第28話 遊戯

 ファビエンヌ嬢にぬいぐるみを作ってあげる約束をしたことで、ようやく騒ぎが収まった。これでおもちゃのできを確かめることができるぞ。


「まずは双六からの説明だ。このサイコロを振って、出た目の数だけ先に進むことができる」

「この四角の中を進んで行くんですね」

「そうだ。そして止まったところに書いてあることに従わなくてはならない」


 ルールはそれほど難しくないはずだ。全員がある程度理解したみたいなので、後はゲームをしながら教えることにした。それぞれ好きなキャラクターのカードを選んでもらう。


「ユリウス様、この絵もユリウス様が描いたのですか?」

「うん、そうだよ」

「ユリウス様は多彩ですのね」


 ファビエンヌ嬢が感心している。だがしかし、それは俺の本来の才能ではなくて、ゲームのスキルによるものだった。なので、そんな目で見られると、ちょっと後ろめたい気分になる。


 ガードに描かれている絵は勇者や魔法使いなど。これはいわゆる「魔王討伐双六」であった。勇者が魔王を倒す話は、絵本にもよく描かれているモチーフだ。それを双六でも使ったというわけだ。


「この最終目的地の魔王城に最初にたどり着いた人が勝ちということですね。なるほど、素晴らしい。まさにボクにピッタリですね」


 エドワード君が自分に酔いしれていた。ぶれないな。悪い子じゃないんだけど。

 そんな感じでスタートした。サイコロを転がす。出た目は三。


「いち、に、さん。えっと、宿屋に泊まって一回休み!?」

「残念でしたね、ユリウス様。その間に先に進ませてもらいますよ」


 ジャイルがサイコロを振った。出た目は一。


「えっと、魔物にやられてしまった。始まりの村に戻る」

「あー」

「ジャイル、元気出してよ」


 現在先頭を行くクリストファーがジャイルをなだめていた。うん、何だかんだで楽しんでいるみたいだ。


「ふむふむ、始まりの村に戻されるような厳しいところは最初の方だけみたいですね」

「そうだよ。ゴール間近でそれをやられたら、やる気がなくなるだろう?」

「フッ、確かにそうですね。よく考えてられている。これは面白いですね」


 普通にほめてくれても良いんだよ、エドワード君。女性陣にも楽しめるとあって、中々白熱しているようだった。

 何戦かした結果、一番上がりが多かったのは妹のロザリアだった。無欲の勝利なのか、はたまた運が良いのか。




 ある程度、双六の感触が確かめられたところで、今度はカルタを始めた。


「これは読み手が一人で、他のメンバーがこの絵柄の付いたカードを取るんだよ。この丸の中に書いてある文字が、読み手が最初に読む文字と同じになっているんだよ」

「この絵は何か意味があるのですか?」

「良い質問だね、ファビエンヌ嬢。絵は読み手が読んだカードの内容を絵にしたものだよ」

「それではこのバラの絵は、バラと関係した内容のお話になっているのですね」

「そういうことだね」


 最初の読み手は俺がすることになった。まだよく分からないだろうからね。カルタも双六と同じようにそれほどルールが難しくはないので、すぐに理解できると思う。


「それじゃいくよ。核を狙え、相手はスライム、動きは遅いぞ」

「か、か、かだよ、か!」

「スライム、スライム……あった!」


 スライムを見つけたロザリアが最初の一枚をゲットした。誇らしげに天に掲げている。これでみんなの目の色が変わった。


「ユリウス様、次を!」

「悪いけど、次はボクが取らせてもらうよ」

「えー、それでは次、たくさん咲いた、庭に広がるバラの花」

「ファー!」


 ファビエンヌ嬢がダイブした。たぶん狙っていたのだろう。ああもう、カードがぐちゃぐちゃだよ……。

 そんなトラブルがありながらも、カルタは続いていった。こちらも好評のようである。


 ある程度遊んだところで、休憩することにした。テーブルを囲んでみんなが座る。俺たちがワイワイと騒いでいる間に、すでに使用人たちが用意しておいてくれた。


「お兄様、楽しかったですわ。まだ遊びたいですわ」

「それは良かった。二人は泊まることになってるし、また遊ぶとしよう」

「今度はお父様とお母様とカインお兄様も呼びましょう!」

「そ、そうだね」


 そのメンバーでやって大丈夫かな? 主にファビエンヌ嬢とエドワード君の心理状態が大変なことになりそうなんだけど。ほら、二人が微妙な顔をしているぞ。


「ユリウス様、この遊戯は売りに出すのですか?」

「ん? どうしてだ、ジャイル?」

「あの、俺の家族とも遊びたいなと思いまして」


 そう言えばジャイルには弟と妹がいたな。一緒に遊びたいのだろう。双六もカルタも言葉の学習をサポートできるように作ってある。子供の教育に良いはずだ。


「分かったよ。商品として売りに出すことを検討しておくよ」

「あの『お星様の魔道具』もこうして商品化したのですね。すごいですわ」

「たまたまだよ、たまたま」


 そういうことにしてもらいたい。そうでもなければ、ちょっとやましい気持ちになってしまう。転生者が前世の知識を生かして物作りをしたときは、みんな同じような気持ちになっているのかな。


「最近は新しい魔道具を開発していないのですか?」

「今はしていないね。中々いい思いつきがなくてね」


 エドワード君は相変わらず魔道具に興味津々のようである。以前に「大きく描くように」とアドバイスしたのが良かったみたいで、少し大きくなったが、ランプの魔道具を再現することができたと言っていた。

 ちょっと残念そうな顔をしている。新しい魔道具ねぇ。何かあったかな?

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