ロコノミシリノ⑤

「ぬへ〜……」


「あんまり、女の子が出して良い声じゃないですね」


いつものマスクな藍澤さんにため息をつかれる。


「いやー、何だかこの騒々しさが久しぶりで」


「そういえば、お久しぶりですね。いつもなら平日はほぼ毎日来るのに、珍しい」


そう、今日は週の真ん中っ……らへんの木曜日!


挿絵作業が一段落して、こころんに送って一旦審査待ちみたいな感じとなった。


なので、息抜き的なのを求めてゲーセンにぶらーり。


いや、なんかいつもと違って凄く疲れるんだよね……。


飽きやすい私に締切が精神的にお尻を叩きまくってくるから何とかできたけど。


普段だったらもっと時間掛かるんだよね〜……締切って凄い。


「いやー、今イラストのお仕事みたいの受けたんで気合い入れてやってるんだよね〜」


「へぇ〜。良いんじゃないですか。私はてっきり補習とか呼び出し続きなのかと」


「そんなに素行不良じゃないわ!」


人を何だと思ってるのやら。


そりゃ、宿題忘れるし、授業中にちょっと瞑想したり睡眠学習したりして怒られたりしてるけどさ。


「よし、ランキング行脚してくる!」


「ほどほどに」


このゲーセンのランキングがあるゲームの殆どは私がTOPに君臨してる。


だから、たまに抜かれるか同率がいたりするからその時は思い知らせるのさ、誰が王者なのかを!


「ふっふっふっ……」


「その執念を学業にも活かせば良いと思いますけど」


「えーなにか言った~?音がうるさくて~」


「はぁ……なんでもないですよ」


呆れる藍澤さんを置いてランキング行脚に向かう。


まぁ、私がアドバイスとかのイラスト描いてるから自分でライバル増やしてるとも言えるんだけどね。


強者の嗜みってやつ?


って、井の中の蛙なのは分かってますよ。良いの、私の世界はこのゲーセンで閉じてて。


『本当に?』


『世界を見なさい』


『将来どうるんだ』


『今楽しても、後で後悔するぞ』


「うるさいうるさいうるさーい!!」


過去に投げつけられた言葉がリフレインしてくる。


目の前ではゾンビたちが体液を撒き散らして倒れていく。


『カチッ、カチッ』


「あ、あれ……?」


握るゲームの銃に力が入ってリロードがうまくいかない。


「あぁ……」


画面に映る『GAME OVER』の文字。


モタツイているうちにライフが尽きてしまった。


「なんか、うまくいかないですにゃ~」


『逃げるな!』


「……っ!」


突然胸ぐらを掴まれた感覚に襲われる。


こころんの燃えるような瞳に、煮えたぎるような熱意に私の心臓が掴み上げられた、あの瞬間がフラッシュバックする。


「私は……」


『CONTINUE』の10カウントも終わりを告げていた。


「はぁ……気が乗らない……」


手に持っていた銃をもどす。


「本屋でも行こうかな」


出入口向かう。


自動ドアをくぐると、店前のUFOキャッチャーの前で藍澤さんが珍しく誰かと話してた。


誰だろ……あの藍澤さんがお店の人以外と話すだなんて興味が湧きますねぇ……。


こっそりと様子を伺う。


あれ、お相手の声も何処かで聞いたことあるような……。


「って、こころんのお兄さん!?」


「ん?あぁ、神林ちゃん。久しぶりだね。ゲーセンに遊びに来たのかな?」


「は、はい。たまたま……」


「うちのお常連さんですよ」


「あれ、そうなの?」


「ちょっ……!!」


そういう余計な情報流さないでよ!


「ゲーム得意なの?」


「そ、そんなでもないですよ〜、全然下手で」


てへっ、とはにかんでみる。


「うちのゲームの大体のトップランカーですよ」


「おぉ〜、凄いね〜!」


お兄さんが感嘆の声を上げる。


私はアハハと笑いながらも、ギリィ、と思い切り苦虫を噛み潰した。


藍澤さんめぇ〜……ここぞとばかりに……!


「と、ところでお2人はお知り合いなんですか?」


秘技話題逸らし。


「大学の友達だよ」


「それは恐れ多いですよ。先輩後輩の関係です。美野先輩はもう卒業されてますし」


「え!?藍澤さん大学生だったの!?」


「はい」


「うっそだ〜!いつもここにいるし!」


「必要分の単位は取ってますし、シフト休みの時もちゃんとあります」


「驚愕の事実……!」


「あっははは。面白い反応するね、神林ちゃん」


やばっ、素が出ちゃった……!


「じゃあ、これ聞いたらもっと驚くんじゃないかな」


「何ですか?」


「彼、eスポーツじゃ有名人なんだよ」


「え?……えっ!?」


思わず藍澤さんを2度見したら目を逸らされた。


eスポーツ番組はたまにチェックしたりしてるけど、こんな人いたっけ?


「まっ、eスポーツ時はそんなマスク姿で覇気なさそうな感じじゃないから分からないと思うよ」


「全然想像できない……」


「出来なくて良いです」


「マスク外してよ」


「嫌です」


「何か飲みます?奢っちゃうよ!」


「仕事中なんで」


「あ、歯に青のりついてますよ」


「いや、見えないでしょ」


「マスクに虫が……!」


「いませんね」


普通に目線を下に向けただけだった。


「ふむぅ……ケチ!」


「どうせケチですよ」


ネタが尽きた。


こうなれば実力行使しか……。


「くっくっくっ、2人とも仲良いんだね」


隙を伺っていたら、堪えきれなかったようにお兄さんが笑いだした。


「漫才見てるみたいだよ」


「いつも適当にあしらってるのに、何故か懐かれてるだけです」


「言い方……!」


人をなんだと思ってるんだ、ホントに!


あと、別に懐いてないし!


「冗談です。彼女はうちのゲームアドバイザーでもあるんですよ」


「げーむあどばいざー?」


「例えば、このUFOキャッチャーの筐体のこのイラスト」


「ほうほう、とり方のコツ……。なるほど、分かりやすいし、絵柄も可愛いね」


キャー、お兄さんが私のこと可愛いって!


あ、私の生み出したイラスのことね!


「これを描いてるのが彼女です」


「なるほど。でも、こういうのお店的には売上下げちゃうんじゃないの?」


「そこはバランスですね。そういうイラストがあるってことで話題になって集客も上がってるんですよ」


「なるほどね~、そういう考え方もありか。なかなかやり手な店長さんだね」


うんうん、とお兄さんは顎に手を当て納得したような声を出す。


へ~、確かに言われてみればお店的には普通はマイナスだよね~。


今まで考えたこともなかった。


好きなキャラのPOP作りを勝手にして藍澤さんに渡してから、店長から直々にお願いされるようになって、お手本とかも描いてみない?って言われて何も考えずに今までやってきてたよね。


あの店長も脳き……んっん……戦略とか縁遠そうと思ってたけど、色々考えてるんだな~……うんうん。


「ぶあっくしょい……!」


店内から騒音とともにくしゃみが聞こえた。


ちょっと背中を冷や汗が滲んだ気がする。


「っと、そろそろ仕事に戻りますね」


「あぁ、すっかり話し込んでしまって、すまないな」


「いえ、お気になさらず、それでは」


藍澤さんはダンボールを持って騒音の中に戻っていった。




「それにしても、まさか本当に会えるとは」


「うん……?」


も、もしかして……私に会いに……?


「いや、藍澤君も近くに住んでるって最近知ってね」


「あ……そうなんですね……」


ですよね〜……。


「な〜んて、本命は神林ちゃんだよ」


「うぴょ……!?」


ヤバ、変な声出た……。


なにこれフラグ立ってるの?立ってるよね?私の時代来た?


「我が妹が神林ちゃんに最近ご執心だから、兄として気になっちゃってね」


「そうなんですかね……ははは……」


イラストのせいで、とは言わない。


「だから、君に説得をしてもらいたくてさ」


「説得?」


なんの?


誰を仲間にするの?


ふむう……全く予想がつかない。


「これから少し時間良いかな?」


「えっと……はい、大丈夫ですけど」


「ありがとう、じゃあ、付いてきて」


微笑んで、背中を向けて歩き出した。


あれ、これは女子的について行っても良いのかな。


でも、なんだか悲しそうに微笑んだのがすごく気になる。


ええい、ままよ!だって、お兄さん(イケメン)の誘いだし!


私はその背を追って、歩き出した。




「や、おつかれ」


「あ、兄さ――――ん?」


「ど、どうも~……」


お兄さんの後ろからひょっこりと、ははっ。


こころんは数秒、ポカン、とした顔をしてたが、みるみると表情を険しくさせていく。


「あわわわ、やっぱり言ったじゃないですか~、絶対怒るって~!」


ほら、握りこぶしをあんなにプルプルさせてるし。


「はっはっはっはっ」


涙目でお兄さんに訴えるも、笑ってあしらわれた。


でも、さっきの鳩が豆鉄砲食らったような顔可愛いかったな~。


「とりあえず、病院内で騒ぐと迷惑ですし、場所を変えましょう」


こころんはソファーから立ち上がる。


そう、ここはこの辺では一番大きい総合病院の待合室。


「俺たちは別に騒ぐつもりはないけど。ねぇ?」


「は、はい」


同意を求めたらたので、とりあえず頷く。


「わ~た~し~は、とっっっっても怒鳴り散らしたい気分なの……!」


ですよね~……あはははは。


冷汗が背中を撫でた。


とても怖い笑顔を見た。




「で?」


ずず~っとコーヒーを一飲みして、足を組みなおし一言にすべてを凝縮した疑問の声を発せられた。


うん、絵になる。


こころんは珈琲派なんだね、私は紅茶派かな。


「そこでバッタリ会――」


「あんたには聞いてないし、それはどうでもいい」


「はい、すみません」


私は空気、私は空気。


「何が?」


お兄さんは素知らぬ顔で、こちらもコーヒーを一口。


うん、この兄妹ホント絵になるね。


私、ここにいないほうがきっと良いと思います。


逆に関係者と思われたくない。


見劣りが凄まじいだろうし……。


「話したの?」


「何を?」


「くっ……はぁ~……」


こころんは諦めたように溜まった息を吐きだして、こちらに向き直る。


お兄さんには敵わないと諦めたのかな。


「兄さんからなにか聞いた?」


「ん?何を?」


「……」


「痛い痛い痛い!」


ニコニコしながら足を踏まれた。


これぞアメとムチの同時供給!


「それくらいにしておきなさい。彼女は何も知らないよ」


「そうなの?」


「そうなのです。お兄さんに付いてきて、と言われるがままに付いてきました」


「はぁ……だったら、最初からそう言えば良いじゃない?」


「言ったよね?何をって」


「それで、どういうつもりなの?兄さん」


あ、無視された。


「どうもこうも、こころを迎えに来ただけだよ。神林ちゃんと一緒に」


「その神林をなんで連れてきたのか、てことよ」


「おや、お友達も一緒のほうが嬉しいだろうと思ったのに」


「思ってないことを言わないで」


「思ってるさ。こころの為を、いつでもね」


「なら、私が――」


「いつまでも話さないなら俺から話してしまうよ」


静かに凄みのある声でこころんを黙らせた。


こころんは悲しそうな、苦しそうな顔をして上がりかけてた腰を下ろしてうつむく。


「…………わかったわよ」


絞り出すように出された声。


ふむう、一体どんな話が……。


病院だからなんかの病気の話?でも、それが私になんの関係が?


「…………」


居心地の悪い沈黙が流れる。


とりあえず、飲み物を飲もうかとカップを上げ掛けたとき、こころんは顔を上げた。


「あのね、神林」


「は、はい」


ただならぬ雰囲気にそのままの姿勢で答える。


「私、もうそんなに長く生きられないの」


「えっ……」


手からカップが滑り落ち、カチャンと音を立てる。


カップから溢れた紅茶が周りに広がった。


呆然とする私に代わってお兄さんがナプキンで拭いてくれる。


目の前での光景はよく分かるのに、頭の中はさっきのこころんの言葉を全然処理できなかった。


「あ……う……」


話そうとしても溢れてくる何かが喉で渋滞していて声が言葉を作り出さない。


「別に……同情とか、そういうのはいらないの」


「ちがっ……」


そんなに悲しそうに綺麗に笑わないでよ。


何もかも受け入れたような諦めたような顔しないでよ。


こころんにはそんな顔してほしくないよ!


「私は……!」


『ダンッ!』と勢いをつけて立ち上がっていた。


胸の真ん中が熱くなって、思わず大きな声になってた。


「そんな風に思ってない。こころんの何を知っているわけではないけど、なんでそんな風に諦めてるの!らしくな――……」


周りからの視線を感じて、熱が一気に冷めていく。


普段から注目を浴びることに慣れていないので……。


テーブルごとに仕切りがしっかりあるとは言え、急に大きな音がして仕切りからニョッキリ頭が生えたら、そりゃ見ますよね、はい……。


「ふふっ、神林もそんな顔するのね」


「はぅ……」


急に恥ずかしくなってストンと腰を下ろして手で顔を覆う。


「安心したわ。やっと神林の素が見えたような気がする」


「そんなもんじゃありやせん……」


忘れて……今すぐ人の記憶を消し去る方法を検索して実行したい……。


ちなみにお兄さんの反応は……。


ちらっと指の隙間からお兄さんの顔を伺うと、目を伏せてコーヒーを啜っていた。


優しい!大人な対応……!でも、ちょっと何か反応が欲しかったり……。


「ありがとう、私のこと分かってるじゃない」


「そんなことないです、すみません、でしゃばったこと言いました」


「こころもね、知った最初は受け入れられずに当たり散らしてたよ」


「そ、そうなんですか?」


今の様子からは想像できない。


「そうね、私も最初は惨めったらしく、全てを恨んだわ、両親も兄さんもこの世界も神様も。よくあるお話のようにね。でも、だんだんと熱が上がりやすくなったり、体の調子が悪くなっていくと実感せざるをないのよ。あぁ、これは避けられないんだって」


遊園地の時とかのそういうことだったんだ。


「でも、ご両親は……?」


「今も諦めずに色々手を尽くして探してくれてる。しばらく顔合わせてないな。もう、いいよ、て言ってるのにね」


そう言って、また悲しそうに笑う。


そんな顔、こころんにしてほしくないよ。


お兄さんも何とも言えない顔をする。


「ここに越してきたのも最近でね、病院が近いからなんだ」


「全く、そこまでしなくても良いのに」


「少しでもこころの負担をなくしたいんだよ」


そう言って、こころんの頭をそっと撫でる。


「ちょ、ちょっと、子供扱いしないでよ」


むくれながらも、その手を払うわけでもなく、撫でられていた。


微笑ましい兄妹愛。


「でも、ここに引っ越してきて、良かったと思う……」


「そうだねー、神林ちゃんに会えたもんね」


「んな?別にそういう意味じゃ……なくも……なくもない……けど」


デレた!!!!!!!


今、こころんがデレた!!!!!!


「い、今の所もう一回!」


急いでスマホを準備する。


「嫌に決まってるでしょ!」


「ふむう……」


「あとで家のカメラで良ければコピー上げるよ」


「……え?」


「ありがとうございます!お兄様!」


心のなかにカメラにしかと保存したけど、やっぱり物理的にほしいよね!


「ちょっと待って」


「どうかしたかい、こころ?」


「いま、聞き捨てならないことを聞いたんだけど」


「妹が一人で家で倒れてたりしたら、大変だろ?」


「そ、そう言われると反論できないけど……」


ワクワク、ホクホク。


「とりあえず、あげません」


「えー!そんなー!せっしょうなー!」


「兄さんも悪ノリしないで」


「こころの初めての友達なんだから、色々したくなるのは当然だろ」


「べ、べつに――」


ここだ!


スマホを光速で操作して動画をオンにする。


「友達ってわけじゃ……ないよね?」


「そこで、本気の疑問でこちらに振らないでください!ちなみに私は友達だと思ってますよ!――え?そうなの?って顔もしないでください!」


「ふふっ」


「ちょっと、お兄さんまで笑わないでくださいよー」


「いや、こんなに楽しそうなこころをあんまり見ないからさ」


人を弄るので楽しそうとか性格捻くれてると思うんですけど。


でも、そう言われて顔を反らして赤くしてるのはめっちゃ可愛いと思います。


しっかりと録画。


でも、こんな姿見れるの今だけなのかな。


ふと、そんな事を思った。


思って、しまった。


「ちょっと、大丈夫?」


「え?あ――あれ?なんだろう?」


なんでだろう。


視界が急に霞んでいた。


手で拭っても拭ってもポロポロと目から流れ落ちるものを止められない。


おかしいな。


なんでだろう。


そっと何かが柔らかい何かが目元に当てれれた。


「ほら、あんまり擦ると赤くなるよ」


「あ、ありがとうございます」


お兄さんマジイケメン。


隣では出遅れた、と悔しそうな顔のこころん。


お兄さんからハンカチを受け取って目元を拭う。


あぁ、ハンカチから落ち着く良い香りが……!


「ごめんなさい、急に泣いちゃって。ハンカチ洗って返します!」


「いいよ、そのままで」


「洗って返します!」


私の手から取ろうとするのを遠ざける。


「わ、分かったよ」


「はぁ……」


お兄さんは渋々引き下がり、というかちょっと引かれ、こころんからはため息を吐かれた。


「それで、なんで急に泣き出したのよ」


「えっと……その……」


これは言っても良いのか……。


「遠慮せず言ってごらん」


「で、でも……」


こころんをチラチラ。


「何よ、言いなさいよ」


私の心配など余所にこころんは話を促す。


「ほら、こころもこう言ってるし、ねっ」


爽やかなウインク攻撃!素敵!


でも、もしかしてお兄さんは私が泣いた理由気付いてる……?


「すぅー……はぁー……」


よしっ。


深呼吸をして、意を決する。


「こころんが、いなくなったら、嫌だな……って思ったの」


「え?」


なんでそうやって、なんで?みたいな顔するかな~。


なんで、分からないかな。


ううん、自分の気持ちで精一杯なんだよね。


だから、周りが見えてない。


周りを気にしてないように見えて、気にする余裕がないだけなんだね。


今まではただのゴーイングマイウェイなのかと思ってた。


強引に連れ回して引きずり回して脅迫まがいだったのも時間がないから……。


「私は、こころんがいなくなったら寂しいの」


「ん?……あ、あぁ、そうよね、ロコノミの作品読めなくなっちゃうもんね。でも、安心して、できる限り書いて残しておくから。まだ出してないのもいっぱい――」


「そうじゃないよ。そうじゃないんだよ……!」


「え?じゃあ、なに、どういう意味………?」


お兄さんをチラリと見ると、首を小さく横に振った。


本当に分からないんだ。


残される家族の寂しさも、必死さも、伝わってないんだ。


「ごめん、私帰る。えっと、お代――」


「大丈夫だよ、まとめて僕が出すから」


お財布を出そうとして、お兄さんに止められた。


「えっと、ありがとうございます!」


今はとにかく帰ってやらなきゃいけないことがあるから、その言葉に素直に甘えることにした。

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