第7話 秘密の花園
ガサガサと不気味な音を奏でながら揺れる茂み。ジャイルとクリストファーの顔に緊張が走る。そしてそいつが姿を見せた。
「スライムだ!」
「ひ、ひえぇ!」
ジャイルが叫び、クリストファーが怯んだ。
「落ち着け。核を狙うんだ! 動きは速くないはずだ!」
雑魚モンスター代表の一角、スライムだった。たぶん大したことはないと思う。その証拠に、護衛たちも手を出さずにこちらの様子をうかがっている。きっと俺たちに戦闘経験をさせるためだろう。
「木刀でも倒せるのか?」
「核を潰せばいけるぞ。それほど硬くないんじゃないかな?」
「ジャイル、早く倒してよ!」
俺のアドバイスにジャイルが木刀を構えた。突きの構えだ。核を一突きするつもりのようだ。俺とクリストファーは一歩後ろに下がった。
「チェスト!」
気合いと共にジャイルがスライムに突きを入れる。それは寸分違わずスライムの核を突いた。中々やるな、ジャイル。さすがは騎士団長の息子ということか。七歳児でこれだけできれば十分だ。
核を破壊されたスライムは形をたもてなくなり、ついには動かなくなった。完全勝利である。
「よくやったぞ、ジャイル。見事だった」
「ありがとうございます!」
「さすがジャイル!」
二人ともうれしそうである。そんな俺たちを護衛の騎士たちが温かい目で見ていた。
ちょっとトラブルが発生したが、毒消草の株を入手しなければ。慎重にスコップで周囲を掘り、根を傷つけないように回収する。
うん、うまくいった。本当は魔力草も欲しかったが、これ以上、ここで時間をかけるわけには行かない。すぐに俺たちは屋敷へと戻った。
その足で俺はハイネ辺境伯邸で一番日当たりの良いサロンにいるお母様のところを訪ねた。
「お母様、私もお母様と同じように花を育ててみたいです。お庭で育てても良いですか?」
「あらあら、ユリウスも興味があるのかしら? 構わないわよ。遠慮なくやりなさい」
お母様がニッコリとほほ笑んだ。貴族の趣味としてガーデニングは広く浸透している。お母様もその一人だ。庭の一角に立派なバラ園を作りあげていた。その辺りを刺激すれば、許可は下りると思っていた。
「ありがとうございます! さっそく花壇を作りますね」
「ウフフ、楽しみね」
まあ、花壇と言っても薬草園なんですけどね。ウフフ。
許可をもらった俺はそのままジャイルとクリストファーを連れて庭の片隅へと向かった。
ハイネ辺境伯家の庭は広い。それもそのはず。辺境伯というだけあって、ハイネ辺境伯家は辺境の地に家を構えている。そのため、土地だけは無駄に広いのだ。「ここから先は全部俺の土地!」と言っても差し支えなかった。
屋敷からあまりにも近いと後々拡張することができない。そう思って、ある程度遠くに薬草園を作ることにした。
「よし、この辺りにしよう」
「ユリウス様、この辺りは雑草しか生えてませんよ。もしかしてここを今から花壇にするつもりですか?」
「ひええ」
二人が悲鳴をあげた。それはそうだろう。何せ、道具は俺が手に持っているスコップだけなのだから。だがしかし、問題は何もない。
「まあ見ていろ」
俺は魔力を集中させると、土魔法を使ってあっという間花壇を作りあげた。土壌成分も薬草栽培に適したものになるように改良済みだ。魔法ってすごい。持ってて良かった前世のスキル。俺は『培養土』スキルを使って肥沃な土地を作りあげていた。
「よし、あとは持ち帰った苗を植えるだけだな」
「す、すごい! これが魔法」
「ひええ!」
さっきからクリストファーが「ひええ」しか言っていないが、口癖なのかな? まあいいや。俺は『株分け』スキルを使いながら、薬草と毒消草を植えていった。ついでに見つけたハーブ類も一緒に植えておく。これは虫除けになるのだ。
これでよし。あとは水魔法でシャワーのように水をかけて完了だ。
水魔法で生み出した水には魔力が含まれており、この水が植物の生長を促進させる作用がある。毎日水やりにくれば、早く収穫ができるようになるはずだ。
「今日の作業はこれで終わりだな。戻るぞ」
「あっという間でしたね」
「ユリウス様の魔法はすごいです!」
「いやいや、これくらい、魔法を使える人ならだれでもできるからね。全然珍しくないよ」
「そうなんですか……」
もちろんウソである。たぶん、普通の魔法使いは同じことはできない。よほど畑作りに詳しい人物でなければ無理だろう。俺がこの魔法を使えるのは、ゲーム内で植物系の素材を育てていたからである。
少しガッカリした様子のクリストファーをなだめながら、俺たちは屋敷に戻り、その場で解散した。俺は自分の部屋に戻ると、使用人に立ち入り禁止を命じてほくそ笑んだ。
俺のポケットには先ほど入手した薬草が入っているのだ。これを使わない手はない。
「長かったぞ、この四年。ようやくこの日が来たぞ」
俺は入手した薬草を使って、魔法薬を作り出そうと思っていた。
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