第56話 元気ハツラツ!

 午後からは予定通りに騎士団の訓練場へと向かった。ロザリアはお友達のところへ、お茶会と言う名の遊びに行っている。昨日自分の力で作ったランプの魔道具を抱えていたので、きっと見せに行くのだろう。


 俺は木箱に入れた初級体力回復薬を抱えて、カチャカチャと音を立てながら訓練場にたどり着いた。どうやら模擬戦をやっているようであり、遠くからいくつもの大きな声が聞こえてくる。さすがの迫力だ。


 邪魔をするのは良くないなと思い、先にシャワールームを作っている建物へと向かった。

 おお、外側がすでに完成している。ずいぶんと早いな。作業している親方たちに話かけた。


「ご苦労様。ずいぶんと早く工事が進んでいるみたいだね」

「これはユリウス様、ごきげんよう。騎士団の皆さんがせかすものですからね。早く作ってくれって、言われているんですよ」


 親方が苦笑している。すまないねぇ、親方。ウチの騎士団が無理を言ってしまって。そんな親方たちに、初級体力回復薬を差し入れしようかと思ったが、そこから外部にこの魔法薬が広がるのはまずいな。申し訳ないが、また今度だな。


 その後は内部を見せてもらい、どの辺りに魔道具を置くかを話した。親方は「魔道具を作ったのが俺だ」と言ったらかなり驚いていた。

 シャワールームに興味がありそうだったので、完成したら使ってもらうことにした。


 親方からシャワールームの話が広がれば、領内にシャワーが広がるかも知れない。そうなれば領内がもっと清潔になるし、疫病などが流行りにくくなることだろう。衛生面の向上はとても大事だ。


 訓練場に戻る途中で石けんを乾かしている場所も見て回った。乾燥はずいぶんと進んでおり、シャワールームが完成する頃には、石けんも完成していることだろう。これもうまく行けば庶民にも広げてみようかな? いや、それをすると、石けんを作っているところから怒られるかな? これはちょっと保留だな。




 訓練場にたどり着くと休憩時間に入っていた。秋が深まりつつあるとはいえ、みんな汗ビッショリである。そのままだと風邪を引きそうだ。心配になってきた。

 やはり早いところシャワールームを完成させて、訓練が終わったら体を洗って汗を流して、新しい服に着替えてもらうようにしないとね。


「ユリウス様、いらっしゃっていたのですね。気がつかなくて申し訳ありません」


 休憩していた騎士の一人が俺に気がついて声をかけてきた。


「良いんだよ。先にシャワールームの建物と、石けんの出来具合を見させてもらったからさ。どっちも予定よりもずいぶんと早く仕上がっているみたいだね」

「ええ。ここにいるみんなの悲願ですからね」

「大げさだな。あまり親方たちにプレッシャーをかけないようにね。焦って、ケガでもしたら大変だ。石けんももうすぐ使えるようになると思う。こっちも無理して魔法で急いで乾燥させたりしないようにね」


 周囲にいた騎士たちが苦笑いを浮かべている。

 まさかそこまでシャワールームと石けんが熱望されているとは思わなかった。もっと早く気がついてあげられたら、石けんの作り方くらいなら、すぐに教えることができたのに。


「おっと、そうだった。差し入れを持ってきたんだ」

「差し入れ?」


 首をひねる騎士たち。俺が木箱から赤色の瓶を取り出すと、それが何か気がついたみたいだった。


「それは初級体力回復薬ですよね?」

「そうだよ。でも、前回持ってきたものとはちょっと違うよ。効果は落ちたけど、飲みやすくなっているよ。どう? 一本いっとく?」


 俺は初級体力回復薬を差し出した。迷わず受け取る騎士たち。どうやら俺が作った魔法薬を疑う者はいないようだ。大丈夫かな? 少しは警戒した方がいいのではなかろうか。

 騎士たちがフタを開ける。ポン! という軽快な音が秋の空に響いた。


「それでは、いただきます」


 腰に手を当てて、一気にあおる。騎士たちの顔が、口元にほほ笑みをたたえながら歪んでいる。


「く~、元気ハツラツ!」

「これはいい。疲れが吹き飛んだぞ」

「これからやらなくちゃいけない片付けも、一気にやれそうだ!」


 ワイワイと騒ぎ出す騎士たち。明らかにテンションが上がっている。前回よりも爽やかなテンションの上がり具合ではあるが。

 騒ぎを聞きつけた騎士たちがやってきて、同じように飲んで、同じように元気になっていった。


「これなら大丈夫そうだね」

「ユリウス様、これなら毎日飲んでも大丈夫ですよ。むしろ、毎日、任務終わりに飲みたいくらいですよ」

「任務中は酒を飲むわけにはいかないですからね。その点、これなら大丈夫そうです」


 どうやら中々の評判のようである。これで任務中の集中力の低下を防ぐことができれば、より安全に任務を遂行することができるだろう。作るのもそれほど難しくないし、いけるかな? 砂糖を大量消費するのがちょっと問題だな。砂糖はそれなりの値段がするからね。


「それじゃ、この初級体力回復薬は遠出する任務のときに使ってもらえるように、いくつか作っておくよ」

「個人では買えないのですか?」

「ちょっとそこまでは大量生産はできないかな? 他の魔法薬も作らないといけないからね」

「残念です」


 シュンとなる騎士たち。そんなに良かったのか。何とかその期待に応えてあげたいところだが、今は無理だな。俺が学園を卒業して、一人前の魔法薬師として認められたときには、大量生産できるかも知れない。もちろん作るのは俺じゃなくて、どこかの魔法薬を作ってる商会だろうけどね。


 魔法薬のレシピも、魔道具の設計図と同じように、どんどん売りつける予定である。手っ取り早くこの世界に魔法薬を広げるなら、そうした方が早いだろうからね。少しでも早く、この世界の魔法薬を改革せねばならない。それが俺の使命だ。

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