第60話 ハイネ辺境伯家でのお茶会

 シャワールームと石けんは問題なしと言えるだろう。これで訓練場の視察に妹のロザリアと一緒に行っても、嫌な顔をさせずに済むぞ。

 ついでに親方たちにも石けんの作り方を教えていると、「私も作ってみたい」とロザリアが言ってきた。「それなら一緒に作ろうか」という話になり、屋敷に戻ってから作ることにした。こちらはせっかくなので、香り付きの石けんにしようかな?


 騎士団のみんなと別れ屋敷に戻ると、使用人が手紙を持って来てくれた。どうやらエドワード君から返事が来たようである。


「えっと、おお、エドワード殿も大丈夫そうだな。それじゃさっそくお茶会の招待状を送るとしよう」

「お兄様、私も参加してもいいですか?」

「もちろんだよ。一緒に友達を呼んでも構わないよ」


 こうしてお茶会の準備は滞りなく進んで行った。今回はハイネ辺境伯家で行うので、ジャイルとクリストファーも呼ぶつもりである。みんなとも顔合わせしておいたほうがいいだろう。


 そのあとはロザリアと一緒に、バラの香りのする石けんを作ったりしながら過ごした。

 完成した石けんは素晴らしいできだった。勝手にお母様の香水を使ったので、お母様に怒られないと良いなぁ。




 数日後、お茶会の日がやって来た。朝食が終わるとすぐに自分の支度を始めた。

 ハイネ辺境伯家で一番の日当たりを持つサロンでは、使用人たちが忙しそうに行き来している。少しでも使用人たちの手があくように、自分の準備が終わるとすぐにロザリアの準備を手伝いに行った。


 ロザリアの部屋に入ると、良い香りがしていることに気がついた。この香りはバラの香りだな。


「ロザリア、良い香りがするね。バラの香りのする石けんを使ったのかい?」

「そうですわ。あの石けんで顔と手を洗いましたわ」

「なるほど。これならお母様も喜ぶかも知れないな」


 俺はひそかにお母様の分を用意しておくことに決めた。これはもしかすると、他の女性陣が欲しがるかも知れないな。売り物としても検討するのも良いかも知れない。

 そんなことを思いながら、ロザリアが着替えるのを手伝った。


 ロザリアの髪の毛は使用人が整えている。さすがにそれは俺にはできないので、洋服のリボンを結びつけたり、靴を履かせて紐を結んだりするのを手伝った。

 さすがお茶会用のドレスというだけあって、気合いが入っている。リボンを結ぶだけでも大変だ。


 ようやくロザリアの準備が整ったころに招待客が来たことを使用人が告げた。急いで玄関に向かう。

 初めてお茶会を主催したが、これは思った以上に大変だぞ。これからはお母様がいるときにしよう。


「ようこそ、エドワード殿。そちらの二人とは初めてお目にかかりますね。ユリウス・ハイネです」

「ユリウス様、お久しぶりです。紹介しますよ。ビリー・スタンフィールド男爵令息とプラトン・アルヒポフ男爵令息です。ときどき三人で集まって、魔道具の開発を行っているんですよ」

「初めまして、ビリーと呼んで下さい」

「ウワサはエドワードから聞いてます。プラトンです。お目にかかれて光栄です」


 ビリー君とプラトン君が礼をとった。どうやら二人はエドワード君と同類の魔道具大好きっ子みたいだな。俺とも気が合いそうだ。

 俺は三人をサロンに連れて行き、妹のロザリアを紹介した。


 すぐにジャイルとクリストファーが来たと連絡があったので、サロンまで案内してもらうように頼んでおいた。すぐに二人がやって来たので、お互いに紹介した。


「ユリウス様が魔道具を作っているという話は父から聞いているんですが、実際に作業をしているところは見たことがないんですよね」

「そうだっけ? 別に秘密にしてるわけじゃないんだけどね」


 ジャイルがそう言ったのは、もしかしなくても魔道具に興味があるからなのかも知れない。今度作るところを見せてあげようかな? あ、クリストファーも興味がありそうな目でこっちを見てるな。やっぱり男の子には魔道具のようなガジェットが大人気だな。


 魔道具開発の話を楽しげに聞いているロザリアは、どうやら完全に魔道具の沼にはまっているようだ。そんなロザリアの元に使用人がやって来た。どうやらロザリアの友達が到着したらしい。一緒に玄関まで迎えに行った。


「は、初めまして、メリッサ・ブライスです」

「初めまして。ロザリアの兄のユリウスです。ようこそ、いらっしゃいました」

「メリッサは私の一番のお友達ですのよ」


 ロザリアが得意げに答えた。メリッサちゃんもうれしそうだ。良い友達ができたみたいで安心した。

 玄関で挨拶をしていると、ちょうどよくファビエンヌ嬢がやって来た。


「ファビエンヌ嬢、ようこそ」

「本日はお招きいただき、ありがとうございます。こちらは私の友達のナタリー・カロン男爵令嬢ですわ」

「初めまして。ユリウス・ハイネです」

「ナタリー・カロンですわ。本日はよろしくお願いします」

「こちらこそ、楽しんで行って下さいね」


 三人をサロンへ連れて行き、そこで改めてお互いに自己紹介をして回った。男性六人に女性四人。ちょっとバランスが悪いが、気にしてはダメだ。

 最初は当たり障りのない話をしていたのだが、すぐに夏休みシーズンの話になった。


「それではユリウス様、王族が来ていたというウワサは本当だったんですね」

「そうなんだよ、エドワード。もうね、大変だったよ」

「心中お察しします……それで夏休みシーズンは会えなかったのですね」


 みんな察してくれたようで、顔が渋くなっていた。おっと、暗いお茶会にしてはダメだな。そのあとはみんながどのように過ごしていたのかを聞いて回った。

 その結果、どうやら湖で泳いだのはジャイルとクリストファーだけのようであり、他の人からも「子供とはいえ、貴族が泳ぐのはちょっと」と言われた。泳ぎたかったのに残念だ。

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