第66話 到着
よしよし、今回は被害をゼロで抑えたぞ。本気を出せばどうと言うことはないのだ。さすがだな、俺。騎士たちが怪訝そうな顔をしながら魔石を拾っていた。
「ユリウス様、ちょっと」
馬車に戻ろうとしたところをライオネルに止められた。何だか目が細くなっているぞ。この目には見覚えがある。あきれた人がする目だ。
「どうした、ライオネル? 魔石の回収が終わったらすぐに出発するぞ」
「それはもちろんですが、ユリウス様が先頭に立って戦うのはどうかと思います。万が一のことがあったら、我々の立つ瀬がありません」
おっと、どうやら仕事を取られて怒っているようだ。活躍の場がなかったら「護衛なんて要らないじゃん」とか言われるのかな? そんなこと言うつもりは全くないのに。
「大丈夫だよ。そんじょそこらの魔物には後れを取ることはないよ。ドラゴンだって倒せるぞ?」
ハァァ、とライオネルが深いため息をついた。同時に首も左右に振っている。何だろう、ライオネル、ちょっと老けた?
「そうかも知れませんが、それでも危険なことに首を突っ込んではいけません」
「善処するよ」
「いえ、善処ではなく、やめて下さい」
「あ、ああ、分かったよ。やめておくよ」
ライオネルのただならぬ気迫に押されてしまった。どうやら本気でやめて欲しいみたいだ。これからはライオネルが居ないのを確認してから行動しないとね。
馬車に戻ると妹のロザリアが飛びついて来た。
「お兄様、静かになりましたけど、どうなったのですか?」
「ああ、もう片づいたよ。すぐに馬車も出発するはずさ」
ロザリアを膝に乗せ、頭をなでながら待っていると程なくして馬車が動き出した。その後は特に問題なく馬車は進み、次の町にたどり着いた。
たどり着くと同時に、再び金子が商人から贈られて来た。別に脅したわけではない。
宿に入ると、少しではあるがお酒を振る舞った。もちろんお金の出所は、商人からもらった金子である。
旅の途中はみんなで一緒にご飯を食べる。これにはロザリアも気に入ったみたいで、楽しそうにしている。俺も楽しい。屋敷でもそうしてくれたら良いのにと思う。
「それにしても、ユリウス様には驚かされっぱなしですよ」
「そうですとも。あの大きなグレートビッグボアを一太刀で倒してしまうのですからね」
「そうそう。ビッグボアもあっという間に全部倒してしまうし。俺たちがいる必要あるかなって、正直、思いましたね」
ちょっとお酒に酔って饒舌になった騎士たちが面白半分で話している。それを食い入るように聞いていたロザリア。何だろう、あとでお父様とお母様に告げ口されそうな気がする。
「お兄様、どんな魔法を使ったのですか?」
「え? 何だったかな~、思い出せないな~。ライオネルたちが倒したんじゃないの?」
ロザリアが「ウソつき」みたいな目で俺をにらんでいる。やめて、そんな目で俺を見ないで。どうやってごまかそうかと思っていると、俺の代わりに隣に座っていたライオネルが口を開いた。
「ロザリア様、ユリウス様は『ウインドブレード』と『アースニードル』という魔法を使ったのですよ。ロザリア様はこの魔法をご存じですかな?」
あ、ライオネルがロザリアに余計な知識を植え付けやがった! ロザリアがちょこんと首をかしげている。くそう、かわいいじゃないか。
「どちらも聞いたことがありませんわ。お兄様はその魔法を先生から教えてもらったのですか?」
まずい、どうしよう。そうだと言えば、今度ロザリアがカーネル先生にその魔法について聞くかも知れない。そのとき返って来る答えは「そんな魔法は教えてない」だろう。
本で読んだことにするか? いや、それだと、あとでその本を見せてくれと言いかねない。
「ゆ、夢で見たんだよ。夢で。いやー、俺には魔法の才能があるみたいでさ~」
てへぺろ、と舌を出して見せた。ロザリアとライオネルがねっとりとした目で俺を見ている。くっ、ごまかしきれないか?
「そういえば、ユリウス様はどうして魔物が来るのが分かったのですか?」
周囲で騒いでいたはずの騎士たちの視線が、いつの間にか俺に集まっていた。この場を切り抜ける方法、この場を切り抜ける方法……。
「か、勘だよ、勘。どうも第六感が優れているみたいでさ~。周囲の魔物の反応が手に取るように分かるんだよ、アハハ……」
シン……と静まり返る。だれも笑わない。ここ、笑うところだったのに。それじゃ、奥の手を使うしかないな。
「あー、だれも笑ってくれないのかー。もう魔法薬を提供するの、やめようかなー?」
チラチラと視線を送ると、明らかに騎士たちの顔色が悪くなっているのが分かった。一度でも蜜の味を知ってしまうと、もう元には戻れないのだよ。お分かりかな?
「そ、そうですよね! さすがはユリウス様!」
「ユリウス様の第六感、マジ半端ねぇ!」
「さすがユリウス様! そこがしびれる、憧れる!」
ドッと騎士たちが騒ぎ出した。その様子を見て、さすがのライオネルもこれ以上追求するのをやめてくれた。ただ一人、ロザリアだけは膨らんでいたが。
だがそれも、ひたすらなでまわして、ひたすら甘やかすことで何とかなったようである。
グレートビッグボアに遭遇するという、思わぬアクシデントがあったものの、その後の旅は順調に進んだ。王都が近づくに連れて、街道もしっかりと舗装されたものへと変わってゆく。
「ロザリア、もうすぐ王都に着くみたいだよ」
「馬車の旅がこんなに大変だとは思いませんでしたわ。お尻が痛いです」
どうやらふかふかクッションでも限界があったようである。もう少し揺れが抑えられた馬車だったら良かったんだけどね。その辺りの技術はまだ発達していないのかな? 魔道具があるくらいだから、バネくらい開発されても良さそうなんだけど。
「それじゃ、お尻が痛くならないような魔道具を作らないといけないね」
「そんな魔道具を作れるのですか?」
「んー、無理かなー?」
「むう!」
どうやら俺にからかわれたことに気がついたらしい。ロザリアがほほをリスのように膨らませた。それをつついて空気を抜いていると、ライオネルから声がかかった。
「ユリウス様、ロザリア様、王都が見えて参りましたぞ!」
馬車の窓から二人で身を乗り出すと、前方に大きな壁に囲まれた街が見えてきた。あれがスペンサー王国の王都「スペンサー」か。よく見ると、壁の外側にも街が続いているようである。その街のさらに周囲には敷き詰めるように畑が続いていた。
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