脅迫され始まった恋人関係は永遠に続きますか?

星海ほたる

本編

脅迫魔

第1話  美少女に脅迫された!?

 高校一年生の俺は学年1位の成績を持って彼女なしのエリートな陰キャである。

 今日は家の近くにある行きつけの古本屋でラノベを漁っていた。

 奥の方までズラッと並ぶラノベを確認した所で俺の目に入るのは18🈲コーナのカーテンの隙間から少し見えるヒャッハーなヤツである。

 監視カメラがあるので入ることはできない!

 だがしかし、通り過ぎるフリをして少し覗けばいいのだ!

 俺はヒラヒラと揺れるカーテンの隙間を目で捉えながらヒャッハーなコーナーの前を何度も往復する。

 何周かしていると背後から重たい視線を感じ振り向くと。


「ねぇ君……」

「んッ!!?」


 目の前に立っていたのはクラスメイトの長谷川琴葉はせがわことはだった。

 彼女とはなんの接点もないし話したことも一度もない。

 でもクラスの男子生徒が「琴葉ちゃん可愛いよな〜」ってよく言っているのを耳にする。


「……あれ? 長谷川さんじゃっ、どうかしたの?」

「どうかしたの? じゃないでしょ。君、今ここ覗いてたでしょ」


 長谷川さんが言う『ここ』とは18🈲コーナーのことである。

 わかってる、わかっているのだけど。


「えっ……。ここってどこ? あぁ、ラノベコーナーのことね! 恥ずかしいな〜」

「私、君がチラチラ覗いてるの動画にとってあるんだけど〜」

「へぇ?」


 なんてことだぁぁぁぁあ!!!

 もしもこんなことが学校で噂されれてしまえば俺の楽しい高校生ライフは終わっていまう……

 ここはなんとしても口止めしないと俺の高校生ライフが一瞬にして崩れ落ちてしまう。


「長谷川さん……。頼む! 誰にも言わないで欲しい!」

「嫌だ」


 この女、案外手強いかもしれない。


「そんな動画持っててもさ、長谷川さんにメリットないと思うんだけど?」

「そんなことないよ?」

「なんで」

「これから君を脅迫するから」


 は? 今なんて言った。

 まさかこの子、俺を脅迫してこき使ったり金をせしめたりする気じゃぁ……。


「ここじゃなんだから外で話そうよ」

「あぁ……」


 この子俺に何を要求するつもりだ? 金? それとも奴隷ってか?

 俺は長谷川さんに大人しく着いて行きおしゃれなカフェに入った。

 普段なら絶対来ることもないであろうリア充の溜まり場。


「さっきの話の続きをします」

「は、はい」

「ゴホン……私と付き合いなさい」

「え?」


 聞き違いだろうか?

 いや、はっきりと聞こえた。


「ごめん。意味がわからないんだけど」

「私、最近やたらと男子に告白されたりしていちいち屋上や教室で待つのがめんどくさいだー」

「はぁ……。で、なんで俺と付き合うってことに?」

「君なら私に興味もなさそうだし何でも言うこと聞いてくれそうだから。それに彼氏がいるって言ったらもう告白されなくて済むしね」


 結局、奴隷みたいなもんじゃないか……


「ということで今日から私は君の彼女。好き同士じゃないってことは誰にもバラさないこと」

「わかった」

「もしもバラしたら……」

「わかってるから!」


 こうして俺と長谷川琴葉はせがわことはは嘘の恋人同士になった。







 ――月曜日の朝。

 俺はいつもと変わらない時間に家を出た。

 俺の家は母親と俺の二人暮し。

 父親は俺が小さい頃に家を出ていってしまって一度も会ったことがない。

 でも別に父が嫌いという感情はなく今十分幸せなのでどーでもいいって感じ。

 母は夜遅くまで働いて帰ってくるので苦労しているかもしれないけど。


 俺が通う学校は家から徒歩二十分くらいの場所にある公立高校。

 偏差値も普通だし大きさも普通の学校。

 学校に着くと門の前に先生が立っていて頭髪や身だしなみを確認している。

 髪を染めていたりピアスをしていたりすると学校には入れてくれない。

 まぁ俺には関係のないこと。

 自分のクラスの教室に入り席に座ってラノベを読み始めると長谷川さんが話しかけてきた。


「おはよう。今日から彼氏よろしくね」

「あぁ」


 すると長谷川さんは仲のいい女子グループに入っていって楽しく会話を始めた。

 すると女子の視線が俺に集まりぞろぞろと近づいてくる。

 とっさにラノベを締まってケータイをつつくフリをした。


「ね〜 氷高ひだか君。琴葉と付き合ってるんだってぇー?」

「あ、うん」


 話しかけてきたのは長谷川さんの友達の早乙女栞さおとめしおり

 彼女も顔が整っていて男子に人気な女子で見た目は金髪のギャル。


「ねぇ、氷高君って琴葉のどこに惚れたの?」

「えっ!?」


 女子の視線が俺に集まり長谷川さんは頑張れといった表情。

 突然すぎて何も思い浮かばない。


「可愛くて……。少しSな所かなぁ〜」

「ほぉ!」


 女子達は俺の回答に笑っている。

 でも長谷川さんはあまり納得がいってない様子。

 なにか変なこと言ったか? 仕方ないじゃないかまだ彼女について何も知らないんだから。


「で、二人ってお互いなんて呼び合ってんの?」


 早乙女さんの質問に長谷川さんが答える。


「私は氷高くんって呼んでる」

「じゃあ氷高くんは?」


 八乙女さんが俺に振ってきた。


「俺は長谷川さんかな……」

「二人ともめっちゃくちゃピュアじゃんか!?」

「だってまだ付き合ってちょっとだからね……」


 それを聞いた女子達はケラケラ笑いながら僕の席を離れていった。

 普段は女子と話すこともないからむちゃくちゃ緊張した。






 その日の放課後。俺は長谷川さんと一緒に下校していた。

 俺の横を歩く長谷川さんはいい香りがして今にも俺はぶっ倒れそうだった。

 この子が俺の彼女……


「ねぇ氷高くん。今日はありがとう」

「ああ。俺ももっと長谷川さんのこと知ってないとやばいかも」

「うん。じゃあ今から氷高くんを脅迫します」

「え?」

「私のことは琴葉って呼んで。さもないと……」

「わかってるわかってる。じゃあ俺は零でいいよ」

「うん」


 俺の彼女はたまに脅迫してくるけど、結構可愛いところもあるのかもしれない。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る