第13話 不吉な兆候
ライオネルの号令で騎士団がゴブリンの集落に突撃した。突然現れたガチガチの装備に固められた騎士の出現により、集落はパニック状態に陥った。その隙を逃さずに次々とゴブリンを討ち取っていく騎士たち。
俺は見ているだけでも良かったのだが、せっかくなので、魔法で攻撃することにした。この世界で生き残るために、魔物を殺す必要に迫られるときがあるはずだ。いざそのときになって殺すのをためらうことがないように、慣れておく必要があると思っていた。
「ウインドソード!」
ゴブリンの集落から逃げ出そうとしていたゴブリンの頸動脈を切断する。ちょっと「うえ」と思ったが、特に緑色の液体が飛び出すこともなく、すぐに光の粒になって消えた。恐らく魔石になったのだろう。
「まさにゲームだな。実体があるようで、ないのか……」
「ユリウス様、どうかなさいましたか?」
「いや、何でもないぞ、クリストファー」
俺のつぶやきを拾ったクリストファーが尋ねてきたが、特に不審には思われなかったようである。
逃げようとしていたゴブリンを何匹か倒していると、戦闘は終了した。思ったよりもあっけなかったな。
「いやはや、実にお見事ですな。まさかユリウス様がここまで魔法を自在に使いこなせるとは思いませんでしたよ」
「実戦で使ったのは初めてだけどね。うまく行って良かった」
「とても初めてとは思えませんでしたぞ」
さすが騎士団長のライオネル。鋭いな。だが真相にたどり着くことはないだろう。「ゲームで使っていたんだろう?」などと聞かれたら、相手も同じ穴のむじなであることがバレバレだ。
「団長、魔石の回収が終わりました」
「ご苦労。それでは日が暮れる前に戻るぞ」
ライオネルの指示の下、俺たちは帰路に就いた。
帰りの馬車の中で、気になったことをライオネルに話す。
「あのゴブリンはどこから来たんだろうな?」
「恐らくは魔物の森の奥からだと思います」
「それじゃ、魔物の森の奥にもっと大きな集落があるのかな? そこが手狭になったので、新天地を求めて外側までやってきた」
ライオネルを見つめた。ライオネルは眉間にシワを寄せて目を閉じている。ライオネルもその可能性にたどり着いているのだろう。そしてそれは厄介事であることを意味している。
「そうかも知れません。いかがなさいますか?」
ようやく目を開けたライオネルが鋭い目つきで聞いてきた。それを聞いたジャイルとクリストファーの顔が少しだけ青くなっている。
「お父様たちが帰って来るのは二ヶ月後だ。それまで待っていると、さらに状況が悪くなっている可能性がある。ライオネル、お父様に手紙を出してくれ。許可をもらい次第、冒険者に頼んで魔物の森を調査してもらう」
騎士団の斥候を使うという手もあるが、冒険者ギルドとの関係を維持するためにも、冒険者に頼んだ方がいいだろう。それに彼らは魔物の森に詳しいからね。
「どのように書きましょうか?」
「俺のわがままで魔物の森の近くを通ったら、魔物の討伐を行った場所にゴブリンを複数目撃した。不審に思ってあとをつけたら集落があったので潰しておいた。さらに集落があるかも知れないので調査をしたい。どうかな?」
俺のわがままで仕方なく魔物の森の近くまで行ったとなれば、護衛が怒られることはないだろう。
「ユリウス様の評判が下がるのではないですか?」
「俺の評判が下がるくらいで民の被害が最小限に抑えられるなら、いくら下がっても構わないよ」
「……分かりました。仰せの通りに」
「頼んだよ、ライオネル」
渋々、といった感じのライオネル。余計なことしなければいいんだけど……。この件に関しては速やかに行動しないと。ゴブリンの軍勢が一気に街や村に押し寄せることがあったら、冗談ではすまされないからな。
屋敷に戻るとすぐに魔力草の苗を植えた。この日のための準備は万端だ。俺は泥だらけになりながら、何とか日が暮れるまでにすべての苗を植え終わった。
そして泥だらけになった俺を見た使用人に怒られたのであった。
ライオネルはその日のうちに、王都にいるお父様に向けて手紙を出したらしい。そして翌日には冒険者ギルドに魔物の森の調査依頼を頼んでいた。
お金はどうするのかと尋ねたら、お父様からある程度の自由に使えるお金を預かっているとのことだった。どうやらそのお金を使って冒険者たちに依頼したようである。
それなら別に、調査依頼の結果が出てからお父様に報告しても良かったのではないだろうか? いや、それだと後手に回ってしまうのか。的確に状況判断をするのは難しいな。こんなときに頭の冴えた軍師でもいたら良かったのに。
王都から手紙が戻ってくるまでには少なくとも三日はかかるだろう。それに加えて冒険者ギルドからの調査結果が来るのには三日ではすまないかも知れない。
その間に俺は魔道具を作ろうと思っている。採取してきた魔法薬の素材を長期保存するための魔道具だ。
「このお金で鉄板を買ってきてくれ。あと、魔導インクも」
「かしこまりました」
使用人が頭を下げて、部屋から去って行く。
これで必要な物がそろうはずだ。俺のゲームの知識がそのまま使えるならば、魔導インクで書いた魔法陣に好きな魔法を封じ込めることができるはずだ。
一つ一つの魔法陣に、俺が魔法を封じ込めなければならない、という欠点はあるが、その分、汎用性が高かった。うまくいけば良いんだけど。
何せ、この世界で魔道具を作るのは初めてだからな。ちょっと不安だ。
「お兄様ー!」
トントンと小さなノック音と共に声が聞こえてくる。妹のロザリアだ。昨日は構ってあげられなかった分、今日はたくさん構ってあげないとな。かわいい妹には嫌われたくないからね。
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