第14話 その命

 目を覚ますと昨日のことが夢じゃなかったか検査薬を確認し、起きて支度をした。


『蓮華ちゃん、あなた朝食は平気なの?学生なんだから、朝は食べないとダメよ』


 祖母が声をかけてきたので「いらない」と言いかけてこの日は止まった。


 そっか。もう1人だけの体じゃないんだもんね。あたしがちゃんと食べなきゃいけないって、ネットにも書いてあったんだっけ。


 そう思うと用意されていた朝食を食べ始めた。いつもは手もつけない蓮華が食べているのを見て、祖母はとても嬉しそうだった。


 外ではすでに愛羽が待っていた。


『おっはよー蓮ちゃん!』


『おはよ、愛羽』


『ねぇねぇ、お願いがあるんだけど、聞いてくれる?』


『なにー?』


『ギューしてもいい?』


『え?は?ん、いいけど』


『やった!』


 言うが早いが愛羽は蓮華に抱きついていった。愛羽は子供のように蓮華の胸に顔をうずめている。


『うわー、やっぱ蓮ちゃんが1番大っきい。超癒されるー』


『ひょっとして、あんたみんなにこういうことすんの?』


『うーん。今まではね、玲ちゃん朝迎えに行く時にギューの時間があったんだけどね、今みんな単車だから朝のギューがなくて、したくなっちゃったの』


『子供みたい。しょーがない甘ったれだね』


 どうしよう。愛羽に言う?


『んじゃ、行こっか!』


『あ、うん』


 蓮華は一瞬打ち明けるか迷うも、この時は言えなかった。




 その日の昼だった。


『蓮華、今日なんかあったのか?』


『僕も思ってた。なんだか嬉しそうだね』


『彼氏さん元気になったのよ、きっと』


 麗桜も蓮華も風雅も、蓮華の表情からいいことがあったらしいと感じていた。


(そんなに!?そんなにあたし顔に出やすい!?一体、今どんな顔してるの?)


 すると急に玲璃が蓮華の目の前に来て顔を覗き込んだ。


『いや、いいことばっかとは限らねーぜ。あたしが当ててやんよ。ん~、彼氏に振られたかー…もしかして妊娠したとか?』


『まさかぁ!さすがにそれはないでしょ。玲ちゃん、ほんっと適当なんだから』


『玲璃の悪い所ね』


 金髪はまるで名探偵ばりのドヤ顔だが、周りは単なるジョーダンとして流そうとした。


『だよね、蓮ちゃん!』


 愛羽が当然のように相づちを求めると蓮華は顔を赤くして黙っている。


『…』


 5人は同時に「えっ!?」と驚きの声をあげた。


『ちょっと待った。マジ?』


 玲璃だけは自分の超能力的勘にも驚いている。


『えっ?本当にできちゃったの?』


 蘭菜が玲璃を押しのけ確信に迫る。


 コクン。蓮華がゆっくり首を縦に振ると、5人共見開いた目を閉じることができないでいる。だが状況を察するとみんな声のボリュームを下げた。


『えっ?どーすんだ?』


『まずは病院に行った方がいいわよ』


『そーだね。ちゃんと見てもらった方が僕もいいと思う』


『なぁ、男?女?そーゆーのいつ分かんの?』


 玲璃も蘭菜も風雅も麗桜も、初めてのことなので人のことなのに焦っている。


『ねーねー蓮ちゃん!今お腹どんな感じなの!?』


『愛羽うるさい!!』


 そんな中ボリューム全開の愛羽に4人が声を揃えた。


 全くこの人たちは、騒がしいったらありゃしない。


『でも、あれだな。まぁとりあえず、おめでと』


『そうね。先を越された気もするけど、なんだか自分のことのように嬉しいわ。おめでとう』


『元気でいてくれるといいね。おめでとう』


『俺、なんか手伝えたらなんでもやるからな。おめでと』


『おめでとー蓮ちゃん。よかったね!』


 全く、本当に、この人たちは…


『あ、ありがと』


 まだたった3日の付き合いだけど、出会えてよかったと思えていた。みんなのことを友達だって思っても、いいのかなと思え始めていた。


 もし、いいのであれば、この人たちを大切にしたいと思えていた。


 愛羽たちのお祝いモードは結局その日ずっと続いた。蓮華が階段を行く時は、愛羽が大袈裟な位つきっきりでガードしたり


『おトイレお手伝いしましょうか?』


 なんて玲璃がからかったり。お昼も愛羽の作ったお弁当の好きなおかずを1人1人譲って


『子供の為に食べて』


 なんて言ったりしていた。


 最近どんな名前が人気かとか、赤ちゃんに着せる服のサイトや妊婦についてをネットで調べたり、それぞれが勉強していた。


 蓮華は友達のありがたさや頼もしさを感じ感謝していた。


『赤ちゃんビックリしちゃうといけないから、明日からうるさくない方のバイクで迎えに来るね』


『ありがと』


『パパ、早く良くなるといいのにね。まだ連絡ないの?』


『うん…大丈夫、もうすぐ治るよ』


『じゃあ、また明日ね!』


 帰り愛羽にそれを言われた時、蓮華は少し不安に思ったがそれを出さないようにしていた。


 みんながみんな結婚し子供を産むのだと思っていて、そういう方向でしか考えていなかった。


 だが当の本人は、1通の連絡もないことに不安を抱き始めていた。




 その夜、晃一から連絡があった。


『晃一!?治ったの!?よかった。あのね、ニュースがあるんだよ』


『ニュースって何?俺も話があんだけど明日でいい?』


『え?う、うん』


『じゃあ明日、夕方連絡すんから』


『分かった…』


 それで電話は切れてしまった。何日かぶりの電話なのに、なんか冷た。あたし、心配してたのにと少し寂しい気持ちになったが、すぐにお腹の子を思い出し元気を取り戻した。


 明日この子を知ったら、きっと喜んでくれるよ。そう自分に言い聞かせるといつの間にか寝てしまっていた。




『え!?パパ復活したの!?よかったじゃん!今日会えるの!?』


『うん…』


『なんでそんな元気ないの?』


『え?元気あるよ。何言ってんの?』


 朝一、その話になり愛羽は蓮華の微妙な様子にすぐ気づいたのだが、蓮華はその胸の内を明かさなかった。


 その日、周りが前日からのお祝いモードを続ける中、蓮華は1人不安を抱えていたが、それを外に出さないように1日過ごし、放課後連絡が来るのを愛羽たちと一緒に待っていた。


 携帯が鳴ると手が少し震えてしまった。


『もしもし…』


『学校のすぐ前の駐車場にいるよ』


『分かった。すぐ行くね』


 電話を切ると蓮華は立ち上がった。


『ちょっと行ってくるね。みんな、ありがと』


 蓮華が駆けだすと、姿が見えなくなってから玲璃が言った。


『愛羽、お前行ってやれよ』


『え?でも大事な話だし2人の方が』


『バカ。あいつ今日変だったろ?今だって、まるでシメられに行くみたいな顔してたべよ。あたしら散々盛り上げちゃったけどよ、実際どうするかなんてそんな簡単じゃねーんだろうし、なんて言うかよ…』


 玲璃は言葉にできなかったが、みんな同じことは感じていた。


『そうね。みんなで行くのもアレだけど、愛羽なら適任かも』


『分かった。行ってくる!』


 愛羽は急いで蓮華を追いかけた。





 蓮華は彼の所まで走った。晃一は車の前で待っていた。


『大丈夫だった?ずっと心配してたんだよ?』


『あぁ。ニュースって何?』


『聞きたい?ビックリしないでね。あたしね、できたみたいなの』


『は?何が?』


『だからね、赤ちゃん。できたみたいなの』


『は?マジ?』


 晃一の口調には喜びの色など少しもない。それが分かりながらも蓮華は続けた。


『あたしね、考えたんだけど産みたいなって思うの。今から2人で頑張って仕事して準備すれば、ちゃんと育てていけると思うし、結婚式とかあたしは全然いらないから。色々調べたんだよ。確かにちょっと早いかもしれないけど、でも晃一とならやっていきたいなって』


『ちょっと待ってよ。それ本当に俺の子?』


 蓮華の言葉を遮って、信じられない言葉が飛んできた。


『え?』


『つーか今日、もう別れようと思ってきたんだよね。俺、お前がヤリマンなのも援交とかしてんのも知ってんし、別に本気で付き合ってた訳じゃないからさ』


『…え?』


『マジその辺のオッサンと平気でしちゃうような奴と結婚なんて正直無理だし、それが本当に俺の子かも分かんないし、ちょっと他それっぽい奴に言ってくれる?』


『何を…言ってるの?』


『だから、今日で終わり。悪いけどもう連絡してこないで』


 今、何が起こったのか分からなかった。しばらく何を言われたのかも分からなかった。でも抱えてた不安とそれが自分の中で混ざり合って、氷が溶けるような感覚でちょっとずつ理解ができてくると、同時に両目から悲しみが溢れてきた。


 すると急に音が聞こえなくなった。耳をふさがれた?誰?後ろから蓮華の耳に手をかぶせている。その手は次にゆっくりと、蓮華の手を右と左の順番に耳にあてさせた。


『何も聞かなくていいよ』


 耳を閉じる瞬間にそう聞こえた。


 そこには愛羽が立っていた。


 愛羽は助走をつけると大きく振りかぶって晃一を殴り飛ばした。晃一はいきなりのことに、ノーガードでおもいっきりパンチをくらい驚いてしまっていたが愛羽はひるまなかった。起き上がってきた所をもう1発大きく振りかぶって殴り飛ばすと、今度は馬乗りになって殴りながら叫んだ。


『あんたにこの子の何が分かるの!?どういう気持ちでそれ言えてるの!?ねぇ!答えてよ!許せない!絶っ対許さない!』


 晃一もさすがに抵抗したが、愛羽は我を忘れ手を休めず殴り続けた。


『愛羽!』


突然殴り続ける手を止められ振り向くと風雅が立っていた。


『どうした?何があったんだい?蓮華は?』


見ると蓮華がいなくなっていた。愛羽は晃一の顔すれすれに拳を振り落とし、アスファルトを殴りつけた。手が血だらけだ。


『このクソ女!おめぇ被害届出して金請求すんからな!覚えとけよ!』


『そんなことより蓮ちゃんに謝りなさいよ!』


 捨て台詞を吐きながら去っていく晃一を愛羽は最後の最後まで追いかけようとした。愛羽は多分、今まで生きてきた中で1番キレていたがなんとか風雅がそれを止めた。


『愛羽、蓮華はどこだい?』


『それが、さっきまでそこにいたのに、どうしよう』


『なんとなく想像できるけど、一体どういうことか教えてくれるかな』


『どーもこーもあのクソ男、蓮ちゃんにひどいこと言って、自分じゃない奴に言えとか元々今日別れるつもりだったとか勝手なこと言ってて』


『で、キレちゃったのかい?』


『だって許せなかったんだもん。蓮ちゃんがかわいそうだったんだもん』


『全く、君は。そうか。でも蓮華から目を放してしまったのは困ったね。急いで探そう』


『うん。ごめん』


 他の3人にも事情を話し、5人で手分けして蓮華を探した。






『豹那さん。あたし生まれてきてよかったのかな。お母さん、あたしのこと嫌いだったのかな?あたしのせいでお母さん好きなことできないし、学校でもいじめらてたし、あたしなんて生まれてこなきゃよかったのかな?こんなこと言ってごめんね。でもあたし、ずっと思ってたんだ。だから自分が生きてるのがいけないことのような気がするの』


 蓮華は生きながら密かに感じていた思いを豹那に話したことがあった。


『…あのね、蓮華。あたしが今それを決めてあげることはできないよ。蓮華の人生なんだ。お前が決めることだよ。』


『うん…』


『ただ、あんたのことだから、それが分かるまできっとこれからもそういう風に思ったり、時には死にたくなったりすることもあると思うんだよ。でもね、大切なのはそれでも生きるってことさ。大切なものを失くすこともあれば、信じてたものに裏切られることだってあるかもしれない。生きてる時点でいいことだけじゃなくて悪いことだらけさ。色んなことがありすぎて、どこからが良くてどこからが悪いのかなんて、この先もっと分からなくなってく。生まれてきてよかったのかな?分からないならそれでも生きるしかない。分かった時に、もし生まれてこなきゃよかったって結論が出てもね、それでも生きるしかないんだよ。それが嫌なら生きててよかったと思える方向に向かって生きればいい。大抵人はそうやって生きてるもんだよ。それができなかったら一生分からないままさ。だからここであたしが、なんて言っても決めてやれることじゃないけどね…あたしはあんたに生まれてきて、生きててよかったって思えるようになってほしいとは、思ってるよ』






 蓮華は、昔緋薙豹那に言われた言葉を思い出していた。


(豹那さん。あたし、またわかんなくなっちゃった。あたし本当にバカだね…)


『ダメだよ。そんなとこいたら』


 小さな子供に優しく間違いを正すような、そんな穏やかな声がして振り向くと愛羽がいた。


『蓮ちゃん。あたし一緒に育ててもいいよ。蓮ちゃんと赤ちゃんが嫌じゃなければだけど』


『は?何言ってんの?そんなことできる訳ないでしょ!バカ言わないでよ』


『本気だよ。あたし、その為だったら学校も暴走族もやめて仕事する。ウチに住んだって大丈夫だよ』


『バカじゃないの?どんなお人好しならこんな知り合って何日も経ってないヤリマンの援交女にそんなこと言えるの?信じられる訳ないでしょ!なぐさめなんていらないから』


 ソンナモノイラナイカラ


 蓮華は感情をむき出しにしていた。そんな姿を見ると愛羽は悲しくて仕方がなかった。


『蓮ちゃんはさ、今日こうなることが分かってたの?なんか今日様子が変だったって、みんな心配してたんだよ?』


『うるさい、来ないで』


『あたしね、蓮ちゃんと似たような所があったんだ。あたしのお母さん飲み屋で働いてて、昼間はずっとパチンコ屋にいたからいつも家にいなくてさ。お父さんはお母さんの不倫相手刺して捕まっちゃったし、お兄ちゃんも不良になっちゃって家にあんまいなくて、あたしはいつも1人だったの。』


『だから何よ』


『ある日ね、知らない男の人たちがお母さんにお金貸したって言って、勝手に家入ってきて家の中荒らしていったの。あたしやめてって言ったんだけど、蹴っ飛ばされて怖くなっちゃってずっと泣いてたの。なんであたしこんな目に合わなきゃいけないのかなって、あたしなんて生まれてこない方がよかったのかなって思って。それでお兄ちゃんがね、その時暴走族だったんだけど、家を出てあたしと暮らす為に暴走族をやめてくれたの。結局その後捕まっちゃったんだけど、お兄ちゃんがあの時そうしてくれなかったら、あたし今ここにいないし、お母さんと2人だったらきっとこんなに笑えてない。だからあたしがこうして生きてるのって、お兄ちゃんのおかげなんだ。それと玲ちゃんのおかげなの。』


『よかったね!あんたと一緒にしないでよ!』


愛羽は蓮華から目を反らさなかった。その真っ直ぐな瞳に見られると蓮華は目を合わせていられなかった。


『そうやって助けてもらえなかったら、今どうしてたか分からないけど、助けてもらって支えてもらって、あたしはやっと今日まで生きてるから、生きててよかったって思ってるから、蓮ちゃんがそういう風に思える為なら、あたしは学校も暴走族もやめるよ。あたしが一緒に頑張るから、一緒に生きようよ。ね?』


『いいの、もう放っといてよ』


『そこから先に行っても何もないよ?こんなことでやめる位なら、その子の命大事にしてあげようよ!』


 蓮華は学校の屋上、手すりの外側に立っていた。


『蓮ちゃんはさ、さっきなぐさめなんていらないって言ったでしょ?じゃあなんでこんな所にいるの?』


『死ぬつもりだからに決まってるでしょ!』


『違うよ』


 愛羽は少しずつ近寄っていく。だが1歩1歩しっかりと歩いてくる。


『あたしだったら、助けてほしいからそこにいると思う』


『お願い、もうやめて。どうしたらいいか分からないの』


 蓮華の目から涙がにじんだ。だが愛羽は足を止めなかった。


『止まって!お願い、来ないで』


 愛羽はまるで止まることなく一直線に従って蓮華の目の前まで来ると、力いっぱい蓮華を抱きしめた。


『もう大丈夫だよ。あたし、絶対放さないから』


 蓮華は座りこみ、顔を手でおおい泣き叫んだ。愛羽は同じようにして泣いてしまいそうなのをこらえ、玲璃が自分にしてくれたようにゆっくりと背中をなでてあげた。





 玲璃たちには見つけて落ち着いたことと、今夜は家に蓮華を泊めることを伝え、今日は任せてもらうよう連絡した。


 泣きやみはしたものの、蓮華の顔には感情がなくボーッとしていた。


『タオル使っていいから、お風呂入ってね。あ、でも下着合うのないか。服はここにあるから着れそうなのあったら使って。あたし、ご飯作っちゃうから』


 家に着くと愛羽は息もつかずテキパキと動いていた。この子も中学校の時から1人暮らしか、と思うとすごいなの一言だった。5人の中で1番ポケーッとしてるように見えるが、きっと彼女が1番こういうことができるんだろうなというのが見ていてよく分かった。部屋は綺麗だし、きっといいお嫁さんになると思えた。そういえば毎日みんなの分までお弁当を作って持ってきていた。きっとあれも好きでやっていることだろう。


 シャワーを浴び終わると夕食の用意ができていた。エビの入ったパスタとサラダにスープを作ってくれた。味も文句なしだ。


 その後2人はテレビを見ながらゴロゴロしていた。


『ねぇ、愛羽』


『なーに?』


『あたし、どうしよう』


『赤ちゃんのこと?』


『うん』


『多分、少し時間かけて考えた方がいいと思うよ』


『うん。でも、なんかスパッと決めちゃいたくてさ。最後の最後まで悩むのもツラいかなって思って…』


『蓮ちゃん。気持ちは分かるけど、それじゃあダメだよ。どっちに決めるにしても、決める以上はツラくない方なんてないと思うからさ。』


『うん…』


『あたしも一緒に考えるから、蓮ちゃんも最後までちゃんと悩んで考えようよ。子供の為にも、自分の為にもね』


『うん。そうだよね…』


『でも、あたしは蓮ちゃんはもっともっと自分の人生を楽しんだ方がいいと思うんだよね。蓮ちゃんと一緒に赤ちゃんを育てていく道も考えてるよ。でもさ、でもだよ?赤ちゃんに色んなこと教えてあげなきゃいけない蓮ちゃんが、多分まだそんなに人生楽しんでないと思うんだよね。だから悔しいけどさ、赤ちゃんは人生ってこんなに楽しいんだよ、こうやって生きるんだよって、ちゃんと教えてあげられるようになってからでもいいんじゃないかって、本当は思うよ。子供産むのは早い方がいいなんてあたしは思わないし、だから今回もし産めないって決めたとしても、そうやってちゃんと謝ったら赤ちゃんも許してくれるよ。だから、頑張って考えよ』


 蓮華はいても立ってもいられず愛羽に飛びこむように抱きついていった。声を出さないようにしているが、また泣いている。


『ごめんね。愛羽、ありがと』


 愛羽はそっと頭をなでてあげた。それから蓮華が落ち着いて眠りに入るまで、ずっとそうしてあげていた。


 誰かが支えても、信頼できる仲間が側にいてくれても、ツラいのはやっぱり本人だ。どれだけ頑張っても、そこを代わってあげることはできない。


 自分の思いなど、とても無力であることを愛羽はおもいしっていた。

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