第2話

 午前の授業が終わるチャイムが鳴る。


 誰よりも早く教室を出た明日華は弁当箱を両手に階段を駆け上がる。


 屋上前の階段で人がいないのを確認。


 昨日のように鍵を開け、すぐに扉を開ける。


 「スロー、クイッククイック。スロー、クイッククイック。スロー、クイッククイック。ターン」


 待ち人は積まれた本の周りを傘を相手に社交ダンスをしていた。




 「「いただきます」」


 明日華の近くに座り弁当箱を受け取ったカーマ。


 静かに告げると風美は少しずつ、食べるのに対しカーマは口を汚しながらどんどん食べる。


 「カーマ」


 「ん」


 「何で踊ってたの?」


 「なんかいいから」


 「なんかいい……」


 「そっ。なんかいいんだよね」


 「ふーん」


 「明日華!」


 「な、なに」


 「この唐揚げおいしい! 昨日の卵焼きの次においしい!」


 「……くすっ。 ありがと」


 「これ誰のなんだ」


 「誰のって?」


 「誰がこれ作ってるんだ」


 「? 私だけど」


 「まじ! 明日華、ご飯作れるのか」


 「小さいころから料理してたから」


 「なんかいいから、好きなの」


 「そうだね。料理してるとなんかいい」


 カーマは自分の弁当箱をカラにして明日華が注いでくれたお茶を飲みほした。


 「ぷふ~。ごちそうさまでした」


 「おそまつさまでした」


 食事を終えたカーマは積まれた本の一冊を手に取る。


 ページを開き、素早く読む出すカーマの横で明日華はチマチマと食事をすすめる。


 ぺらっ。ぺらっ。ぺらっ。


 カーマの目は一ページずつ目を離さず読んでいく。


 「ごちそうさま」


 手を合わせて明日華は食事の終わりを告げる。


 根気よく読み込むカーマの本が気になり、のぞき込もうとした風美。


 「よし」


 明日華がのぞく前に本を閉じたカーマは本をその場において立ち上がる。


 立てかけていた傘を手にすると屋上に入ってきたのと同じように、


 「スロー、クイッククイック。スロー、クイッククイック。スロー、クイッククイック」


 カーマを眺めていた明日華だが、食事をした直後で睡魔がやってくる。


 ゆっくりと目を閉じた明日華はそのまま眠ってしまいました。




 眠りについた明日華は夢を見ました。


 それは夢と言うにはすぐに終わる、一瞬の出来事。


 初めてカーマと会った時、流れる長髪、吸い込まれそうな瞳、忘れもしない唇の感覚。




 「明日華ー。」


 「ん~」


 「明日華ー。 明日華ー。 起きろー」


 「……ふぇっ!?」




 目を覚ました明日華は目と鼻の先にいたカーマの顔に思わず、変な声を上げた。


 「えっ!? 何っ!?」


 「鐘がなったから、もう時間だと思って」


 「鐘……そっか。 もうチャイムなったのか」


 弁当箱を持って立ち上がる風美。


 「そんじゃあまた明日」


 「……そうだ」


 「ん」


 「明日教えてよ」


 「何を」


 「ダンス。 一緒に踊ってみたい」


 「本当! やったー!」


 明日華の提案にカーマは両手を上に伸ばすように、喜びを体でも表現した。


 「それじゃ」


 「明日なー」




 一軒家に帰り、自分の部屋に帰ってきた明日華。


 私物のパソコンを起動し、動画サイトの【社交ダンス】と検索する。


 うかばれた動画たちのうちの一つを再生する。


 その動画では大人の男女がお手本のように流れる動きで舞っていた。


 明日華はつけた動画を見つめる。


 動画が終われば、もう一度最初から再生する。


 窓から、空を見上げた明日華は星空を見つめた。


 「明日はまだかなー」




 屋上への鍵をピッキング。


 勢いよく扉を開ける。


 三回目の屋上侵入。


 まだ三回目だが、手つきが慣れてきたと明日華は思った。


 「明日華ー」


 明日華を呼ぶ声に視線を向けると、


 「おいっすー」


 長髪の美人、カーマが出迎えてくれた。




 「はいこれ」


 明日華は手にしたビニール袋をカーマに手渡した。


 受け取ったカーマは首をかしげる。


 「なんこれ」


 「今日は動くからかるくしとこうと思って」


 ビニール袋に入っていたのは三つ別々のパン。


 焼きそばパン、メロンパン、あんぱん。


 「食べていいの」


 「メロンパン頂戴」


 「ん」


 昨日のと同じ場所に座った明日華とカーマ。


 「「いただきます」」


 明日華は袋を開けるとメロンパンを少しずつ口にし始める。


 カーマも袋を開けてあんぱんを食べ始める。


 おいしそうに食する明日華に対し、カーマは食べてる最中に微妙な表情に変わる。


 焼きそばパンを食べているときもカーマは首をかしげる。


 「ごちそうさまでした」


 「? ごちそうさまでした」


 「? 変な顔してどうしたの」


 「いや、おいしかったんだけどね」


 「うん」


 「最近食べたのよりもなんか……」


 「よくなかった」


 「ん~。 あっ、そっか」


 「どうしたの」


 「昨日もその前も明日華の手作りだったからおいしかったんだ。 そうだそうだ」


 カーマが口にした言葉を理解した明日華は徐々に頬を赤らめる。


 「ダンス!」


 突然立ち上がった明日華にカーマは、


 「んへあ」


 と少なからず驚いた。


 「昨日約束したでしょ! ダンス! 教えて!」


 ごまかす世に声を上げて、カーマに右手を差し出した。


 「……うん!」


 じっと明日華を見つめたカーマは力強く、右手で握り返した。




 「手をだして、足はこんな感じで、姿勢は綺麗に」


 カーマが一通り教えると明日華の背後から両手をとった。


 「フォークダンスなんだ」


 「なんて言うか、そんな気分。 ダメだった」


 「ちゃんと教えてくれるならいい」


 「OK」


 カーマと明日華が右に左にステップを踏む。


 向き合って、お互い片足の踵をたて、体を傾ける。


 明日華がカーマの背後から両手をとる。


 向き合って、お互いが片足の踵をたて、体を傾ける。


 カーマの二かっと、歯を見せる笑顔に明日華は「ぷっ!?」とふいてしまう。


 それからは時間が許す限り、同じ動きを繰り返していった。




 「じゃあ、また明日」


 「また明日」


 挨拶を交わし、明日華は屋上を後にした。


 残ったカーマはしりもちをつき、両手をお尻より後ろにつき、ゆったりとしていた。


 「一応聞いておくけど、何」


 カーマの横にはカーマと同じ髪色をした長髪をツインテールにしている少女がいた。


 カーマとは違い、きりっとした目つきが特徴で眉もカーマより太め。


 長袖のブラウスとひざ丈まであるスカートを着こなし、ひもで縛った黒いブーツを履いている。


 「仕事が入ったから伝えに来たの」


 返答に対し、カーマは「はぁぁぁ……」と深いため息をついた。


 「やんなきゃダメ」


 「お姉ちゃんしかできない案件なんだから、それに最近仕事貯めすぎ」


 「あ~あ。 いっそのこと敵対組織全部つぶそうかなー」


 「まったく。 ほかにもお見合いの話とか来てたよ」


 「まーたー。 あの親父まじうるせぇ」


 「行こう」


 「明日の昼までには終わらしたいな~」


 立ち上がったカーマは伸脚を始める。


 「明日華、さん……か」


 「ん」


 「こっちの話」


 「? うっし準備体操おしまい」


 「はいこれ」


 カーミアはカーマにホッチキスでとめられたプリントの束を渡した。


 「仕事のことまとめといたから」


 「あんがと」


 カーマはプリントを受け取ると光り輝く姿に包まれる。


 飛び上がったカーマの体が巨大化、ロケット弾の如く空に飛び出した。

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