愉快な私になるまで

さや

第1話

私はミライ、平凡な女子高生だと思う。

誰から見ても平凡な日本人特有の黒髪に黒目で、よく人からは「綺麗な髪だね」と言われるけれど、大体そういう人たちは「自分の方が綺麗」だと思っていることが多い事を知っている。


そして、褒め言葉を言ってくれるのはスクールカーストが上位な可愛い女子達。その子たちに話を合わせて、虐められないように、浮かないようにしたーーーはずだった。


「クスクス、ふふふ……」


最近、無視をされる事が多くなった。


「ね、ねぇ……」


「きゃ!触られた!汚物から!」


そう言いながら、クラス全体が私を汚物を見る様な目で見てくる。

昨日まで、イジメなんて無かったのに。


「みんな、どうしたの?」


「ちょ、やめてよ!しゃべったら唾飛ぶじゃ~ん!」


なんて、笑いながら近づいてきて私の前にビリビリに破かれた提出用の宿題をパラパラと"床"に落とした。


「え?セツちゃん?」


「あれ~?宿題破かれてるねぇ?」


周りからクスクス、アハハと楽しそうな笑い声が聞こえる。


「これ、宿題?」


「誰がしたんだろぉ?」


「え、あ……」


誰がしたのか、そんなの目の前にいるセツちゃん以外居るわけない。

それは分かる。でも、信じたくない、だって昨日まであんなにーー「お友達じゃなーいよ!!」ガッ!!


「っ!」


唐突に腹部に激痛が走った。


「すっごいブッサイク!!」


セツちゃんが右手にスタンガンを持ってる?


「ねぇ、なんて…ソレ……」


嫌なことが頭を駆け巡る。

そのスタンガンで何をしたのかを。友達じゃないって認めざるを負えない事を。


「次は、このハサミで服を切っちゃいまーーす!」


「え…」


懐から鋭いハサミを取り出したセツちゃんがニヤニヤして私に近づいてくる。


「や、やめ……」


下がれば下がるほど、近づいてきて逃げ場がなくなる。

この教室の二つのドアを確認するが空いていない。


他の男子や女子達が塞いでいた。


「ね、ねぇ、なんでこんな事するの?」


「さぁ?なんでだろうねぇ。」


トンッと背中に壁が当たった。


「こ、来ないで……」


「そう言われてこない人なんている?」


「私たち、友達じゃないなんて嘘だよね?」


「さぁ?もう違うって言ったけどなぁ~」


その言葉に周りから、また笑いが起こる。


「ま、待ってよ、セツちゃん。」


「もう、お・わ・り。」


可愛らしくセツちゃんが微笑んだ。

モデル級に可愛い彼女の顔は、近くで見れば見るほど可愛いことが分かる。


セツちゃんと友達になりたかった一番の理由の笑顔。明るくなりたかったから、友達になりたかった。


なのに、なのにーーー


「じゃあ、いっきまーーす!!」


「いや、いやぁぁぁ!!!」


ジョキジョキ、ジョキジョキと私のカッターシャツを切っていく。

スタンガンで撃たれた体は力が入らないから抵抗が全くできない。


「やめてぇ!やめてってばぁ!!」


「ふふふ、あはは!!」


「セツちゃん止めて!いやだぁ!いやぁ!!」


どんなに泣き叫んでも、まったくセツちゃんは手を止めてくれない。

ソレどころか切るスピードが速くなってきてる。


「ね、ねぇ、セツちゃん?」


襟元まで切り終わると、私のブラとお腹が丸見えでクラスからのいろんな目が突き刺さる。

だけど、その恥ずかしさ以上にセツちゃんの持ってるハサミがどこにいくのか、予想が出来て怖かった。


「き、切らないよね?下着、きらないよね!?」


「ふふ。」


「やめて!?ねぇ、なんでもするからやめてぇ!!やめてぇぇ!!!」


どんな叫んでも鋭いハサミがゆっくり近づいてくる。


「ブラ、いっきまーす!!」


「「おぉっ!」」


男子からの期待の目が集まる。

女子はニヤニヤニヤニヤずっとしてる。


そして目の前のセツちゃんもーーー


「セツちゃん?」


「ごめん……」


「え……」


ーーーチョキッ


一瞬、顔を歪めたセツちゃんが私のブラの繋ぎ目を切った。


「い、いやぁぁぁぁぁ!!!」


ブラが落ちて、私の大切な部分が丸見えだ。


「マジかよ……見えるとこ見えてる……」


「綺麗な形してる……」


周りの胸への視線がすごく集まる。

さっきまで、ただ笑っていただけの女子も、いやらしい目で私を見ていることが直ぐに分かった。


「ねぇ、セツちゃん……もう、終わりだよね?なんで…まだハサミ持ってるの?」


「……。」


セツちゃんは笑いもせず無表情でスカートを切り始めた。


「セツちゃん?ねぇ、何してるの?」


「全裸、だよ。」


「ぜ、んら……。」


「……本当に、ごめん。」


か細い声でそういうと共に、パンツまでも切り終えられた。


「う、あ…ゔぁぁ……」


服を全て剥ぎ取られ、文字通りの全裸。

周りのみんなも驚いた様に私を凝視している。

勿論その中には、いやらしい目もある。


「ゔぅぅぅ……」


もう、下を向いて泣くしか無かった。

動かない体は、もう役には立たない。


セツちゃんから微妙に立つ様に支えられていた手が離れ座り込む。


「……じゃぁ、お次はお楽しみのぉ~鑑賞会でぇ~す!」


先程の苦しそうな顔をしていたとは思えないほどの楽しそうな表情と声で言い放った。


「かん、しょうかい?」


セツちゃんは私の呟きに応えることなく、友達がいる方へ戻っていった。


「じゃあ、初めー!!」


そういうと、男子や女子達が一気に私の周りに集まってきた。

決して触っては来ないけれどマジマジと体の細部まで見られている様で怖い。


多分、見られている様では無くて、見られてる。

本当に、全裸の私をみんなが見てる。


「う、あ……」


もう、泣くこともできなかった。

恥ずかしい、ただそれだけの感情が胸を締めていて、悲しいなんて思う暇もなかった。


「み、みないで……」


「ん、なんか言ったかこいつ?」


1番近くにいた男子が私の声を聞いてニヤニヤしながら言った。

だが周りはニヤけるばかりで何も知らない顔をする。


「たす、けて……」


誰も助けれはくれない、そんなこと分かってるけど、言わずにはいられなかった。


「さわりてぇな。」


目の前の先ほどの男子が唐突にそう呟いた。


「え……」


「お前、美人だし良い体してるから狙ってたんだよなぁ……知ってたか?お前ってセツに嫌われてたんだぜ?」


「セツちゃんに?」


「あぁ、お前はずいぶん大好きだったみたいだけどな、クラスで一番の美人だと言われてきたのに、お前が転校してきたことによって、そう言われ無くなってきたからなぁ?お前、校内でセツに並ぶ美人だって言われてるんだぜ?もしかするとそれ以上だとか、なんとか……」


「そ、そんなわけ……」


「うそじゃねぇよ。な、みんな?」


男子が問いかけると、周りの人たちも同意の声をあげる。

勿論、セツちゃんも「アンタなんか嫌い」と目の前で言った。


「そっかぁ……私嫌われてたんだぁ…初めて知ったな……」


あの時、苦しそうな顔してたから無理矢理やらされてるのかと思ったけど、そうじゃ無かったみたいだ。

とっても、とっても悲しいな。


「とても、悲しいよ。」


「でも、事実だからしゃーないだろ。」


「そうだね、事実だもんね。ねぇ?セツちゃん。」


私はセツちゃんに微笑みかけた。


「なんで笑ってんの?」


「ううん、何でもないよ。」


不気味がるセツちゃんから男子に指示が降りた。


「気味悪いから触っても良いよ。」


「お、リョーカイ!」


そう指示が下りるや否や、さっそく一つ結びにしていた髪を解いかれた。


「よし、これで俺好みだな。お前はおろしてた方が似合うぜ。」


そう言いながら、私の先を触ろうとした瞬間だったーーーーバンッと物凄い勢いで扉の開く音が教室中に響いた。


「な、どうなってるんだ!?」


扉には誰もいない。その事実に誰もが慌てふためく。

たった一人を除いては。


「ふふふっ私、怒っちゃったぁ~。セツちゃんの事許せないかも?。」


"愉快な"私が弾んだ声で立ち上がる。

私は、空中に浮いて見ている。


「し・ん・じゃ・え。」


愉快そうに手をセツちゃんに向かって翳した。


「なにしてーーーー」


ーーグサァ!!


「グフッ!」


セツちゃんの言葉が終わる前にもう一人の私が発動した超能力で作り出された槍に殺された。


「え、セツ…セツ!!」


周りの人たちが呼びかけるが全く反応がない。

血がどくどくと出ている、それだけだ。


「セツちゃんはもう死んじゃったよ~?」


悲しい。普通の私は悲しいよ。

でもなんでかな、ものすごく愉快な気分になってきた。


「ねぇ、"普通"の私?」


愉快な私が、普通の私に問いかける。


「魂融合、そろそろしない?」


『いいよ。今、とっても愉快なの。』


「じゃあ、きまぁり!」


愉快にそう言うと、私は自分の体に戻って"愉快"な気分で笑った。


「みんな、し・ん・じゃ・え!」


指を鳴らすと全員に向かって全ての槍が飛んだ。

悲鳴をあげる暇もないくらい即座に貫いて静かな教室になった。


真っ赤な真っ赤な教室で全裸の私が愉快に笑ってる。


普通じゃ無くなってしまった私はどうなるのだろう。

愉快な私がなんで二重人格みたいに居たのか分からない。

超能力が使える理由も何も、私にはわからない。

でも、なんでかな愉快な私が心の中で言うの。


『気に入らないならみんな、殺しちゃえ』ってね。


超能力が使える私に勝てる人なんているわけないよね。

だって、もうーー


「人を殺すのってこんなにも気持ちよくなれるんだなぁ……」


魂が、融合しちゃったんだもん。


これから、きっと私を殺しにやってくる獲物がたくさんいるからソレで遊べるの、楽しみだなぁ。


「ふふふ、ふふふふふふ。」






ーーーー




『⚪︎月⚪︎日、大量殺人犯の死体が発見されました。』


テレビに映る大量殺人犯は、全裸で愉快そうに微笑んでいた。


そしてソレを見た、ミライに似た容姿をしている女性もーー


「あぁ……本当に愛おしいなミライちゃん。」


ーー異常なほどに愛の含んだ微笑みを浮かべていた。

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