リトルレディ・ミリィの諸国漫遊録~帰宅まで、あと〇〇キロなのだわ!~

円華流(おうかりゅう)

名も無き島編

第1話 スタート地点

ザザーン・・・ザザーン・・・


「・・・ぅ・・・ん・・・」


 何だろう・・・波の音?・・・口の中・・・ジャリジャリする・・・


「────ッ!!ク、クラーケンは!?」


あの化物の事を思い出してすぐに飛び起きる。

が、目に入ったのは青い空。穏やかな海。見知らぬ砂浜。


「い、一体どうなっているのだわ!?」


私、ミリーナ・フォン・サマルオムスは自分に何が起きたのか思い出す事にした。














▼▼▼▼▼▼


アイドー共和国 第2港都市 シド


「ミリィ。本当に1人で行くのかい?」

「2泊3日の船旅だけですもの。それに、向こうでは御爺様の召使が大勢居るんですもの問題ありませんわ。」


不安そうな父に軽く手を振り、手荷物を受け取り大型客船へと乗り込む。


初等部を卒業して上等部に入学するまでの短い春期休暇。

私はそれを利用して御爺様の屋敷がある、世界貿易都市グルダに旅行することにした。


世界貿易都市グルダはこのオースチン大陸の上右、ミルズン王国自慢の港街だ。

通称「手に入らない物の無い都市」と呼ばれていて世界の4大大陸全ての港と結ばれている。


流行の発信地とも呼ばれていてグレートフロー大陸からもわざわざセイレーン大橋を渡って観光客が訪れる。

そんな有名なグルダに御爺様は住んでいる


 お会いしたのは3年前、初等部入学式以来になりますわね。  

 久々だから欲しい物を見つけたらしっかりおねだりするのだわ。

 上等部で使う杖に、新しい靴も欲しいのだわ・・・。


シドを出発した大型客船の一室で、私はそんな事をのんびりと考えていた。

この時までは。




航路も残り半分。気分転換にデッキで風魔法の訓練をする。


 うん。イイ感じなのだわ。思ったとおりの調整が出来ていますわ。


初等部・・・正式にはグラレノ魔法学校初等部。そこで3年間私は魔法の基礎を学んだ。


貴族、平民に関係なく5歳になったら『天授の儀』という物を受ける。

これは一種の魔力の有無を調べる儀式である。


5歳までに魔力があれば、この儀式で小規模ながら魔法が使えるようになる。

5歳まで魔力がなければ、一生魔法が使えないといわれている。


と言っても魔法を使える者の方が少ない。100人に1人くらいの割合だ。


そして、私は魔法が使える方である。得意なのは風を操る魔法だ。

風魔法に関しては初等部では上位に入る。えっへん。


「この流れなら・・・今日こそ成功するのだわ!」


風魔法で調子づいた私は、魔力を練って特殊魔法オリジナルを発動しようとする。

でも、「ポフッ」っと間の抜けた音がしていつもどおり魔法は発動しなかった。


特殊魔法オリジナル

これは『天授の儀』を受ける前に、自力で魔法を発動した者の極一部が『天授の儀』で授かるといわれている魔法。


特殊魔法は1人1人が全く違う魔法を授かるので秘伝魔法とも呼ばれている。


私の特殊魔法は『魔力を消費して●●●の●を作り出せる』というチョット分からない魔法だ。


「相変わらず発動しないのだわ~」


 伏字の内容を予想して使っても毎回、発動に失敗している。かなし。

 上等部を卒業するまでには発動させてみせるのだわ。


魔法の練習を終えて部屋に戻ろうとしたその時、海面が大きく揺れた。






「ややや、やっぱり護衛をつけるべきだったのだわ~!!」


客室の片隅で私はクッションを握り締めていた。

先程、海面が大きく揺れた後にクラーケンが現われた。


クラーケン。海の怪物。船喰らい。

タコを考えられないくらい巨大化した化物で遠洋で船を沈める・・・という噂。


 目撃者の大半が海の藻屑となってしまうので詳しいことは知りませんの。

 唯一分かっていることはこの船が沈むって事ですわ!


そこから先はよく覚えていない。子供の泣声。マストのへし折れる音。

客室に流れ込む海水。真っ二つに割れる船。


海の投げ出されて、海の底に沈みながら・・・意識を失ったのだったわ。


▼▼▼▼▼▼

 

「・・・た、助かったのだわ~」


 船がクラーケンに襲われたときはもうダメだぁ・・・と思いましたが、なんとかなったのだわ


でも、一体ここはどこかしら?

何処かの海岸・・・にしてはやけに小さいような・・・?


「とりあえず、誰か居ないか探すのが一番ね。私と同じく流れ着いた人がいるかもしれないわ」


近くに建っていた小屋は見た感じボロボロだ。

恐らく、今は誰も使っていないのだろう。


中をのぞいても・・・ほら、やっぱり誰も居ない。


「・・・森に入るのは後にして、まずは海岸を探すのがいいわね」


そう思い、海岸線に沿って歩く。

歩く歩く。

歩く。


「・・・」


体感一時間は歩いただろうか?誰にも会わなかった。

そして歩く方角を変えなかったのに、最初に流れ着いた砂浜に戻ってきてしまった。


別の砂浜・・・と思いたかった。

さっき調べたボロボロの小屋がその考えを許さなかった。


「・・・こ、ここ・・・無人島なのだわ~!!」


流れ着いた先は小さな小さな無人島でした。













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