第32話 命を救うための魔法創造


マジでギリギリの状況だったな...!


俺が全速力で走って最奥の大空間に到着したら、あと一歩でギルマスがゴブリンのような魔物に殺されそうになっている瀬戸際の状況なんだから。びっくりして思わず間に入ってその魔物を殴り飛ばしてしまった。おそらくそれで正解だっただろうが、危ない状況にもほどがあるだろ!!



「そうだ...!ゲングさんはどこですか?!!」



俺はギルマスにゲングさんの居場所を尋ねる。正直ゲングさんの安否が心配すぎてぶっ飛ばした魔物について今はどうでもいい。それに男性冒険者2人もポカーンと呆気にとられた顔をしていたが今は構っている余裕はない。



「あ、ああ。ゲングなら後方の安全なところでカレンとニーアが治療しているが、正直助かるかどうかは...」



それを聞いてすぐに後方へと視線を向ける。

大空間の端の方で女性冒険者2名が必死に魔法を使っている様子が確認できた。

もう一人の女性冒険者は2人を守るように武器を構えている。



俺は急いでゲングさんのいるところへと向かい走り出す。

現状において最優先はゲングさんの安否確認、および治療だ。



「ゲングさんの容体はどうですか?!」



俺は回復魔法による治療を行っていたカレンさんとニーアさんに声をかける。彼女たちの表情からゲングさんの容体が良くないことは察しが付くが尋ねずにはいられなかった。


護衛をしていた女性冒険者が急に現れた俺に一瞬身構えるが、敵ではないと分かるとキョトンとした顔でこちらを見つめていた。



「重症すぎて私たちの回復魔法じゃとても治療できません...ってあなた誰ですか?!」


「Eランク冒険者のユウトです。二人でも無理そうですか?」


「Eランク?!何でここに?!?!」


「今はそんなこと後回しです!で、どうなんですか?!」


「え、ええ。二人でも厳しいです。もっと高位の回復魔法、それこそ神聖魔法でないと...」



神聖魔法って何だ?常識提供さん手短に教えてくれ!!



《神聖魔法とは聖魔法に区分される魔法で、神への信仰心を用いて発動させる高位の回復魔法のことを俗に神聖魔法と呼びます》



なるほど、つまりは単純に高位の回復魔法って認識で大丈夫か。

神への信仰心となると、おそらくこの世界では神官とかそういう人じゃないと使えないということかな。



「くっ、そうなると回復ポーションでも無理か...」



回復ポーションも重症の傷を完全回復できるだけの効果はない。

ということは現状だとゲングさんの治療は完全に詰んでいるということか...



ゲングさんは腹の真ん中に何かに突き刺されたような傷があり、そこからは現在も絶えず鮮血が流れ出ている。急所は何とか外れていたので即死ではなかったのは不幸中の幸いかもしれない。しかし医学の知識が一般人程度の俺でもこの出血量ではもう長くはもたないことは理解できる。


聖魔法はあまり練習する方法がなかったのでレベルも低く、初級回復魔法『ヒール』しか使ったことがない。鑑定していないので確実ではないが、俺よりも明らかに聖魔法のレベルが高そうな2人にさえも治療できないとなると、もはやどうしようも...






いや、待てよ。


『ヒール』で治療不可能なのであれば、治療可能な新しい魔法を作ればいいのではないか?

そのために実験や検証をし続けて、最終的に魔法創造のスキルまで手に入れたんだから。



俺は何一つ迷うことなく新しい回復魔法を開発しようと試みる。少しでもゲングさんを治療できる可能性があるのであれば何でも挑戦してみるべきだ。それこそ今は一刻を争う状態なのだから迷ってなんていられない。



俺は即座にゲングさんの体に手をかざし自身の魔力とイメージ構築に集中する。



「ちょっと!何してんのよ?!」



薄赤髪の女性冒険者が僕の行動に困惑している。しかし俺はそれを無視し、魔法構築にさらに集中していく。今はわざわざ説明をして彼女たちの同意を得ている時間はない。



今回イメージするのは瀕死状態であろうと完全に治療することが出来る完全回復魔法。

具体的な工程を順番にイメージしていく。



まずは傷口周辺の汚れや菌などを浄化、殺菌するイメージ。

次に体力を回復させながら、ゲングさんの自己治癒力を最大限引き上げるイメージ。

最後に自己治癒によって腹の傷が完全に塞がっていき、傷が消え去るイメージ。



俺が知っている医学の知識やイメージを総動員し、このように明確に傷が治癒していく過程をイメージする。イメージをより強固に確立させていき、そしてそのイメージを一つの魔法として昇華させる。



「フルヒール!!!」



魔法の感覚はヒールと同様だが、軽傷であろうと重症であろうとありとあらゆる傷が一瞬にして治癒していく、そんなイメージが込められた完全版のヒール。使用魔力量も相当なものであるが、効果は絶大であった。



「えっ...嘘...」



俺の発動した魔法によってゲングさんの傷が次第に癒えていくのを女性冒険者3人は目の当たりにし、目を丸くして驚いていた。



「これって...まさか、神聖魔法...?」



上位の回復魔法のことを神聖魔法と呼ぶのであればこの『フルヒール』も神聖魔法なのだろうが、神への信仰心なんて関係ないから神聖魔法ではないと思う。まあそんなことを訂正している場合ではないけれど。



ゲングさんの傷は俺の魔法によって完全に治療された。

何とか山場を越えることが出来たようだ。



「んっ、んん...」


「げ、ゲングさん?!大丈夫ですか!?!?」



容体が安定したことによってゲングさんの意識が戻ってきた。もちろん傷は癒えても失った血が戻ってきているわけではないのでおそらく意識は朦朧としているだろう。



「ゆ、ユウト、か。...そうか、お前に助け、られたのか」


「喋らないで!ゆっくり、安静にしていてください!!」



俺がそう告げるとゲングさんは少しぎこちない笑顔を見せる。

そして何かを伝えようと気力を振り絞り、ゆっくりと口を開ける。



「ユウト...、みんなを......助けて、くれ...」


「もちろんです!全力でゲングさんも、みんなも守ります!!」



俺の返事を聞くと安心したような表情を浮かべ、ゆっくりと目を閉じた。

呼吸をちゃんとしていることを確認すると、これでもう大丈夫だとふぅっと息をつく。

ゲングさんを救えて...本当に、本当に良かった。



だが、まだ状況は危機的であることには変わりない。

あの魔物をどうにかしなければ状況が完全に変わることはないだろう。



俺はゲングさんを3人に任せてギルマスたちのもとへと戻る。



絶対にあの魔物を倒して、みんなと一緒に無事に町へ帰る。

それが今、ここで俺がやるべきことなのだと決意する。


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