を食べるのかは分からなかったが、試しに与えてみると、おいしそうに食べてくれた。もしかすると、魔力以外でも育てることができるのではなかろうか。あとでマルスさんに聞いてみよう。
すごい勢いでメモを取られそうな気もするけどね。
「ミラちゃんは好き嫌いはなさそうね」
「果物はどうかな? はい、どうぞ」
「キュ!」
カインお兄様が差し出した果物を喜んで食べるミラ。どうやら果物の方がお気に召したようである。これなら果物中心の食事にした方が良いかな?
お風呂にも入れてみた。ぬれるのを嫌うかなと思ったが、そんなことはなさそうだ。体を覆っていた毛が水にぬれたことで、別の生き物みたいになっていたけどね。
「ミラ、かゆいところはないか?」
「キュ!」
うーん、分からん。卵の状態のときに話すことができたので、そのうち話せるようになると思うのだが、今はサッパリ分からない。声のトーンから喜んでいるのは分かるのだが。
念のため湯船には入れず、用意したタライの中にお湯を入れて、そこに入ってもらっている。
これまでで分かったことは、こちらが言っていることはほぼ完全に理解しているということだ。そして「キュ」しか言わない。まあ、基本的に頭の中に直接話しかけてくることになるだろうし、それだけでも問題ないけどね。
「魔力は勝手に食べてるんだよね?」
「キュ」
「それじゃ、俺がいちいち送り込む必要はないってことかな?」
「キュ」
なるほど、サッパリ分からんが、それで問題がないと言われているような気はする。もし問題があったら、何かリアクションを起こしてくれるだろう。それまではそっと見守っておこう。
お風呂から上がると、ロザリアが待ち構えていた。すぐにミラを受け取ると、冷温送風機の前に連れて行き、その毛並みを乾かし始めた。ミラも大人しくしているので、問題はなさそうだ。
「お父様、王城に持っていった冷温送風機はどうなりました?」
リビングルームでくつろいでいたお父様に、今日の首尾を聞いてみた。王城に冷温送風機の魔道具を献上しに行くって言っていたしね。
「ああ、さすがにすぐには国王陛下に献上できなくてね。入り口の警備兵に渡しておいたよ。今頃、国王陛下の手元に届いているんじゃないかな?」
「そうですか。なんだか次に王城に行くのが怖いですね」
嫌な予感がするのは俺の気のせいだろうか。
「なんだ、また呼ばれたのか?」
「いえ、そうではなくて、王妃殿下とクロエとキャロがミラから離れるのを寂しそうにしていたのですよ。それで、ミラを模したぬいぐるみをプレゼントしようかと思っているのです」
「……そうか。ほどほどにな。やり過ぎると、魔法薬師ではなく、ぬいぐるみ職人になってしまうぞ」
やだな、お父様。まさかそんなことあるわけないですよ。ハハハ。
「お父様、お婆様が私をハイネ辺境伯領で魔法薬師にして欲しいと言ったのは本当なのですか?」
「鋭いな、ユリウス。お前を立派な魔法薬師にして欲しいとは頼まれたのは事実だが、どこで、とは言われなかったよ」
「それじゃあ……」
お父様がうなずいた。
「私がそうして欲しかったのだよ。我がハイネ辺境伯領にはユリウスの力が必要だ。それに王城では息が詰まるだろう?」
お父様が茶目っ気にウインクをした。国王陛下に対して平気でウソをつくとはさすがである。だが助かった。
「ありがとうございます、お父様」
俺はお父様に深々と頭を下げた。お父様にはかなわないな。
部屋に戻る前に、使用人に追加の毛皮を頼んでおいた。今ある材料では一体分しか作れないだろう。だがそれでも一体は作れるので、さっそく作り始めた。
「お兄様ー、お兄様!」
「キュ! キュキュ!」
ロザリアがミラを連れて俺の部屋へとやってきた。あ、ミラ、これはキミの仲間じゃないからね。そんな「お友達」みたいな目をしても、動かないからね。
「お兄様、もしかしてそれは!」
「ああ、王妃殿下たちにプレゼントしようと思ってね」
「え」
あ、ロザリアがションボリしちゃった。これはロザリアにも作ってあげなきゃいけないみたいだな。本物のミラがいるのに、それじゃダメなのか。かわいいままの姿で残したいのかも知れないな。
「もちろん、ロザリアにも作ってあげるよ。少し待っててね」
「もちろんですわ!」
ロザリアがミラを抱きかかえて喜んでいる。ところでキミたち、何しに来たのかね?
と、思っていたら、どうやら俺の部屋で寝るつもりらしい。二人は早くも俺のベッドに転がり込んでいた。ベッドが大きくて良かったぜ。
翌日、朝食が終わると早々にぬいぐるみ作りを再開した。追加の生地も到着したので、あとは全力で生産するだけである。
「精が出るわね、ユリウス」
「お母様、ぬいぐるみを届けたら、領都に帰ろうと思っているのですよ」
「あら、てっきり私たちと一緒に帰るのかと思っていたわ」
確かにそういう考えもあるだろう。だがしかし、俺としては何もすることができない王都よりも、何でも好きなことができる、自由な領都の方が望ましい環境だと言える。
それに、領都のことが気になるのも確かだ。辺境伯家がだれもいなくても、問題なく領地は運営されるだろうが、それでも辺境伯家のだれかがいた方が良いときもある。
「ここにいてもすることがないですからね。それに聖竜がここにいることが明るみに出たら、きっと騒がしくなりますよ」
「それもそうね。領都に戻れば、確かにここよりかはいいかも知れないわね」
その光景を想像したのか、お母様は困ったような顔をした。
「奥方様、旦那様からの手紙が届いております」
「あら? 何かあったのかしら? あらまあ、大変。昼食が終わり次第、ユリウスに王城へ来るように書いてあるわ」
「……分かりました」
冷温送風機のことかな? ぬいぐるみも昼までには完成するし、ちょうど良いタイミングなので渡しておこう。ついでに、王都を出ることも伝えておこう。
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