才媛の勇者は手を放さない

立花戦

第1話―運命の交差オノミチ―

まだ子供だった頃の俺は母からカメラを撮られるの不快だった。

カメラはスマホの撮影アプリ。

よく母は当時4歳であった俺を外に連れ出してくれた。

笑顔を絶やさない人でよく遊んでくれたものだ。

そんな心優しい母を俺は嫌いになるはずがない。

ならどうして不快なのかと問われるとカメラを撮られるのが最も苦手だったからだ。


「お母さん写真よりも桜を見ようよ」


「フフッ、もう少しだけ辛抱してね。

せっかく満開の桜の下なのよ。

そんな風景を我が子を撮らないなんて…それは

もったいないわよ!」


どれだけ不平不満を言ってもニコニコと笑って母は俺との思い出をスマホで記録を残そうとしていた。


「いやだよ。外に出ているのに写真とると、つまんなくなるよ!」


「うーん困ったわね。

もう少し大きくなれば、きっと理解してくれるわよ。

だからね、せっかくの記念に笑ってほしいとママは思うわけよ。ほら笑顔をみせて」


「やなこった。

だって…とったら知っているんだ。

たましい抜けるって」


「えぇぇっ。そんな昔の迷信どこで覚えてしまったの!?」


ちなみにそれを幼い俺が知ったのはテレビで古来の人は写真を撮られると魂が抜けると見て知ったからだ。

いくら俺でもこんな話なんて信じていなかったが撮ってほしくない理由が欲しかったのだ。


「なんでもいいから、とにかく写真だけはやめてよ」


「むうぅ……仕方ない折れるしか

さそうね。

でも私は諦めないわよ。何がなんでも撮ってみせるからね」


「…それ大人がよく使う言葉の世界で言う往生際おうじょうぎわが悪いと言うんだよ

お母さん!」


振り返れば(俺はすでに忘れているが母さんは鮮明に覚えていた)いい思い出の穏やかな息子と母親の会話。

そんないつものやり取りらしいのを終えると桜狩り(桜を見ながら歩き回る)を再開する。

ここは広島県内にある尾道市おのみちしとある河川敷だ。

自宅から出ると子供の足でも気軽に行ける最寄りにある。

物心がつく前の俺は尾道おのみちの魅力を知らずにいた。いわく尾道は文学作品によく舞台とされる場所である。

曰く知り合いが言うにはアニメ蒼穹そうきゅうのファフナーというので島のモデルになっており聖地巡礼せいちじゅんれいが楽しめると興奮して語っていた。

それだけ尾道は魅力があって語れば朝になるほど多数あるのだ。

あらゆる作品にも愛されて度々たびたびと作品に出てくるほどにある。


「お母さんは、どうしてそんなに桜が好きなの?いつでも見れるのに」


「フフッ、いつでも見れるわけではないのよ。

春という季節の限定でピンクの花が咲かして心をうるおいを与えるのよ」


「うるおいって何?」


「そうね…心の疲れが消えて元気になることよ」


あの頃の俺は何を思って母――いや母さんの言葉にどう心に響いたかは今では忘却の彼方にほうむられた。

もう忘れていても琴線きんせんに触れて優しさとか母親の言葉遣いの影響を俺は多分たぶん(多く)に受けたことは間違いない。

手をつないで土手の下にある道を歩いていくと目の前で小さな女の子が絵本を大事そうに抱きかかえて走っていた。

その女の子はポイ捨てたと思しき缶コーヒーけつまずき転んだ。


「「あっ!」」


俺と母さんの声がハモる。

転んだ衝撃だったのか絵本を落とした少女は拾うよりも痛みで泣き叫ぶ。


「えぇーん!いたいよぉぉぉッ」


すると身体が勝手に動いた。

これだけは俺は今でも鮮明に覚えていた。助けないといけない!その一心で

俺は膝をついて、しゃかんだ。


「だいじょうぶか?ケガとかないか」


何をすれば助けるのか、よく分かっていなかった俺は優しく声を掛けていうしかなかった。


「足がいたい」


「そうなのか!?えーと、えーと…そうだ。お母さん何かない?」


「ええ。もちろんあるわよ。ころんでもすぐに治療を出来るように消毒液と絆創膏ばんそうこうあるのよ」


きっと自慢気にショルダーバッグから取り出したと思う。

結局は手当をしてくれたのは大人である母さん。俺がしたのは駆けつけて声を掛けた事と落ちていた絵本を拾ってあげた程度だ。


「足元を気をつけろよ」


「あ、ありがとう…ツッン」


泣き叫んでいた女の子は泣き止むと頭を下げお礼を口にする。

けど涙は止まっていたが残りというかはなをすすっていた。


「なぁ、大丈夫か?

とりあえずハンカチとかティッシュいるよな。お母さん!」


「おまかせあれよ。

そんな持っているの常識レベルな物をママが持っていないわけないわよ」


女の子はポカンとしていた。

どうして不思議そうに見ているのだろうと思っていたが成長して視野を広めた今の俺なら知っている。

変な大人と思っていたのだろう。

正直あのノリをついていくのは息子である俺でも疲れるからなぁ。

ハンカチとティッシュを女の子ではなく俺に差し出した。どうやら自分で渡せという無言の指示だと察すると

俺はそれを女の子に渡した。


「ほら、これポケットに入れておけ」


「あ、ありがとう…あっ!ママだ」


俺と母さんは振り返ると、女性が走って駆け寄るのが見える。

どうやらその人が女の子のママであるのは言動からそうなのだろう。

女の子は小さな足で母親のもとに向かってハグをする。

感動の再会であった。

頭を下げてお礼をされて娘が迷子になって探していたと説明してくれた。

何度もお礼する母親の手を握る女の子に俺は別れ際に手を振りながら。


「もう迷子になったら駄目だぞ」


もう会うことないだろうけど俺は女の子にそう告げて母さんと帰路につく。

そして一週間が経過して、また河川敷に母さんと遊びに行くと遭遇した。


「まさか、またここでお会いするなんて思いませんでした」


母さんは女の子の母親に笑顔で言う。


「まったくです」


そして朗らかに答えた。

それから共鳴とか打ち合わせでもでもしているのかツッコミたくなるぐらいに意気投合して楽しそうに話を

始めた。


「まったく、これだから大人は…。

よかったら遊ばないか?」


「えっ!?」


退屈なので連れられた女の子と鬼ごっことかでも遊ぼうと提案する。

だけどあごの下が塞がらずに驚いていた。


「そんな口を開けるほどッ!?

……俺と遊びたくなかったのか」


「ううん、違う。いっしょに遊ぼう」


俺と女の子はここで出逢った場所で再びこうして再会した。

まるで運命の交差と呼ぶべきものであると思う。

まだ陽が傾いていないけど母さんがそろそろ行くわよと促されてしまい渋々と中断せざるえなかった。


「また遊ぼうなぁ」


「うん!ワ、ワタシの名前…

かが、ちよ」


「かかちよ。俺の名前はなぁ、

せんかくしょうほう」


「せんかく…しょうほう覚えた」


お互い名前を呼ぶのが上手く舌が回らずに拙かった。なので

俺の名前を漢字で表記をすれば

栴岳承芳せんかくしょうほう

そして女の子の漢字表記の名前は

加賀千代かがちよである。


「すげぇーなぁ。一回で俺の名前を覚えるなんて、なかなか無いのに。

ほんとうスゲェよ」


「そ、そうかな…えへへ」


幼い記録なので断言は出来ないが。

おそらく心の中では千代は快く受け入れてくれたと思う。

この瞬間ここで俺と千代は友達となったのであった。

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