第12話 探検、発見、魔物の森
「止まってくれ。これはしびれキノコだ。痛み止めに使える!」
「おおお! すぐに採取します!」
俺の指示にすぐさま騎士たちがキノコを採取してゆく。痛み止めがあれば、ケガをしても笑って後方の野戦病院まで行くことができる。もちろん、頭痛や生理痛にも効く。
「さすがはユリウス様。良くご存じですな」
「いや、ほら、俺、鑑定できるから……」
「なるほど、そうでしたな」
コソコソとライオネルと話す。俺が鑑定できることは騎士団しか知らない。悪いとは思うが、ジャイルとクリストファーも知らないのだ。
二人は俺と同じ七歳児。まだまだ子供だ。ポロッと口に出す可能性があるからね。
「ユリウス様、あの見慣れない草は?」
「あれはただの雑草だね」
「こっちの草は薬草じゃないですか?」
ジャイルは余裕が出てきたようで、一緒に素材を探し始めた。一方のクリストファーはせわしなく左右を確認している。
「うん、正解だ。持って帰ってもいいけど、保存できる魔道具を持ってないからなぁ。そうだ、この際だから、保存用容器の魔道具を作るとしよう」
「ユリウス様は魔道具も作れるのですか?」
「モチのロンだよ、ライオネル君。そのためには魔石が必要だな」
「魔石が必要だ! だれか魔物を狩ってこい!」
ライオネルの指示に「オウ!」と野太い返事があった。ガチャガチャという鎧をぶつける音が遠ざかって行く。大丈夫かな? 大丈夫だよね。うちの騎士団は強いから。
その証拠に、長い間、魔物の討伐で死者を出したことはなかった。お婆様が作った上級回復薬があったとしても、死んでしまっては効果がないからね。
その後も薬草や毒消草、しびれキノコ、粉塵キノコなどを採取して進む。そしてようやく見つけることができた。
「魔力草だ! ようやく見つけることができたぞ。ここまで見つかりにくいとは思わなかった」
「魔力草は冒険者ギルドでも高く売ることができますからな。冒険者が最優先で採取するのでしょう」
「なるほどね。栽培方法が確立していないみたいだね」
「それどころか、薬草の栽培方法すら確立してませんよ」
「あらら。ひょっとして栽培している俺って、かなりすごいのでは?」
「……もしかして、気がついておりませんでしたか?」
「……うん」
ライオネルに残念な人を見るような目で見られているが、そんなの関係ない。そんな視線をものともせずに、俺は魔力草の苗を回収した。『移植』スキルのおかげで、うまく苗を回収できた。できればもう何株か欲しいんだけど。
その後も森を巡回し、何とか合計三株の魔力草の苗をゲットしていた。できれば十株くらい欲しかったんだけど、しょうがないね。
「団長! またゴブリンです」
「またか? 迎撃しろ!」
「了解です!」
魔物の森に入ってから、どうも定期的にゴブリンに遭遇するような気がする。ライオネルが「またか」というのもうなずける。まあ、ゴブリンは単独なら弱い魔物なので、騎士団の相手にはならないのだが。
「さすがは魔物の森だけあって、ゴブリンが多いですね」
ようやく魔物の森に慣れてきたクリストファーが、周囲を警戒しながら言った。
「ゴブリンは雑魚中の雑魚だからな。クリストファーも一匹倒して、手応えを感じた方がいいんじゃないのか?」
先ほどゴブリンを倒させてもらったジャイルが上機嫌で言った。自分でも勝てると思ったのだろう。だいぶ弱らせてあったけどね。そうでもなければ、たとえゴブリンといえども、無傷で七歳児が倒せるはずがない。
でもおかしいな。
「ライオネル、この辺りは先日、魔物の討伐を行ったエリアだよな? それなのに、こんなにゴブリンがいるものなのか?」
「……確かに、何か変ですな。通常ですと、しばらくはゴブリンだけでなく、他の魔物も現れないはずです。そうでなければ、もっと頻繁に魔物の討伐を行わなければならないでしょう」
「何だか嫌な予感がするな。どこからかゴブリンの集団がこの森に移住しようとしているんじゃないか? もしくは、すでに移住してきているとか」
ライオネルが腕を組み、目を閉じた。その様子を騎士団のメンバーが不安そうに見ている。どうやらライオネルが考えるときの癖のようである。
「我々が魔物の討伐を行って、外敵がいなくなった場所にゴブリンが移住する。ありえる話ですな。すぐに斥候に呼び戻して、調査させましょう」
「そうだな。そうしてくれ」
俺の『探索』スキルに反応があった。このゴブリンの密集度は村でも作っているのではなかろうか。どこから来た。
ゴブリンの繁殖力は強いので、できる限り早めに潰しておいた方がいい。だが俺がその場所を言い当てたら「なんで分かったんだ」と騒ぎになりかねない。
騎士団にとって『探索』スキルは喉から手が出るくらい欲しいスキルだろう。安全性と情報量が段違いだからな。それがバレたら「ぜひ騎士団に!」とか、言われかねない。
俺は騎士ではなく、魔法薬師にならなければならないのだ。
ガサガサと草木が擦れ合う音がすると、斥候が情報を持ち帰ってきた。その顔には焦りの色が見られた。
「どうした?」
「団長、ゴブリンが集落を作っています」
「やはりか。ユリウス様、どうなさいますか?」
「ゴブリンの数次第だな。この人数でいけるなら潰すぞ」
ライオネルがこちらを見てうなずいた。ジャイルとクリストファーの顔は青くなっていた。
「数は?」
「およそ三十です」
「よし。ゴブリンの集落を破壊する。総員準備を始めろ」
「ハッ!」
ライオネルの号令ですぐに装備のチェックと、作戦が決められていく。多少の討ち漏らしは仕方ないとして、正面からぶつかることになった。回り込めれば良かったのだが、時間が足りなかったのだ。
すでに日は傾き始めている。そろそろ戻らないと日が暮れてしまう時間帯だった。それに魔物はしょせんはゴブリン。人数ならこちらも同じなのだ。負けることはなかった。
「それでは作戦を開始する!」
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